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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第30話 邪海龍の秘密


 アイリーンさんとアトランティカの激闘は、まさに一進一退という言葉がピッタリだった。


 地獄の炎で象られた赤と黒の大剣の一撃の威力は凄まじく、アイリーンさんが一撃見舞うたびにアトランティカを吹き飛ばし、さらには斬撃と合わせて激しく炎が舞い上がり、相手へ追加でダメージを与えている。


 しかし、アトランティカが持つ青紫色の双剣の威力も負けてはいない。

 その巨体の膂力を存分に活かしながら、何度も何度も叩きつけられるように繰り出される斬撃は、直撃こそしないものの、アイリーンさんの体へ徐々にダメージを蓄積させていた。

 

 「ギャギャギャ!面白い……面白いぞお前ぇ!」


 まるで戦いを楽しんでいるかのような奇声を上げながら存分に双剣を振るい続けるアトランティカに対し、冷静に大剣を操りながら相手の攻撃を捌き、隙をついて反撃を加えるアイリーンさん。


 両対極に見える双方の戦い方ではあるが、戦果としては互角に見えた。


 〈いや、本当に互角やん……〉

 〈アイリーンさん、負けないで!〉

 〈『神速』さん!助けてあげて!〉

 〈いや、無茶言うなよw〉

 〈さすがにそれは酷ってもんだぜ……〉


 視聴者たちのコメントの通り。

 この攻防に対して、俺は無力の一言だった。


 『神速』にすら反応して合わせてくるアトランティカが相手だ。

 俺が加勢したところで、足手まといにしかならないだろう。


 それならば、セプテントリオンの能力を使うとすれば……


 まず、ドゥーベの毒攻撃、これは恐らく役に立たない可能性が高い。

 今の俺の攻撃力ではアトランティカにダメージが通らないため、毒状態を付与できないだろう。


 アリオトの炎……は論外だろう。

 アイリーンさんの炎でさえ倒せないのに、数段威力が落ちる炎ではかすり傷一つ付けられないのは間違いない。


 メラクやミザールの転移能力を上手く利用すれば援護自体は可能かもしれないが、今の俺は回復手段を持たないため、リスクが高すぎる。


 アトランティカの攻撃は恐らく魔法ではないため、魔法無効化能力のメグレズも使えない。


 フェグダの超再生能力は、未だクールタイムが終わっていないため使用不可能。


 この六つの能力が利用できないため、今の俺にはアイリーンさんに加勢するのに有効な手段が存在しないのだ……


 ……ん?


 ……六つ?


 その違和感の正体にはすぐ気付くことができた。


 そうか……これならば……


 今の自分にできること。

 その可能性に気付くことができた俺は、改めて腹を括り直し、戦闘に加勢する機会を伺うことにした。



 『隙ありぃ!はああああ!!!!』


 丁度その時、不意に大振りの攻撃を繰り出してしまったアトランティカの隙をつき、大剣を上段から思いっ切り振り下ろすアイリーンさんの姿が見えた。


 アトランティカも即座に体勢を立て直し、ギリギリで双剣を交差させながら攻撃を受けて見せる。


 「ギャギャギャァ!惜しかったなぁァアアアア!!!!」


 いきなり大口を開けて咆哮を始めるアトランティカ。

 どうやらその体勢のまま、ブレスを放とうとしているようだ。

 両肩の龍の顔も同時に口を開き同様にブレスを試みているのが見えた。


 ……これはやばい!


 あんな至近距離でブレスを受ければアイリーンさんと言えども一溜りもないだろう。

 すぐにセプテントリオンを構え、助けに向かう……が。


 『そんなの……御見通しですよ!』


 一足早くアイリーンさんが動く。

 炎の大剣から、一気阿世に炎が燃え広がり、ブレスを放つ直前のアトランティカを包み込んでしまった。


 「ギャァアアアアア!!!!」


 ブレスを放とうとしているところに逆に地獄の炎の直撃を喰らい、アトランティカはたまらず悲鳴を上げる。

 そのまま、距離を取ろうと翼を広げ飛び立とうとするが……


 その隙をアイリーンさんが逃すわけがなかった。


 『エクス……ボルガニックレイザー!!!!』


 炎の大剣の切っ先をアトランティカに向けた状態で放たれたのは、赤黒い色をした閃光だった。

 地獄の炎を凝縮したような超高熱の閃光が、悲鳴を上げながらのたうち回っているアトランティカの顔面を貫く。


 頭部を全て吹き飛ばされたアトランティカの体は、糸の切れた人形のように海面に落ちていき、ドボンと音を立てて水没していく。


 「すごい……」


 アイリーンさんは、俺の心配をあっさりと吹き飛ばすように、正面からアトランティカをねじ伏せてしまった。



 〈すっげぇえええええ!!!!!〉

 〈うおおおおおおおお!!!!!〉

 〈アイリーンさん!!!!アイリーンさん!!!!〉

 〈やっぱり神でした!『紅蓮の魔女』バンザイ!!!!〉


 コメント欄にも最大級の賛辞が並び、盛り上がり具合は天井知らずだ。


 俺はすぐにアイリーンさんの元へ駆けつけ、喜びを分かち合おうとするが……


 「……アイリーンさん?」


 彼女の表情からは全く安堵や喜びは感じられなかった。

 その視線はアトランティカが沈んでいった海面を捉え続けており、その表情は緊迫したままだった。


 ……まさか。


 『私の推測が正しければ……まだ終わっていないはずです』


 「そ、そんな……ここまでやってもですか!?」


 『ここまでやってもです!多分あいつは……』


 その言葉を遮るように激しい轟音と共に海中から飛び出してくる生物がいる。


 それはもちろん、アトランティカだ。

 全身を焼かれ、頭部を吹き飛ばされた状態からの復活。

 もはや、何度復活したかもわからなかった。


 今度の奴は、吹き飛ばされた頭部がさらに禍々しく進化し、どこか人の面影を残していた以前とは違い、完全に龍のような外見へと変わっている。

 どちらかと言えば、最初の形態に近いと言えるだろう。


 そして、もう一つ。

 腰から下、つまり下半身が蛇のような細長い形状になっている。


 一言で言えば東洋風の龍の下半身に人型の上半身、そして頭部はまた龍を模しているという形状だ。

 両肩にあった龍の顔もそのままだ。


 復活と進化を繰り返した末にたどり着いたその姿は正に異形の一言。


 「ギャギャギャギャァ!!!!モハヤ貴様ラに打ツ手ハアルマイ!!!!モウアキラメタラドウダァ!?」


 両手の双剣を頭上で交差させながら、自在に空中を浮遊している。

 

 〈ええええ……まだ復活すんのかよ、あいつ〉

 〈これもう本当に無理ゲーじゃね?〉

 〈あれで無理なら絶対に倒せないじゃん〉

 〈しかもあの見た目がもう……勝てる気しないわこれ〉

 〈アイリーンさんと『神速』さん……頼むから逃げてくれ!〉


 視聴者たちのコメントがまた絶望に染まってしまった。


 俺の視界を通じて世界中に配信されているアトランティカの恐ろし気な姿は、絶望的いう言葉がぴったりと当てはまるのだろう。


 「完全に化け物になりやがったな……これが最終形態か?」


 『いいえ、恐らく違います……私の考えが正しければ、奴はまだまだ進化するはずです』


 最初はその言葉の意味が理解できなかった。

 目の前のアトランティカは、すでに手が付けられるとは思えないほどに凶悪なモンスターとなっている。


 ここからまだまだ進化する……だって?


 「そ、そんな!それじゃあ絶対に……勝てないじゃないですか!」


 『ええ、ハヤトさんの言う通り勝ち目はありません……この場所で戦っている限りは……』


 「それは、どういう意味ですか?……ま、まさか!?」


 アイリーンさんの言う【この場所】とは、ボスフロアを指すのだろう。

 このフロアの特徴は?と聞かれれば、誰に聞いても答えは一つだろう。


 ――辺り一面の海域だ。


 そこまで考えて俺は最悪の結論にたどり着いた。


 アトランティカが復活、進化する時は必ず海の中に沈んでからだった。


 アイリーンさんの攻撃によって致命傷を負いながら海中深くへ沈んでいき、そして復活しながら飛び出してくるのが毎回のパターンだ。


 ということは、アトランティカの復活の仕組み、そしてアイリーンさんの言葉の意味とは…… 


 『はい、アトランティカは致命傷を負いながら海の中へ沈むことによって復活と進化を繰り返しています……ということは、海水を取り込むことによって復活しているというのが私の考えです』


 

 アイリーンさんが辿り着いた結論は、やはり絶望的なものだった。


 「それじゃあ……ここで戦っている限りは絶対に勝てないじゃないですか!」


 『ええ、そうなりますね……しかし、どこかに突破口はあるはずです。私が何とか手段を探しますので、ハヤトさんは逃げてください』


 「いや、そんな……僕だけが逃げるなんて出来る訳ないじゃないですか!」


 『そうは言っても、あの化け物相手にハヤトさんが出来ることはもう無いと思います。わざわざ命を危険に晒す必要はありませんよ』


 そう言いながら、一歩前に出る彼女の姿を見て、俺は自らの情けなさを今一度噛みしめることになる。


 何が【彼女の力になる】……だ。


 肝心な時に何も役に立てないじゃないか。


 俺は無意識に拳を握りしめていた。

 力を入れる余り、拳が震える。

 

 「……嫌ですよ」


 『はい?』


 「だから……嫌ですよ!俺だってアイリーンさんと一緒に戦うって……決めたんですから!」


 俺は、そう叫びながら一歩前に出ていたアイリーンさんの隣に並び立つ。

 そんな俺の姿にアイリーンさんが啞然としているのがわかる。

 魔神形態のままでもわかるほどに、はっきりと表情に出ている。


 「何ヲゴチャゴチャト言ッテヤガル!ギャッギャッギャッ!死ネェエエエ!!!!」


 痺れを切らしたのか、アトランティカがこちらに向けて攻撃を開始する。

 使用してきたのは、先ほど見せた水の弾丸だった。

 アトランティカの周囲に巨大な青紫色の魔法陣が描かれ、数え切れないほどの弾丸が撃ち出される。


 あれからさらに進化をしたアトランティカが放つ弾丸だ。

 先ほどよりも威力は増しているに違いない。


 恐らく防ぎきれないだろう攻撃が俺とアイリーンさんに迫る。


 『ハヤトさん!私の後ろに下がってください!』


 そう言いながらアイリーンさんが杖を構え、障壁を張ろうとするが……


 俺は『神速』を使用し、弾丸へ向かって前進する。


 『な、何を!?』


 驚くアイリーンさんを尻目に前進を続ける。

 言っただろ?もう決めたって……


 俺は決意を胸に迫りくる弾丸の前へ立ちはだかる。


 力を貸す時に後は俺次第って……言ったよな?


 俺の覚悟は決まったぞ?


 それならば……


 約束通りに力を貸せよ……


 なあ……


 俺は迫りくる弾丸へ向かってセプテントリオンの切っ先を向けて、力の限り叫んだ。



 「アルカイドォ!!!!」



 

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