第20話 『海魂の冥穴』
日本の最南端に位置するとある場所に新たなSランクダンジョンは出現した。
その名も『海魂の冥穴』……
一見ただの洞窟に見えるのだが、内部には至るところに水場が存在している。
砂浜を伴う浜辺のような場所があると思えば、激流が流れる川のような場所も存在する。
そして、モンスターも水棲動物をベースにしたようなものが多く出現し、冒険者の行く手を阻む。
現在そのダンジョンに挑んでいる冒険者たちがいる。
「リーダー!ちょっと待ってください。置いてかないでくださいよ!」
「おいおい、早くこっちへ来いって!ほら!ジャンプジャンプ!」
「焦らず飛べば大丈夫だから!落ち着いてジャンプしてね!」
冒険者は男性二人、女性一人の三人組。
今は、激流のような流れが速い川のようなエリアで、ところどころに設置された足場をジャンプしながら渡ろうとしているようだった。
「いやぁ、ダンジョン統括省からの依頼なんてろくなもんじゃないよな……」
「報酬が良かったから受けたのに……こんなに大変だなんて」
「おいおい!まだ弱音を吐くのは早いんじゃないのか!?これはうちのクランが有名になるチャンスじゃないか!」
三人組は同じクランに所属しているようだった。
彼らのクランは『斬ん人』、地元沖縄県を中心に活躍する現在売り出し中の中堅クランだ。
国内で有名な『九頭竜』や『金剛の刃』、『闇鍋騎士団』といったクランと比べると、若干見劣りするランクのクランと呼ばれている。
彼らは現在、ダンジョン統括省からの依頼を受け、新たに出現したSランクダンジョンへ挑んでいる。
名だたるクランを差し置いて何故依頼が来たかと言えば、素早くダンジョンへ駆けつけることが可能なクランの中では、彼らのクランが最も強く、実績も多かったからだった。
クランの躍進を願う彼らからすれば、またとないチャンスとばかりに、二つ返事で飛びついたのだが……
初めてのSランクダンジョンの難易度はあまりに高く、苦戦に次ぐ苦戦を強いられていた。
「そんなこと言われても……モンスターは強いし、深いし広いし、今までのダンジョンとは大違いじゃないですかぁ……」
「弱音を吐くな!俺たちへの依頼の主目的はあくまで偵察、命の危険を感じたら撤退しても良いと言われている!本当に危なくなったらすぐに撤退するから、後少しは頑張るんだ!」
『斬ん人』に依頼されている内容は、まず第一にダンジョン内の偵察だった。
あわよくば踏破してしまっても構わないと言われてはいるが、それはあくまでも最終目標。
依頼主のダンジョン統括省もそこまでは期待していない。
しかし、クランオーナーの島袋ガクトは、そのことを理解しながらも、心の奥底ではSランクダンジョン踏破に一縷の望みをかけていた。
『斬ん人』のメンバーは現在14名。
その中でAランク冒険者はガクトのみ。
後は軒並みCランクか良くてBランクの冒険者のみで構成されている。
Aランクの冒険者がゴロゴロいるようなトップクランとの間には、戦力的に歴然とした差が存在している。
本来ならばこんなSランクダンジョンに挑戦するような機会には到底恵まれない。
せいぜい、他の冒険者と同じく低階層でレベリングや資材集めを行う程度だっただろう。
だが、今回地元だということもあって回ってきたこのチャンス。
依頼主はダンジョン統括省ということもあり、その報酬はかなり大きく、バックアップも豊富だ。
このチャンスを活かしてトップクランとの差を一気に詰める。
ガクトは、そんな想いを抱きながら、この依頼を受けていた。
(だとしても……そろそろ限界は近いな。山ほど支給してもらえた物資もかなり減ってきたし、出現するモンスターも目に見えて強くなってきた……)
ここまでの攻略で連れてきた団員たちのレベルもかなり上昇している。
この場で引き返し、ダンジョンの情報を持ち帰るだけでもかなりの報酬をもらえるのは間違いない。
(……そろそろ潮時か)
「よし!引き返す……ん?」
その時、ガクトの視界に見えたのは、一匹のモンスターらしき影だった。
三人とは少し離れた水場に浮かぶ影が一つ。
「おい……気を付けろ……」
ガクトは他の二人にも注意を促す。
その影は徐々に大きくなってきており、水中から地上に向かってきているのがわかる。
やがて、水面に出現したのは、一人……いや、一匹だろうか?
体型は人間だが、体中が鱗で覆われており、まるで、半魚人のような姿をしたモンスターだった。
そのモンスターはその手に銛のような武器を持っている。
(……あれは……まさか!?)
「おい!逃げるぞぉ!」
ガクトの脳裏によぎったのは、絶対に遭遇してはいけないと言われているモンスター。
「あれは……サハギン・ロード!」
地元、沖縄では出会ってしまったら死は確実に免れないと有名だ。
そんなモンスターとよりによってこんな場所で出会ってしまうなんて……
「リーダー!どうしますか!?」
「とにかく全力で逃げろ!準備ができ次第、すぐに転移の巻物を使って地上に戻るぞ!アツミ、すぐに準備してくれ!」
「はい!わかりました!」
転移の巻物はダンジョンの入り口まで転移可能なアイテムだが、戦闘中は使用できない。
そのため、まずはモンスターから距離を取る必要がある。
アツミと呼ばれた女性はアイテムボックスから転移の巻物を取り出し、使用可能となった瞬間に転移できるように身構える。
三人は大急ぎで走り続ける。
先ほどの足場も全力で飛び越え、水場に足を取られながらも後ろを振り返らずにひたすら駆け抜ける。
やがて、少し開けた場所に辿り着いた瞬間、発動条件を満たし転移の巻物が使用可能となった。
「リーダー!いつでも行けます!」
「よし!すぐに転移だ!」
「はい!転移はつど……」
その時、三人が見た光景は、視界一杯に広がる大波だった。
水魔法『ギガ・タイダルウェイブ』、強力無比な大津波を放つ水属性の極大魔法の一つだ。
もちろん、放ったのはサハギン・ロード。
あれだけあった距離を一瞬で詰め、転移の巻物を使用するまでの一瞬の隙をついて、『ギガ・タイダルウェイブ』を使用したのだった。
全てを押し流すような、大津波が三人を飲み込む。
やがて、水が引いた後に残ったのは、地面に倒れ伏している三人の姿だった。
「……く、くそぉ……からだが……うごかねぇ……」
かろうじて生きているガクトが、苦し紛れに呟く。
他の二人も何とかギリギリ生きているみたいだが、体を動かせないほどのダメージを負っているようだった。
サハギン・ロードが三人へ向かってゆっくりと近付いてくる。
やがてガクトの目の前に立つと、とどめを刺すべく銛を振り被り……真っ直ぐに突き立てた。
……瞬間だった。
「メラク!」
ガキィィン!と金属音がその場に鳴り響く。
ガクトの頭を狙って突き立てられたはずの銛は、星の如く光り輝く剣によって阻まれた。
たった今まで身動き一つできなかった島袋ガクトが倒れていた場所。
その場でサハギン・ロードの銛を受けている人物は……
『神速の配信者』草薙ハヤトだった。
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