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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第25話 邪海龍挑戦と衝撃的な事実


 『邪海龍・アトランティカ』について――


 アトランティカは自らの出自を知らない。

 自らがどのようにして生まれたのか、はたまた何者かに作られたのか、それすらもわからなかった。


 そして、アトランティカは生まれた時から既に強者であり、敗北とは無縁だった。


 生まれ育った海域で自らにに挑んでくるモンスターがいなくなると、戦える相手を求めて近海へと移動する。


 そんなことを繰り返している間には、もちろん人間たちにも遭遇する。

 数え切れないほどの船を沈め、たくさんの犠牲者を生み出し続けていると、邪悪なる海龍としてその名を知らぬものはいないほどとなり、いつしか『邪海龍・アトランティカ』と呼ばれるようになる。


 アトランティカの思考は基本的には自らの欲望に忠実だった。

 気に入らないものがいれば殺し、欲しいものがあれば奪う。


 しかし、転機は突然訪れるものである。


 虐殺や略奪を繰り返しているアトランティカの前に、それは現れた。


 『統率者』の一人、【大海帝・ヴァイスポセイドン】、世界中の海に存在するモンスターの中では遥か昔から頂点に君臨している存在だった。


 アトランティカは調子に乗り過ぎてしまった。

 好き勝手し過ぎた行動は、やがてヴァイスポセイドンの耳に入り、逆鱗に触れてしまったのだ。


 アトランティカも並のモンスターでは足元にも及ばないほどの強さを誇っていたが、相手が『統率者』ともなれば、さすがに叶わなかった。


 これがアトランティカの初めの敗北となりその後、ヴァイスポセイドンの傘下に入ることとなる。

 『統率者』の命令のままに動き、破壊を繰り返す恐ろしい『邪海龍』として人間たちにさらに畏怖される存在となった。


 世界中の海を恐怖のどん底に陥れた『邪海龍』も、リゼルを始めとする英雄たちによって討伐されることになるのだが……


 その『邪海龍・アトランティカ』が、ヴァイスポセイドンの手によって再びこの世に復活することになり……


 Sランクダンジョン【海魂の冥穴】のボスとして、アイリーンやハヤトと相まみえることになる。


 ◆


 現在、俺たちはSランクダンジョン【海魂の冥穴】の最深部……と思われる場所にいる。

 一際大きな空間に、どこかで見たような立派な装飾が施された大扉が鎮座している。

 間違いなく、この先がボスがいるフロアということになるのだろう。

 

 「……あれ?おかしいですね」


 「どうしましたか?」


 アイリーンさんが、何かに気付く。 

 俺も、現在見えている風景に何か違和感を抱きつつもそれが何かはわからなったが……


 「いえ、セーブポイントが見当たらないんですが……」


 「あっ!本当だ……」


 アイリーンさんの言葉でその違和感の正体に気付く。

 本来あるべきセーブポイントが見当たらないのだ。


 全てのダンジョンのボスフロアの直前にはセーブポイントが設置されている。


 ボスの直前でセーブを行うことにより、強力なボスに敗北してしまったとしても、また復活し再挑戦が可能となる。

 冒険者に対しての救済措置なのかどうかはわからないが、これだけは古今東西のダンジョンでの原則……のはずだった。


 しかし、現在の俺たちの目前にはそんなセーブポイントなど、どこにも見えなかった。


 「そんな馬鹿な……」


 「私も数多くのダンジョンに挑みましたけど、こんなことは初めてですね」


 「これじゃあ、ぶっつけでボスに挑むしかないじゃないか……」


 アイリーンさんと顔を見合わせていると、唐突に周囲へ音声が響き渡る。


 『ダンジョン【海魂の冥穴】へ挑戦している冒険者の方々へお知らせ致します』


 ……これは、ダンジョンを踏破した時に流されるはずのアナウンスじゃないか!?

 突然の出来事に警戒を抱きながらそれを聞いていた俺たちは、さらなる驚愕の事実を突きつけられることになる。


 『現時点を持って本ダンジョンに設置されている全てのセーブポイントは撤去、更に全てのアイテムの使用を……禁止とさせて頂きます』


 「……はい?」


 えーと、今何かとてつもないことを聞かされた気がするが、気のせいだろうか……


 俺は何かに縋る思いでアイリーンさんの方へ視線を送るが……


 「セーブポイントとアイテム禁止らしいですよ?」


 ほんの少しだけ困惑したような表情でアイリーンさんが事実を告げる。

 

 うん、やっぱり聞き間違いじゃなかったぜ。


 「そそそ、そんなことをされたら……お、おおおれたちはぁ!」


 「はい、かなり危険ですね」


 あかん、あまりの出来事に頭が整理できんし、全く舌が回らない。

 動転しまくっている俺に対して、アイリーンさんはとてつもなく冷静に状況を静観しているようだ。


 「落ち着いてください、ハヤトさん。こうなったらぶっつけ本番で勝つしかないですね」


 「い、いや、それはそうなんですが……」


 さすがのアイリーンさんは、すでに腹を括っているようだ。

 それに反して俺は焦りの余り、全身から出る変な汗が止まらなかった。


 ちくしょう、何でこんなことになったんだ?

 セーブポイントが使えないってことは、ボス戦で敗北しても復活できない、ということは死んでしまうということだ。

 それにアイテムが使用できないってことは、ボス戦で回復ができない。

 諦めて帰ろうにも転移の巻物が使用できないため、徒歩で帰ることになる。


 まあ、俺だけなら『神速』を使用すれば良いのだが、アイリーンさんを置いていくことなんてできない……ていうか彼女は既に挑戦する気満々だ。


 「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ、私は……負けませんから!」


 そう言いながら、むん!と気合を入れるアイリーンさんを見て、幾分気分が落ち着いた気がした。


 そうだよなぁ。

 アイリーンさんがこんな小細工に負けるわけがない。


 今一度、認識の浅さに恥ずかしさを覚えるとともに、自分も腹を括るべく気合を入れる。


 「よっしゃぁ!アイリーンさんが気合を入れるんだから俺も……負けませんよぉ!」


 自らに言い聞かせるように声を張り上げる。


 「あはは、今度はそんな大声を出しちゃって……ハヤトさん、面白いですね」


 そんな俺を見ながらクスクスと笑うアイリーンさん。


 「はあ、いや、あのすいません」


 「何で謝っちゃうんですか?でも、まあ、こうなったら二人で頑張って乗り越えちゃいましょう!」


 「……はい!一緒に頑張りましょう!」


 笑顔のままでガッツポーズを作るアイリーンさんを見て、俺の心は完全に定まった。


 この笑顔のためなら……もうどんなことでも乗り越えてやるさ。

 

 覚悟は決まった。

 後は、力の限りやり切るのみだ。


 「じゃあ……行っちゃいましょうか!」


 そう言いながら前に進みだすアイリーンさんと並ぶように大扉へ向かう。


 この戦いでの失敗はそのまま死を意味する……


 しかし、俺は負けるわけにはいかない。


 そんな強い想いと共に扉を通り、ボスフロアへと進んでいくのだった。



次回……ボス戦開幕です!


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