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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第32話 光明と不穏


 セプテントリオンの中の世界でアルカイドたちとの話を終えた俺は、再び現実世界に戻ってきた。


 先ほどの七星たちとの会話は体感では十分くらいだったはずだが……

 現実では一瞬だったようだ。


 目の前にはもちろん、アトランティカが放った水の弾丸が迫る。

 俺は、アイリーンさんをこの攻撃から庇うために前に出たんだから当たり前なんだけどね。


 ……というわけでさっきまでの続きだな。


 「アルカイドォ!」


 セプテントリオンの七つ目の能力を使用する。

 

 濃密な紅色の光が刀身から放出され始め、俺を包み込む。


 そして、次の瞬間俺が取った行動は……


 ――水の弾丸を受け止めることを試みた。


 「こなくそぉォォオオラァア!」


 セプテントリオンを持ったまま、両手を交差させながら構え、全力で受け取める。


 雨のように降り注ぐ弾丸は【星纏衣・アルタイル】で守られている上半身のみならず、膝の辺りや脛などの全身に思いっ切りめり込んだ。


 「いてぇええ!」


 ……痛みはガッツで我慢して……ダメージは気合で防ぎきる。


 ……自分でも何を言っているのかよくわからないが、

 【星纏衣・アルタイル】の防御力と超級職【配信王】のステータスのおかげもあってか、何とか致命傷を負うことは避けられたようだ。


 「ハヤトさん!?大丈夫ですか!?」


 「はい……大丈夫……です……フェグダァ……」


 大丈夫と言いながらも、とてつもなく痛かったのですぐにフェグダを使用し、ダメージを回復させる。

 先ほどのセプテントリオンの中の世界での邂逅の中で起こったもう一つの嬉しい誤算。

 それは、セプテントリオンの全ての能力のクールタイムがリセットされたことだった。


 通常であればフェグダの能力のクールタイムは他の能力と比較してかなり長く設定されている。

 超回復能力なんてものが何回も無制限に使用可能だとしたら、無敵に近いからそれは仕方がないが……


 とにかく、本当は使用不可だった超回復能力を使用して、ピンチを脱することができた。


 〈……いや、相変わらずの脳筋プレイだな〉

 〈エリクサーが超回復能力に代わっただけやん……〉

 〈でも、あの攻撃を防げるなんて、やっぱり『神速』さんって普通に強いよな〉

 〈まあ、並の配信者の範疇は超えてるわなw〉

 〈それにしても、あの光は一体何なんだろうね?〉

 〈確か、アルカイドって言ってたよな〉

 〈それって、『星崩の大魔宮』のボスだよな?〉

 〈ということは、あの能力って……〉

 〈多分、あれだよな……〉


 そう、コメント欄でも予想されている通り、アルカイドの能力は……


 『耐性の獲得』だ。


 『星崩の大魔宮』で俺たちをとことん苦しめた能力。

 その『耐性の獲得』を今度は俺が使うことになるなんてな。


 この紅い光を纏っている間に攻撃を受けた場合、その攻撃属性に対する耐性を獲得することが可能となる。


 これがセプテントリオンの最後の七つ目の能力、アルカイドだ。

 しかもこのアルカイドにはもう一つ効果がある。


 俺が纏っている紅い光が、近くにいるアイリーンさんの体にも移っていく。

 魔神の姿のままのアイリーンさんが元々体から発していた光と合わさってさらに力強い光へと変化していく。


 『これは一体?』

 

 「はい、僕の能力です。これで……あいつの攻撃に対する耐性を獲得することができます」


 『そうなんですね、さすがハヤトさん、すごい能力です』


 「ありがとうございます!」


 アルカイドのもう一つの効果は、『耐性の共有』だ。

 これは俺が獲得した耐性をそのまま仲間にも付与することが可能となる、非常に強力な能力だ。


 たった今、アトランティカの水による攻撃に対する耐性を獲得することが出来たので、これをそのままアイリーンさんにも共有させてもらった。

 これでアトランティカの強力な攻撃力を半減させることができた。

 

 『これで……あのアトランティカの攻撃は怖くありません!』

 

 「はい!」


 『後は……あいつを倒す手段さえあれば!』


 ……そう、あのアトランティカの能力で一番厄介なのは、海水を取り込むことで使用可能な超再生能力だ。

 あの能力がある限り、このボスフロアであいつを倒しきることは不可能に近い。


 しかし、実は俺には一つの勝算があった。


 「実は……一つ提案があるんですが、聞いてもらえますでしょうか?」


 『アトランティカを倒す手段ですか?』


 「はい……この考えが正しければ、多分あいつを倒せます!」


 『是非、聞かせて頂きましょうか』


 今まで数え切れないほどに助けてもらったアイリーンさんに、俺が考えた手段を伝える。

 少し前までは考えられなかったようなケースに俺は少し緊張しながら言葉を発した。



 「セプテントリオンの……真の力を覚醒させれば……あいつを倒すことができます」



 ◆

 

 その頃、ここは世界のどこかに存在しているはずのとあるダンジョン内――

 古城をモチーフにしたかのようなこのダンジョンの最深部、玉座の間――


 「……おい、あれは何だ?今度は一体何を企んでいるんだ?」


 「んん?あれとは?一体何のこと言っておるのだ?」


 「とぼけるな!あのふざけた海龍のことに決まってるだろうが!」


 話をしているのは二人。

 一人は若い男性だった。

 非常に整った顔をしており、黒いマントのような衣装を着ている。

 その若い男性が声を荒げている相手は、壮年の男性。

 こちらは立派な髭を備え、金色の装飾が至るところについた煌びやかな衣装を身に付けている。

 いかにも王族といった出で立ちのこの男性は、青年の追及に会いながらも、全く動揺する素振りも見せずに答える。

 

 「ああ、アトランティカのことか。私の可愛い配下がどうかしたのかね?」


 「どうかしたのか……じゃないだろうが!どうしてあんな危険なモンスターをSランクダンジョンなんかに配置している?」


 「ふん、全てはあの『紅蓮の魔女』を排除するためだ、アトランティカはそのためだけに投入した。セーブポイントやアイテム使用禁止の小細工もそのためだ」


 「……何故あんな小娘にそこまでこだわる?」


 「そなたにはわかるまい……あの小娘はいつか我らの最大の脅威となる。私にはわかるのだ」


 「貴様っ……!これ以上ふざけるならば……!」


 「ほう?ふざけるならば……どうするつもりなのだ?」


 「……そこまでよ。二人ともいい加減にしなさい。『統率者』同士の揉め事はご法度だと決めたでしょう?」


 二人の間に不穏な空気が流れ始めた瞬間に間に入ってきたのは、一人の女性だった。

 こちらの女性も壮年の男性に負けずに豪華な衣装を身に纏っており、一見すると女王にも見える様相だ。 


 「しかし……こいつが!」


 「あなたもあなたよ、『大海帝』……少し調子に乗り過ぎてるわ」


 「ふん、確かにな……そなたに言われるのならそうなのだろう。悪ふざけはここまでにしておくか」


 「はん!俺は認めんからな!」


 「気持ちはわかるけども、『統率者』も数が減ってきているわ。二人とも今こそ力を合わせるべきだと思わないの?」


 「俺はごめん被るな……失礼する!」


 「はあ……どうしてあなたたちはそうなるのかしら?」


 青年が激昂しながら場を去っていくの見て、溜息を吐く女性。

 壮年の男性はその様子を見ながらやれやれと言った表情をしている。


 「さあな、私にもさっぱりわからんな」


 「もう……それに私も彼の意見に賛同するわ。あの邪海龍とかいうモンスターはあなたの配下でしょう?あなたは一体……何をしたの?」


 壮年の男性が自らの配下と呼んだ『邪海龍・アトランティカ』はSランクダンジョンのボスとしては強すぎた。

 Sランク冒険者である『紅蓮の魔女』の攻撃によって致命傷を負う度に復活し、進化し強くなっていく。

 『統率者』を自称するその女性自体もそんな規格外のモンスターは見たことが無かった。


 「気になるかな?まあ……そなたになら教えてやっても良いか。私はただ、与えただけだ」


 「与えた?一体何を?」


 「それは……私の細胞だよ」


 「そ、そんな!?馬鹿な!そんなことをすれば……」


 「ああ、私たち『統率者』の細胞は、他のモンスターからすれば刺激が強すぎる。劇毒と同じだな。しかし、一部の強力なモンスターならば耐えることも不可能ではないのだ。そう、アトランティカのような上位の龍などであればな」


 「それじゃあ、あの邪海龍には……」


 「ああ、私と同様の能力を与えてある。どれだけダメージを負っても水さえ取り込めばすぐに回復できる能力だ。ああ、そうそうついでに復活すると同時にさらに強力に進化できるように細工をしておいたがな」


 「そんなことをすれば……もちろんリミットは設けたんでしょうね?」


 モンスターに自己進化機能を付与する際に重要なことはもちろん、その進化に対して制限を設けることだ。

 それを怠った場合、モンスターが際限なく強くなり続けることにより、『統率者』を超えてしまう可能性が発生してしまう。

 『統率者』としてモンスターを管理する立場にある者たちにとって、それだけは絶対に避けなければならなかった・


 ……しかし、壮年の男の口から返ってきた答えは最悪のものだった。


 「リミット?……ああ、付けてないなぁ。そんなもの」


 「付けてないですって?……あ、あなたは自分が何を言っているのかわかっているの!?」


 「もちろんわかってはいるさ……私は、自分の配下から究極のモンスターを作り上げたいのだから……」


 そう言いながら恍惚の表情を浮かべる壮年の男性は、一ミリたりとも悪いことをしたとは考えていない。

 全てのモンスターの頂点に位置するはずの『統率者』と言えども、完全に一枚岩ではない。

 逆に、個性的な面子が集まっているが故に、連携が上手く取れないことの方が多かった。

 今回のケースが正にそれに当てはまると言えるだろう。


 「フハハハ!もうすぐだ……もうすぐで究極のモンスターが誕生する……その時こそ!」


 壮年の男性、『統率者』の一人、『大海帝・ヴァイスポセイドン』は不敵に笑う。

 自らの配下、『邪海龍・アトランティカ』の進化がどこまでの域まで及ぶのかを考えながら……

 

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