第24話 とある魔物の目覚め
すいません!
ちょっと多忙なのと、かなりの難産でした!
よろしくお願いします!
――【海魂の冥穴】、最深部。
それは、海中深くで目を覚ました。
何故、突然目覚めたのか……
冒険者たちがダンジョンに侵入してきたから……というわけではない。
しかし、それが無関係なわけではない。
問題は冒険者たちがこのダンジョンで何をしたか……
その封印の鍵とはサハギン・ロード。
何者かにより六体のサハギン・ロードの命を鍵として深海深くに封印されていたのだ、
しかし、ついさっき、サハギン・ロードは全滅させられた。
このSランクダンジョンに侵入してきた冒険者たちによって。
「……ギャ?」
それは、自らの身に何が起こったのかを理解しようと思考を巡らし思い出す。
かつて、世界中の海で思うが儘に暴れ、荒らしまわったことを……
やがて、『統治者』の一人である海の覇者と出会い、部下となったことを……
その『統治者』の命により、とある存在と戦い敗北したことを……
そして、たった今その封印が解かれ、自らが目覚めたことを……
「……ギャギャギャギャ!」
それは、全てを悟ったかのように醜く笑い、そのまま急上昇を試みる。
再び外の世界へ飛び出すために……
遥か昔に封印された存在は……
【海魂の冥穴】のダンジョンボスとして解き放たれたのであった。
◆
「あの……ありがとうございました」
「はい!無事で良かったです!」
死ぬ思いでギリギリの戦いを繰り広げていたサハギン・ロードの集団を、アイリーンさんが瞬殺してしまった直後のことだった。
あれだけの大暴れをした直後だが、まるで何事もなかったかのように、涼しい顔をしている彼女。
いや、もう慣れたきた自分もいるんだが……
やっぱりこういう時の無力感はかなりのものがあるよな……
超級職『配信王』となり、最高位神器【七星剣・セプテントリオン】を手に入れても、なお縮まらないその距離に焦りを感じる気持ちも正直ある。
それでも、俺は一歩一歩進んでいくしかない。
その先には必ず、アイリーンさんの隣で対等に戦える未来へと続く道がある。
そう信じてひたむきに努力するのみ。
そこまで心を整理し、前を向くことに決めた。
「……よし」
「ん?何か言いました?」
「え?い、いえ、何でもないですよ!」
「ふーん……変なハヤトさんですね」
恥ずかしさのあまり、顔が火照り変な汗が出る。
自分に気合を入れるために呟いた小声に突っ込まれてしまったが、必死で誤魔化すことに成功した……のか?
「あっ、そうだ。ハヤトさんが助けた三人組は、無事にダンジョンを脱出できましたので」
「本当ですか?それは良かったなぁ」
「はい、目の前で転移の巻物を使って脱出していったので間違いありません、ハヤトさんにお礼を伝えて欲しいって言ってましたよ」
「そうかぁ……はあ、安心したなぁ」
サハギン・ロードと戦っている間も、あの三人が助かったのかはずっと心に引っ掛かっていた。
アイリーンさんから、無事の頼りを聞き、その引っ掛かりがすぅっと無くなっていくのを感じる。
「よし……じゃあ後は、このダンジョンを踏破するだけですね」
こうなれば気合は十分、後はダンジョンボスを倒すのみ。
「そうですね、それじゃあ先に進んじゃいましょうか」
「はい、行きましょう!」
サハギン・ロードたちは強敵だったが、ダンジョンボスではなかった。
まだこの先には、さらに恐ろしいダンジョンボスが待ち構えているはずだ。
油断しないように気を引き締めると、アイリーンさんと共にダンジョンの奥深くへ進むことにした。
◆
――ここで、とある異空間へと舞台は移る。
「……リゼル様、気付いておられますか?」
「ええ、気付いていますとも、大昔に私が滅したはずの魔物が、解き放たれましたね」
リゼルとアベルの眼前には、小窓ほどの大きさの異空間の穴がある。
そこに映し出されているのは、他でもない【海魂の冥穴】の風景だった。
「まさか、あの魔物がSランクダンジョンのボスとして設置されているとは……」
「はい、私もそこまでは読めませんでした。悔しいですが、かの者たちに完全に裏を取られた形になりますね」
「何故、サハギン・ロードのような魔物が鍵として設定されていたのでしょうか……」
「そうですね……」
アベルの指摘を受けて、リゼルは一瞬考え込むような姿勢を見せた後に、こう答えた。
「恐らくは、私たちの介入を防ぐためでしょうね……」
「介入を防ぐため……」
「ええ、まず私たちの力はダンジョンの内部までは及ぼすことはできません。そのため、Sランクダンジョンの内部で復活した時点では、介入は不可能です。そして、もう一つ理由があります。これは有力な冒険者の排除を狙ったものでしょう」
「冒険者の排除ですか?」
「はい、六体ものサハギン・ロードを倒せる人間はそう多くはありません。そんなことが可能なのは、冒険者でも一握り、トップクラスに該当します。そのため、それを為し得る冒険者にあの魔物をボスとしてぶつける……これがもう一つの理由でしょう」
「そんな回りくどいことをして何になるのでしょうか?」
リゼルの説明に対して、腑に落ちない表情でアベルが尋ね返す。
「忘れましたか?かの者たちの目的はダンジョンの維持と創造です。そしてそのために最も邪魔になるのが、冒険者です」
「ということは……」
「はい、狙いは冒険者ですね。今回はSランク冒険者……つまり、アイリーン・スカーレットを排除するのが目的と見て間違いないかと」
リゼルの発言に戦慄を覚えるアベル。
「しかし、あの『紅蓮の魔女』は人間の中でもトップクラスの実力を誇ります!しかも、私たちが作り出した復活や脱出のためのアイテムや神器も豊富にある……リゼル様が心配されるような事態になるとは思えません」
「それは、そうですね……しかし……」
アベルの発言は至極最もだった。
今の冒険者には、復活の玉も、転移の巻物も、セーブポイントも用意されているため、強力なボスと遭遇したからと言って、必ずしも死亡に繋がるわけではない。
しかも、相手はあの『紅蓮の魔女』、アイリーン・スカーレットだ、
最高位神器を始めとした最高峰の装備を揃え、強力無比な戦闘力を持つ彼女が敗北するとは思えない、というのがアベルの意見だった。
確かの、その意見は正論だ。
しかし、リゼルの頭の中には言いようのない不安が渦巻いているのも事実だった。
「今回は、かなり用意周到に計画されていると見て間違いありません。私たちが倒したはずのあの魔物をわざわざあのダンジョンの中に封印する形で隠していたこと……そして、そのダンジョンをこのタイミングで出現させたこと……ということは、確実におびき寄せた冒険者を死亡させる対策を取っていてもおかしくはないでしょう」
「そ、そんなことが……」
「いいえ、あの魔物は、『統率者』の一人である『ヴァイスポセイドン』の配下です……彼なら、そのくらいのことはするでしょうね」
リゼルの口から出た新たな『統率者』の名前に、アベルの表情があからさまに引き攣る。
「ダンジョンの内部に私の『紫光』が届けられない以上、アイリーン・スカーレットたちを信頼する他ありません……とにかくあの魔物に勝つのを祈るのみです」
女神は自らの無力を嘆くように目を瞑ると、両手を胸の前で組み祈りを捧げ始めた。
「……『邪海龍、アドランティカ』の討伐を」
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