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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第35話 配信裂覇


 今まで????と記載され、謎に包まれていたスキルが突然使用可能となった。


 その名も『配信裂覇』。


 中二病なのか何なのか全くわからない名前のスキルの効果はなんと、配信を視聴者している人数が多ければ多いほど攻撃の威力が上昇するというとんでもないものだった。


 そして、この事実は、俺の視界を通じてすぐに全世界に配信されることとなった。

 当然、視聴者たちも自分たちが間接的とはいえ、この戦闘に関わることが可能と理解し始めた。


 〈『神速』さんのスキルの視聴者の数って……俺たちのことだよな?〉

 〈ああ、間違いなくそうだろう〉

 〈ということはあれだな……〉

 〈ああ、俺たち力が必要だってことだな〉

 〈ほう……〉

 〈そうか、いよいよか……〉

 〈そこまで俺たちのことを必要とするのなら……〉

 〈力を貸してやろうかな(ニヤリ)〉

 〈久々に本気出しちゃうぞ(ニチャア)〉


 いやいや、お前ら視聴してるだけだぞ。


 ちなみに、今の配信の同時接続者数は3,628,214人。


 三百六十二万人を超えている。


 えーと、このスキルは一人につきどれだけのダメージを叩き出すんだ?


 何か恐ろしくなってきたぞこれ。


 とにかく、打つ手はもうこれしかないのは間違いない。

 そして、このスキルを叩き込む標的となるアトランティカの方へ視線を向ける。


 ……ん?何か様子がおかしいぞ?


 落下をし続けるアトランティカは、相変わらず猛毒の苦痛のためか暴れ続けてはいるが、先ほどまでの様子と比較すると、わずかではあるが違和感を感じる。


 苦し気な咆哮を上げ続けてながらも、その口の中からは溢れ出そうなほどに青紫色の光が激しく輝いている。


 ……これは、ブレスを放つつもりだな。


 それに加えて、アトランティカの周囲にはさっき見たのと同じ形状の魔法陣が形成されていく。


 あいつ、海に入るのを妨害されて再生ができないから、破れかぶれで攻撃をするつもりなんだろうか。

 

 水の弾丸の乱射に関しては、さっきの攻撃を受けた時に、アルカイドの効果で耐性を獲得できているから問題は無い。


 しかし、それと同時にブレスを放たれてしまうとなれば、話は別だ。

 現在、俺の背後ではアイリーンさんが最後の攻撃の準備をしている真っ最中。

 そこにブレスを放たれてしまえば、この作戦も失敗に終わるのは確実だろう。


 それを防ぐにはここで待っているわけにはいかない。


 そうしている間にも、アトランティカはどんどん落下してきており、後一分もしない内に海面に落下するだろう。


 となるとほとんど猶予は無い。


 アトランティカの口に中の光はどんどん輝きを増しており、いつブレスが放たれてもおかしくない状態だ。


 あいつが海面に落ちる瞬間を狙うのは愚策だろう。

 その前にブレスを放たれてしまう。


 じゃあ、こちらが向かうしかないか……

 だとすれば、手段は……


 まあ、あれを使うしかないだろう。

 俺が持っている能力であんな上空まで移動できる手段なんて限られている。


 

 ……ふと、アイリーンさんの方へ視線を向ける。


 『極大魔法合成処理スキル、完了まで後……一分。大賢者の魔法攻撃力上昇効果を全て炎系統上昇へ転換……スキル【大賢者の叡智】を使用し、ḾPを三倍に増幅』


 彼女は彼女で正念場を迎えているようだ。

 『大賢者スキル』を使用した最終手段の調整に全神経を集中している。


 そして、その姿を見て俺の腹も決まる。


 「よし!行くぞ……視聴者の皆!俺に力を……あいつを倒す力を、貸してくれ!」


 〈おおおおおおおおおお!!!!〉

 〈まかせろぉおおおおお!!!!〉

 〈『神速』さんには俺たちがついてる!!!!〉

 〈俺たちに想いを……〉

 〈私たちの未来を……〉

 〈お前に託すから……〉

 〈全力で行けぇえええええええええ!!!!!〉


 おお。

 今までで一番熱いコメントが押し寄せてくる。


 「しゃぁあ!行くぞぉ!メラク!」


 テンションが一気にぶち上がった俺が使用するのは、もちろんセプテントリオンの能力の一つ、メラクだ。


 今までは俺がはっきりと視認できる範囲までしか効果が及ばなかったが、覚醒したおかげで、少しでも視界に入る場所であればどれだけ遠くでも効果範囲に入るようになった。


 そうして、移動した場所は……


 アトランティカの眼前だった。

 ブレスを放つべく大きく開けられた口の前に蜘蛛の紋章を出現させ、一気に飛び出す。

 ちょうど下へ向けてブレスを放とうとしているアトランティカを、見上げるような状態となっている。


 『ギャギャギャァ!?』


 一瞬前までは地上にいたはずの俺が、次の瞬間には目と鼻の先へ移動してくるのだ、アトランティカといえども驚くに決まっている。


 咄嗟に水の弾丸を連続で放ってくるが……

 この攻撃に対しては既に耐性も獲得済み、避けるまでもない。


 いくつもの弾丸が俺の体に命中するが、全くダメージを受けることはなかった。


 『ギャギャギャァ!シネェエエ!!!!』


 間髪入れずに、次の行動に移るアトランティカ。

 とうとう、その口からブレスが放たれてしまうようだが……


 「遅いよ……ここまできたら、俺の勝ちだ!『配信裂覇』ぁ!」


 その状態で、セプテントリオンを構えスキルを発動し、そのままブレスへ向かって思いっ切り突き出した。


 「いっけぇええええええええええ!!!!!」

 

 のべ三百六十二万人にも及ぶ視聴者たちの力を載せた一撃は、


 ブレスを突き破り、そのままアトランティカへ命中。

 

 下から放った強力無比な刺突は、そのままアトランティカを押し上げる形となり、再び空中へと跳ね上げる。


 『ギャァアアア!何ダ……オマエハ……イッタイ何者ナンダァアアアアアア!?』


 もはや何が起こったか全く理解できないのだろう。

 恨み言を吐き出しながら上空へ吹き飛ばされていく。


 ……俺が何者なのかって?


 いいさ、答えてやろう。


 俺は……


 「『神速の配信者』だよ……」


 今の攻撃で俺のMPも使い果たしてしまった。

 そのまま海へ向かって落下を始める。


 しかし、今の俺の心は晴れやかそのもの。

 アイリーンさんに任された役目をきっちりと果たしたんだ。


 後は任せましたよ……


 「『紅蓮の魔女』さん……」


 そう呟きながら、アイリーンさんの方へ振り向くと……


 準備を無事終えたのだろう。


 空高く打ち上げられたアトランティカの方へ向き直っている彼女の姿が見えた。


 『ハヤトさん、ありがとうございます!後は……私に任せて下さい!』


 一体何個のスキルを同時発動させているのだろうか。

 彼女の周りには数え切れないほどの魔法陣が重ねられた状態で色とりどりの光を放っている。


 そうして、彼女は最後の攻撃に出る。


 『紅蓮の魔女』アイリーン・スカーレットが、超級職『大賢者』のスキルを最大限に活用した最大最強の一撃が……


 不死身のアトランティカを文字通り消滅させるべく、放たれようとしていた。

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