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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第29話 絶望


 アイリーンさんの攻撃によって燃え尽きながら海の中へ消えていったはずの『邪海龍・アトランティカ』は再び海上に姿を現した。


 よく見れば、その姿も復活前とは少し変化している。


 全身の青い鱗はより鋭く逆立ち、翼も少し大きくなっているだろうか?

 とにかく、全身がより禍々しく見えるようになっている。

 しかし、一番の変化は両肩の部分に現れていた。

 何と、両肩に龍のような顔が出現していたのだ。

 中央の頭部と合わせて三つの頭を持っていることになる。


 それに、元々纏っていた青紫色の光がさらに激しく放出されているのがわかる。

 そのためか、従来から発せられていた威圧感はさらに強くなっている。


 ……間違いなくパワーアップしてやがる。


 〈……アイリーンさんの攻撃で死なないのかあいつ〉

 〈さっきの攻撃って極大魔法の中でも単体攻撃用の最強クラスの魔法だよな……〉

 〈うん、それに俺が以前見たことあるのより、数倍大きかったんだが……〉

 〈それをまともに当てても倒せないとか、もう無理ゲーじゃね?〉

 〈しかもアイテム使えないし……〉

 〈『神速』さん!逃げて―!!!!〉


 コメント欄も荒れに荒れている。


 それも無理はない。

 この場にいる俺も目の前の光景に理解が追い付かないのだ。


 アイリーンさんの攻撃をあそこまでまともに受けて死なないのか……


 これって倒せなくね?


 呆然としていた俺の耳に入って来たのはアイリーンさんの叫び声。


 「ハヤトさん!ボケッとしちゃ駄目です!ブレスがきますよ!退いてください!」


 「「「グギャァアアアアアアアア!」」」


 三重に重なった叫び声と同時に、アトランティカの三ヵ所の頭部が一斉に大口を開けて、猛烈な勢いで青紫色のブレスを放出した。



 「下がって!プロミネンスウォール!」


 先ほどよりも遥かに強力な勢いのブレスに対して、アイリーンさんが障壁を使用する。

 

 しかし、障壁にぶつかったブレスの勢いは弱まるどころか、どんどん勢いを増していく。

 三ヵ所から同時に吐かれたならば、当然威力も三倍。

 いや、三束の光が一つにまとまり、三倍ところでは無い程に強力になっているようにも見える。

 無尽蔵に出力が上がっていくアトランティカのブレスは障壁を飲み込まんばかりにまでおおきくなってしまっている。


 「アイリーンさん!大丈夫ですか!?」


 「ええ、今のところは平気です……しかし、このままでは……」


 そう言っている間にもアトランティカのブレスの勢いは増すばかりだ。

 とうとう、ブレスを防いでいる障壁からミシミシと不吉な音が聞こえ始める。


 〈やべぇ……〉

 〈プロミネンスウォールが破られちゃうよぉ……〉

 〈これって相当ピンチだよね?〉

 〈アイリーンさんが死んじゃう!〉

 〈『神速』さん、何とかしてぇ……〉


 視聴者たちから悲壮なコメントが流れ始めるが、この光景を見せられればそれも仕方がない。


 アトランティカのブレスは、止む気配を見せず、現在もどんどん強さが増していっている状態だ。

 今までどんな攻撃も完璧に防いできたアイリーンさんの障壁が破れるのも時間の問題に思える。


 「……こうなったら、最後の手段ですね」


 アイリーンさんはそう呟きながら、障壁を張ったまま、静かに目を瞑る。

 そうすると、杖の先端の宝珠から赤黒い魔力が迸り始めた。


 ……こ、これはまさか。


 「行きます!『憑依ポゼッション……エクスイフリート』」


 現状を打破すべく、アイリーンさんが選択した手段は最高位神器グランドレガリアの使用だった。


 宝珠から放出され続ける魔力はすぐにアイリーンさんを包み込み、繭のような形態となる。

 繭に包まれた状態でも、変わらず障壁は残ったままだった。


 障壁には至るところにヒビが入り、今にも粉々に砕け散りそうだ。


 ヒビはさらに大きくなっていき、とうとう限界が来てしまったようだ。

 音を立てて障壁が砕け散ってしまう……


 ――と同時に、アイリーンさんを包んだ繭が勢いよく弾け飛ぶ。


 繭の中から出現したのは、もちろん炎の魔神形態となったアイリーンさんだった。


 〈キターーーーーー!!!!〉

 〈ここでグランドレガリアの出番かよ!〉

 〈行け行けー!一気に反撃だぜ!〉

 〈やっぱり何回見てもかっこいいよなぁ……!〉


 配信を見ている視聴者たちのボルテージも一気に最高潮まで上がっているみたいだ。


 無理もないさ。

 絶体絶命のピンチに満を持して使用された切り札に、俺のテンションもぶち上がってるもんな!


 『はああアアアア!!!!』


 同時に、両手を前に向けると凄まじい勢いの炎が噴出していく。

 障壁を破りそのまま向かってくるアトランティカのブレスに対して、地獄の炎で迎え撃つ。


 増幅され強大に膨れ上がった青紫色のブレスと、赤黒い地獄の炎が真っ向からぶつかり合い恐ろしいほどの轟音が響き渡る。

 

 しかし、出力は圧倒的にアイリーンさんの地獄の炎の方が高いようで、目の前まで迫っていたはずのブレスをどんどん押し返していく。


 「「「ギャギャギャァアアアアアアア!!!!」」」


 自らのブレスが押し返されている状況が理解できないのか、苦し気な咆哮を上げ続けるアトランティカ。

 見る間に地獄の炎に押された状態のブレスが迫り……


 そのままアトランティカを飲み込んでしまう。


 『まだまだ……』


 アイリーンさんは、手を緩めることなく地獄の炎の出力を上げ続ける。

 

 『このまま……消し飛べぇ!!!!』


 最早、俺の視界には燃え盛る赤黒い炎しか存在しなかった。

 その様子はまさに地獄。


 この炎の中で生存できる生物などこの世に存在しないのではないか?


 そう思えるほどまでに広がり続ける地獄の炎を……俺は呆然と眺めていた。


 

 〈いや……まじで地獄やん〉

 〈見渡す限り一面の炎だな……〉

 〈これじゃあさすがにあのモンスターも燃え尽きただろうに……〉

 〈やっぱり『紅蓮の魔女』は無敵だな!〉

 〈相変わらずの人外っぷりだなw〉


 視聴者たちも勝利を確信しているようだ。


 まあ、俺もそうなんだけどね。

 結局アイリーンさんの超火力で勝利か……


 

 『……エクス・イグナイト・ブレイド』


 

 アイリーンさんは唐突に魔法を使用する。

 同時に、アイリーンさんの眼前に杖が出現し赤黒い地獄の炎の大剣と変化した。


 その行動を見て俺の体に悪寒が走るのがわかった。


 「アイリーンさん、まさか……」


 『ええ……まだ終わっていません!』

 

 絶望的な言葉が聞こえた瞬間、少し離れた海面から勢いよくアトランティカが飛び出してきた。


 「ギャッギャッギャッギャ!そんな姿にまでなれるなんてお前は一体何者だぁ!?」


 もはや『神速』と同等では?と思えるほどの目にも止まらぬ速度で突っ込んでくる。

 そのまま双剣を振り下ろし、アイリーンさんの炎の大剣と正面からぶつかり合う。


 「しかも……これは地獄の炎ではないか!何故人間如きがこれを使えるのだ!?」


 そこからはお互いの攻撃の応酬が始まった。

 赤黒い大剣と青紫の双剣が激しく乱舞し、幾度も鍔迫り合いを繰り広げる。


 よく見るとアトランティカの姿はさらに禍々しく変化している。

 頭部には恐ろし気な角が生え、口からは鋭い牙が輝いているのが見える。

 そして、腰のあたりに備わっていた尻尾も、先端に鋭利な棘がいくつも生え揃い、確実に殺傷能力が増しているのがわかる。


 何より、目の前では魔神形態のアイリーンさんと互角に打ち合っているのだ。


 少し前まではそこまでの力は確実に無かったはずだった。


 しかし、目の前のモンスターは、倒しても倒してもすぐに復活し、その度に力を増している……


 「どうやって、倒せばいいんだよ……」


 気が付けば俺の口からは絶望の言葉が漏れ出していた。

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