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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第22話 ハヤト VS サハギン・ロード ②


 「最悪だ……」


 今の俺の目の前には、新たに出現した五体を合わせて、合計六体のサハギン・ロードがいる。

 そのうち一体は、猛毒に侵され今にも息絶えそうな状態にはなっているが。


 ……仲間を呼ぶのは、弱小モンスターだけかと思ってたんだけどな。

 ちっぽけな俺の経験談からくる常識が、音を立てて崩れ去るのがわかる。


 〈ええええ……〉

 〈サハギン・ロードって仲間呼ぶの?〉

 〈スライムとかの特権だと思ってた……〉

 〈あんなん無理に決まってるじゃん〉

 〈いくら『神速』さんでも、これはもう……〉


 体力満タンで、元気一杯の五体のサハギン・ロードは、俺に対して明確な殺意を向けている。


 ……これはさすがにきついか?


 たった一体のサハギン・ロードと、ほぼ互角の戦いを繰り広げていた俺が、新たに五体ものサハギン・ロードと戦い、勝利できる確率はかなり低いだろう。

 セプテントリオンの能力を上手く使えば、ある程度は優位に戦える気もするが、それも長くは続かないのは間違いない。


 ……いっそのこと逃げるか?


 『神速』を使えば、恐らく逃げ切れるだろう。

 しかし、それは先ほどの『斬ん人(きりんちゅ)』を見捨てるという前提での話だ。


 いかに『神速』を使用しても、五体のサハギン・ロードから、三人を庇いながら逃げきることは不可能なのは火を見るよりも明らかだった。


 となると戦うしかないのか……


 そんなことを考えていると、サハギン・ロードたちに動きがあった。


 「ギュァア……」


 「ギュ?ギュァアアア!」


 「ギュァアアアア!!!!」


 最初に戦っていたサハギン・ロードは、猛毒の影響で既に虫の息だ。

 放っておいても長くはないかもしれない。


 その今にも死んでしまいそうな個体の呼びかけに応えるように、新たに出現した個体のうちの一匹が、ゆっくりと歩み寄っていき、銛を構える。


 ……まさか!?


 次の瞬間には、一気に銛を突き立てて殺してしまった。


 ……介錯しやがった。


 それは、サハギン・ロードなりの慈悲なのか、それとも他の理由があるのか。

 奴らの会話を理解できない俺には真相はわからない。

 ただ一つ確かなのは、俺の目の前には、五体のサハギン・ロードが万全の状態で立ちはだかっているということだ。


 「ギュァア!ギュァア!」


 「ギャギャギャギャ!」


 「ギュァアア!」


 連中は、それぞれ雄叫びを上げながら俺を囲むように移動し始める。


 ……どうやら連携をとっているらしいな。


 どうあっても俺を逃がさずに確実に仕留めるつもりらしい。

 

 「……アリオト」


 俺はセプテントリオンを使い、輝く炎を纏う。


 〈まさか!?戦うつもりかよ!〉

 〈それは悪手すぎるよ『神速』さん!〉

 〈まずは逃げてアイリーンさんに合流!〉

 〈『神速』なら逃げきれるだろう!〉

 〈でも、それをすると『斬ん人』たちが助からないよ〉

 〈それはそうだけど……〉

 〈まさか、『神速』さんも同じ気持ちなのか?〉


 ……そう、その通りだ。

 一人だけで尻尾を巻いて逃げてしまうと、『斬ん人(きりんちゅ)』の連中は助からない。

 さすがにそれは寝覚めが悪すぎる。


 ……ということは、どうやら俺にはこいつらを一人で倒すしか道は残されていないらしい。

 俺は覚悟を決めてサハギン・ロードたちを見据える。


 「ギュァアアアア!!!!」


 俺の覚悟を感じ取ったのか、構えを取ると同時にサハギン・ロードの一体が凄まじい勢いで飛び掛かってきた。


 「っとりゃあ!」


 咄嗟に『神速』を使用しながらバックステップで回避する……しかし、そこに襲い掛かるのは六発の水魔法。


 二匹のサハギン・ロードがそれぞれ三発ずつ水鉄砲を発射してくる。

 それで、合計六発。


 「っとお!メグレズ!」


 すかさずメグレズを使用し、魔法無効の光を纏う。

 メグレズを使用した瞬間、せっかく纏ったアリオトの炎は消失してしまった。


 俺が新たに纏った光のおかげで六発の水鉄砲は全て無効化される。

 しかし、敵の攻撃はそれで終わらない。


 いつの間にか上空に飛び上がったサハギン・ロードが銛を頭上に構えながら、高速で落下してくる。


 「……まじかよ!?」


 さらに『神速』を使用、横っ飛びで落下してくるサハギン・ロードの軌道から外れる。

 

 ……だが、それも罠だった。


 横っ飛びで体勢を崩した状態の俺に対して、真っ直ぐに突進してくるのは、最後の一匹。


 「だぁああ!くっそぉ!」

 

 『神速』を使用するが、完全に体勢を崩している俺には、そこまでの加速力は生み出せなかった。


 出来ることは体を捻り、少しでもダメージを減らそうとすることだけだった。

 サハギン・ロードが放った一撃は容赦なく俺の脇腹を抉る。


 「いってぇぇ!」


 『星纏衣・アルタイル】がなかったら間違いなく即死だっただろう。

 それほどの威力を秘めた一撃が、容赦なく俺のHPを大幅に削り取ってしまった。


 「だああ!攻撃力高すぎだろうが!」


 さすがにもう一撃喰らってしまうとお陀仏は避けられない。

 脇腹の痛みを引きずりながらも必死で距離を取りながら、新たなセプテントリオンの能力を使用する。


 「フェグダ!」


 その瞬間、脇腹の痛みは消え、ダメージが全回復する。


 これは、アイリーンさんと戦った『七星』の一人、セプテントリオン・フェグダの能力だ。


 老人の姿をしていたフェグダの能力は、超再生能力だった。

 アイリーンさんによると、相手はこの能力で超火力の魔法を何発喰らっても耐えていたらしい。


 じゃあ、俺にもそんな超再生能力が宿るのか?


 答えはノーだ。

 さすがにそんな強力な能力は使用できなかったし、第一そんな能力与えられて、アイリーンさんの魔法を喰らったとしても、痛みに耐えられずに発狂する自信がある。


 【七星剣・セプテントリオン】で使用かのうなフェグダの能力は、現在負っているダメージの全回復、これだけだった。


 これだけ、と言っても十分ぶっ壊れだけどな。

 メリットはエリクサーを使用しなくても即座に全回復が可能ってこと。

 例えば、今みたいなギリギリの戦いの時とかだな。


 デメリットは、クールタイムの長さだ。

 【七星剣・セプテントリオン】で使用可能な能力には、それぞれクールタイムが設定されている。

 アリオトやメラクなんかの汎用的な能力は比較的短いクールタイムが設定されている。

 反面、フェグダやミザールなんかの能力のクールタイムはかなり長い。


 フェグダに関しては、恐らくこのダンジョンにいる間にもう一度使用するのは難しいだろう。


 だが、まだまだ敵の攻撃は終わらない。

 体勢を整えた俺に対して、次は五体まとめて銛を構えながら突っ込んでくる。


 魔法が効かない俺に対しては、この戦法が最も有効だと判断したんだろう。


 時間差も交えながら、波状攻撃を仕掛けて一気に勝負を決めるつもりだ。


 三体は地上を低い姿勢のまま這うように突進し、残り二体は上空にジャンプしつつ、こちらへ銛を突き立てようと飛び込んでくる。


 ここからは、一つ間違えたら即死だ。


 『神速』を発動させつつ、頭をフル回転させながら次の行動を思案する。


 「メラク!」


 まず使用するのは、メラクによる転移、一塊になって突っ込んでくる三体のサハギン・ロードの背後に蜘蛛の紋章を出現させつつ転移する。


 目の前にいたはずの獲物が一瞬で消えてしまい、戸惑いを見せるサハギン・ロードの背後に出現。

 

 「アリオト!」


 振り向きざまに全力の炎をお見舞いする。


 「ギュアアアアア!?」


 いきなり背後から高出力の炎を浴び、悶絶する三体のサハギン・ロード。


 しかし、これだけで仕留められるほど甘くはない。


 すぐに、三体とも炎を振り払い、怒りのままにこちらへ向けて突っ込んでくる。

 しかし、今回突進してくるのは二体のみ、一体は様子見のためこちらを観察しながら構えている。


 「学習能力高いな、おい!」


 これでは同じ手は使えない。

 次の一手をどうするか、考えを振り絞るが、そこにもう一つ厄介な攻撃が迫る。


 先ほど、ジャンプ攻撃を試みて不発に終わった残り二体のサハギン・ロードが援護のために水魔法を放ってきたのだ。

 六発の高速の水鉄砲が俺に迫る。


 「メグレズ!」


 何とかメグレズを使用し、水魔法を防ぐ。


 しかし、そこに迫るは銛での攻撃。

 突進してくる二体の攻撃をセプテントリオンの能力を使用せずに防がなければならない。


 「これだけは使いたくなかったんだけどなぁ!」


 そこで俺が取り出したるは、伝家の宝刀……もとい、いつぞやの黒蜘蛛戦で使用した超衝撃爆弾スーパーインパルスだった。


 〈出たぁ!超衝撃爆弾!〉

 〈またあれを使うのか?〉

 〈あれだけ散財するなって……〉

 〈いっけええええええ!!!!!〉


 こんなこともあろうかと、無理を言って支給品の中に混ぜ込んでもらった超衝撃爆弾スーパーインパルスを『神速』でのバックステップで素早く後退しつつ、突進してくる二体のサハギン・ロードの間に向かって投げ込む。


 一発で一千万円は超えるという超高額兵器は、すぐに起動し周囲に凄まじい威力の衝撃波を生み出した。

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