第26話 邪海龍・アトランティカ
ボスフロアは、目の前に広がる広大な海で大半が埋め尽くされているタイプだった。
所々に足場……というか島々が見えるが、見渡す限り海面が広がっている。
「こんなところでボスと戦うのか……」
「ええ、足場があまり無いのが厄介ですけど……まあ、私にはあまり影響がないかもしれませんが」
「なるほど……それはそうですね」
どんなに足場なくとも、相手が出現した瞬間に超火力で消し飛ばしてしまえば関係ない。
アイリーンさんが言ってるのはそういうことだろう。
並の冒険者がそんなことを宣えば強がりにしか聞こえないが、アイリーンさんが言えばとてつもない説得力を含んでるから恐ろしい。
そんなことを考えていた時だった――
目の前の海面から何かが姿を現し始める。
海面が盛り上がり巨大な水柱を形成したかと思うと、その中心を割って巨大なモンスターが出現した。
「ギャォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
大気が震えるほどの大咆哮が周囲に響き渡る。
そのモンスターは一見すると、全長は百メートルを優に超えているだろうか。
見た目は紺色の蜥蜴のようなフォルムをしているが、全身から青紫色の淡い光を放っており、どこか幻想的な印象すら持ってしまう。
「で、でかい!」
「ハヤトさん!油断しないで……きますよ!」
「は、はい!」
その真紅の瞳で真っ直ぐにこちらを見据えると、即座に行動を開始した。
「ギャギャギャァアア!!!!」
モンスターが吠えると、周囲の海が渦巻き始め、やがて大津波へと変化していく。
騒々しく、そして勢いよく、こちらへ向けて巨大な大津波が解き放たれた。
「これは……サハギン・ロードの!?」
この水の動きは先ほどのサハギン・ロードが放ってきた「ギガ・タイダルウェイブ」に酷似している
しかし、規模としては桁外れだ。
サハギン・ロードのものと比較すれば、数十倍に匹敵するような大きさの津波が容赦なく襲い掛かって来る。
「ハヤトさんは、私の後ろへ……プロミネンスウォール!」
すかさずアイリーンさんの手によって灼熱の障壁が張られる。
サハギン・ロードの「ギガ・タイダルウェイブ」に対しては「ボルガニックレイザー」で一気に斬り裂いてしまったアイリーンさんだったが、さすがにこの規模の大津波に対しては、防御に専念したようだ。
大津波は障壁に遮られると同時に、その超高熱によって一気に蒸発し、凄まじい量の水蒸気を発生させる。
「ギャギャギャギャギャ!!!!!」
大津波を障壁で防いでいる間にも、恐ろしい咆哮が周囲に響き渡っている。
そういえば、サハギン・ロード戦ではこの状態の時に……
大津波で動けなくして、直接攻撃を行う。
サハギン・ロードの時はアイリーンさんの助力で何とか凌いだが、もし今回も敵がそんなことを考えているとしたら……
「アイリーンさん!奴が突っ込んできます!」
アイリーンさんに声を掛けると同時に、大津波の向こう側から巨大な影が迫るのが見えた。
青紫の光の中心に真紅の光が二つ……
間違いなくあいつが追撃にきてやがる!
「大丈夫です…………グランド・エクスプロージョン!」
一瞬、ブツブツと何かを呟いたかと思うと、すぐさま迎撃用の魔法を使用する。
一心不乱に突進してくるモンスターの眼前に一瞬、赤い閃光が走ったかと思うと、一気に大爆発を引き起こす。
アイリーンさんが張った障壁とモンスターのちょうど真ん中あたりで、爆炎が舞い上がり大津波ごとモンスターを吹き飛ばす。
「うおおおおお!?」
目の前で巻き起こる壮大なSF映画のような光景は、俺の視界を通じて世界中に配信されている。
〈す、すげえええええ!!!!〉
〈同じ冒険者とは思えないぜ……〉
〈こんな極大魔法を同時使用なんて……〉
〈やっぱりアイリーンさんって人間やめてる?〉
視聴者たちも驚愕しているようでコメントが盛り上がりに盛り上がっている。
それもそのはず、これだけの規模の魔法を同時に使用するなんて、本当に人間技とは思えない。
「大賢者」が所持しているスキルの効果なのか、はたまたアイリーンさんの地力が為せる技なのかはわからないが、とにかく凄いことには変わりはない。
やがて、大爆発の炎や、大津波が吹き飛ばされたことにより巻き起こった水蒸気などが晴れ、全く見えなかったモンスターの状態が確認できるようになった。
そこにいたのは、多少のダメージを負っているようには見えるが、平然としているモンスターの姿だった。
「あれ?あまり効いてないのか?」
あれだけの大爆発……しかもアイリーンさんの極大魔法をまともに喰らったのに、多少のダメージで済ませているなんて……
「こんな強力なモンスターが……Sランクダンジョンのボスなのか?」
俺が初めてアイリーンさんと出会ったSランクダンジョン【深淵の回廊】。
俺はここのダンジョンボスである『アビスロード』のことを思い出した。
たしかに、『アビスロード』は強かった。
しかし、今目の前にいるモンスターと比較した時に、その強さは天と地ほどの差があると感じる。
同じSランクダンジョンのボスでもここまでの差があって良いものなのか?
今回のセーブポイントやアイテム使用制限の件も含めて、何かがおかしい。
まるで何者かがアイリーンさんを負けさせようとしているような……
「ギャギャギャ!人間よ!なかなか面白いではないか!」
そんなことを考えている俺の耳に聞こえてきたのは、奇妙な声だった。
もちろん、発したのは目の前のモンスター、何だこのモンスター、話せるのか?
「この『邪海龍・アトランティカ』にここまでダメージを与えるなんて、オヤジ殿以来だな!」
驚きのあまり、固まってしまった俺をよそに話し続けるモンスター。
たった今、自らの名前を『邪海龍・アトランティカ』と名乗ったこのモンスターは、自らが負ったダメージなど何事もなかったかのようにご機嫌に話し続ける。
「ギャギャギャギャ!久しぶりにこの世界に解き放たれたかと思ったら、いきなり貴様のような強者と出会えて嬉しいぞぉ!小娘!名前は何というのだ!?」
アトランティカは傍若無人を絵に描いたような話し方でアイリーンさんに話しかけるが……
アイリーンさんは全く返事を返さなかった。
「…………ほほう、俺の言葉を無視するか!良かろう!ならば……」
アトランティカは、再び戦闘態勢を取るかのように、魔力を集中し始める。
周囲の海水が蛇のように動き出したかと思うと、アトランティカの周囲を徘徊するかのように蠢き始める。
「ハヤトさんは下がっていてください……こいつは、危険です!」
「ギャッギャッギャッギャァ!さあ遊ぼうぞぉ!!!!」
俺に安全圏まで下がるように促すアイリーンさんへ向かって再び突進しようと、前傾姿勢を取るアトランティカ。
予想以上の強敵との激突が、再び起ころうとしていた。
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