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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第23話 ハヤト VS サハギン・ロード ③

 

 ――『海魂の冥穴』の内部。


 「……うん……ここは?」


 島袋ガクトはそう呟きながら目を覚ました。

 サハギン・ロードの襲撃を受けて死にかけたところまでは記憶があるが……


 気が付けば、全く違う場所にいる。

 しかも、死を覚悟するほどのダメージを負ったはずなのに、今の自分はピンピンしている。

 どれだけ記憶を遡ろうが、襲撃を受けた後のことは全く思い出せなかった。


 「……良かった、意識が戻ったんですね」


 「……!?」


 不意に声がした方へ振り向くと、そこには一人の女性がいた。


 ガクトはこの女性のことを知っていた。

 

 「あなたは……アイリーン……スカーレット……」


 「はい、そうですよ」


 にっこりと笑顔で微笑む女性は、他でもない『紅蓮の魔女』として名を馳せるSランク冒険者だ。


 「な、何でこんなところに……!?」


 「ついさっき、ここに倒れているあなたたちを見つけて……三人とも命が危なかったんでエリクサーで回復させてもらいました」


 「三人?……そうだ!仲間たちは!?」


 「落ち着いてください。他のお二人なら大丈夫です。ほら、ここに」


 そう言ってアイリーンが振り向いた方向に、『斬ん人(きりんちゅ)』の団員二人が横になっている。


 「お二人とも、まだ意識は戻っていませんが、命に別状はありません。エリクサーを与えましたので、もう少しすれば目を覚ますはずです」


 よく見れば、二人とも安らかな表情で寝息を立てている。

 ……どうやら、本当に助かったらしい。


 「ありがとうございます……貴重なエリクサーを俺たちなんかのために……本当にありがとうございます!」


 サハギン・ロードに襲撃された時は、本当にこれで終わりだと思った。

 一応、人数分の『復活の玉』は支給されているが、それまでに稼いだ経験値などが全て無駄になるところだった。

 あの有名なアイリーン・スカーレットに命を助けられたことには間違いないのだ。


 「俺たちは、どうやって助かった……んですか?あなたがサハギン・ロードを倒してくれたんですか?」


 ガクトの問いかけに対して、アイリーンは笑顔のままで、少し誇らしげに答えた。


 「いいえ、あなたたちをモンスターから本当に助けたのは……私の相棒の方ですよ」


 「相棒……まさか!?『神速の配信者』が?」


 「ええ、そのまさかです。頼りになる私の……相棒です」


 「相棒ですか……」


 「はい!それじゃあ私も向かわないと!失礼しますね!」


 そう言ってアイリーンは、猛スピードで駆けていく。


 その後ろ姿を見送りながら島袋ガクトは、考えていた。

 今日という日を忘れることはないだろうと。

 『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』と出会い、救われたこの日を……


 ◆

 

 超衝撃爆弾スーパーインパルスが炸裂し、俺を含めた全てを衝撃波で吹き飛ばしてしまった直後……


 俺は何とか無事だった。


 そりゃぁ盛大にぶっ飛ばされたからには、多少のダメージは受けてしまっている。

 しかし、以前のようにエリクサーを摂取しなければならないほどの致命的なダメージとまではいかない。

 理由は、爆心地からそれなりに距離があったことと、俺自体のステータスも上昇していること、そして、新たに装備している【星纏衣・アルタイル】のおかげだろう。


 対して、サハギン・ロードたちの被害状況は、実に散々たる状態だった。


 爆心地のすぐ近くで衝撃波に巻き込まれた二体は、遥か後方まで吹き飛ばされており、ピクリとも動いていない。


 また、少し距離を置いていた三体に関しても、被害は免れなかったようで、銛を構えながらも動きは鈍く、それぞれにダメージを負っている様子が伺える。


 〈すげぇ……一気に形勢逆転じゃん〉

 〈超衝撃爆弾スーパーインパルスの爆発に耐えちゃうんだ『神速』さん〉

 〈強くなったよねぇ……〉

 〈これで勝利は決まったかな?〉

 

 ここまで来れば俺の勝ちは間違いないだろう。

 視聴者たちと同じく俺も自分の勝利を確信する。

 後はセプテントリオンの能力を使用して、一匹ずつ処理していけば、余程のことが起こらない限りは問題無い。


 そう考えながら、セプテントリオンを構え、『神速』を使用しようとした瞬間だった――


 「ギュァアア」

 「ギュァアアア!」

 「ギュァアアアアアアアアア!!!!」


 満身創痍の三匹のサハギン・ロードが雄叫びを上げ始める。

 三匹同時に発せられた咆哮は、やがて重なり合い、まるで合唱のように周囲に響き始める。

 

 ……これは?


 間違いなく何かを仕掛けるつもりだろうと警戒するが……


 〈これってひょっとしてアレだよね?〉

 〈うん……多分、アレだね〉

 〈しかもかなり大規模なやつ……〉

 〈『神速』さん、逃げた方が良いかも〉

 〈そうだね……これは……詠唱だよね〉


 視聴者たちのコメントを見て全身が総毛立つのがわかる。

 ……これが詠唱だと……何かでかい魔法を放つってのか!?


 察知したと同時に、サハギン・ロードたちが特大の魔法を放つ。


 巨大な魔法陣が出現し、そこから膨大な量の水が溢れ出した。

 やがて、その水は巨大な津波を形作り、俺に襲い掛かってくる。


 合体水属性魔法『トリニティ・タイダルウェイブ』――


 以前、テレビの番組か何かで見たことがある。

 その時は上級職の魔導士が三人掛かりで再現していた。

 その威力はもちろん、その上級職の魔導士が三人とも魔力をすっからかんにしてしまい、へとへとになっていたのが印象的だ。


 そんな特大の魔力を練り込まれた魔法をこの局面で放ってくるとは……


 天井まで達しようかというほどの凄まじい量の水で構成された津波が、こちらへ向かって勢いよく向かってくる。


 「メグレズ!」


 しかし、俺にはセプテントリオンの能力がある。

 メグレズを使えば、いかに大規模の魔法であろうと、その効果を無効化できるはずだ。

 その効果により、魔法を無効化できる光を纏いながら、合体魔法を迎えうつ。


 凄まじい轟音と共に、俺は津波の飲み込まれてしまった。


 ……こ、これは!?


 確かに、メグレズの効果により、ダメージ自体は受けなかった。


 受けなかったが、これだけの水量に巻き込まれてしまったら身動きが取れない。


 あいつらの前でこの状態は……!


 俺の不安は的中し、激流に飲み込まれ満足に動けない俺を目掛けて迫りくる影が三つ。

 サハギン・ロードたちが流れに紛れ、迫ってくるのが見えた。


 まずい、これはまずい!


 俺は、少しでも距離を取ろうと必死に藻掻く。

 しかし、相手は半魚人、無情にもどんどん俺たちの距離は詰まり、今にもサハギン・ロードたちの射程距離に入ってしまいそうになる。


 

 しかし、そんなピンチの時に、本当に頼りになる人は駆け付けるものだ――



 「ボルガニック・レイザー!」


 

 大津波を斬り裂くように極太の熱線が放たれる。


 熱線は、大量の水を一気に蒸発させながら俺ごと(・・・)サハギン・ロードたちを消し飛ばす。

 今の一瞬で二体のサハギン・ロードが消滅し、残り一体はギリギリで生き残ったようだ。


 待ちに待った真打の登場。


 『紅蓮の魔女』、アイリーンさんが到着したのだ。


 そして……


 「ハヤトさん!大丈夫ですかぁ!!!!」


 軽やかに駆けながら、全身に漲らせた魔力を解き放つ。


 「ブレイジング・スフィア!」


 メグレズに守られなければ、俺も跡形も無く消し飛んでいたに違いない。


 そんな状態の俺の目の前で。


 

 アイリーンさんが全力で……極大魔法をぶっ放した。

 

 それは、以前にも見たことがある全てを消滅させるほどの熱量を持つ球体。


 その球体が分裂を始め、周囲に散開していく。

 

 以前見た時は最終的に六つに分裂していたが……


 目の前に見える球体の数は軽く十を超えている。


 それぞれの球体はまるで生きているかのように、獲物を求めて周囲を飛び回る。


 「ギュァアアアア!?」


 命からがら生き残ったサハギン・ロードが事態に気付き、一目散に逃走を始めるが……


 アイリーンさんの放った魔法からは逃げられない。

 すぐに逃げ道を防がれ、次々と飛来する光球に貫かれ息絶えてしまった。


 光球たちは、超衝撃爆弾スーパーインパルスの直撃を受け、重症だったサハギン・ロードたちにも襲い掛かり、とどめを刺してしまった。


 「いや……やっぱり凄すぎ……」


 超級職になり、最高位神器グランドレガリアを入手した俺は、少しは彼女に近付けたのではないかと思っていた。


 しかし、改めてその強さに直に触れてしまうと、それが全て錯覚だったと実感させられる。


 やはり『紅蓮の魔女』は強すぎる……

 

 「無事で良かったです。ハヤトさん」


 あっさりと強敵を葬り、いつも通りの笑顔を見せてくれるアイリーンさん。

 

 ――彼女といつか肩を並べる。


 その笑顔を眺めながら、ゴールへの道の険しさを再び痛感してしまうのだった。

ちょっと長引いてしまいましたね……


次回は、やっとダンジョンボス戦ですよ!


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