第14話 ○○王に俺はなる!
ジョブについて――
ダンジョンに挑む冒険者には不可欠となっているジョブ。
冒険者はジョブに就くことにより、さまざまな恩恵やスキルを使用することが可能となる。
このジョブに関しては、未だ完全には解明されていない部分もあるが、冒険者ギルドやダンジョン統括省の尽力により、人類にとってはかなり身近なものとなっている。
ジョブは冒険者ギルドにて選択が可能となっている。
この選択肢は冒険者それぞれの適性によって変化する。
例えば、体が頑丈ならば戦士系統、魔法に適性があるならば魔導士系統などだ。
また、格闘技やスポーツを嗜んでいるものはそれらが反映されるケースもあるようだ。
空手の経験者ならば武闘家系統、アーチェリーならば弓術士系統などである。
このように、さまざまな要因で冒険者のジョブは決定される。
そしてその選択肢を決める存在は冒険者ギルド……ではなく、ダンジョン統括省……でもない。
その存在は謎に包まれており、ダンジョンに深く関わる何か……ということしかわかっていない。
冒険者ギルドは、とある方法を使用し、この存在から受け取った選択肢を、冒険者に提示しているに過ぎない。
そのため、乱用するのは出来る限り避けたいのが本音であり、上級職や超級職に就くための厳格な基準を取り決め、管理しているのはこのためである。
それでは、どの冒険者がどのようなジョブに就くことが出来るのか?
実はそれも解明されてはいない。
先程述べた通り、過去の経験などが反映されるケースもあるため、予め該当する格闘技やスポーツを経験した後に冒険者になるなどの対策もあるにはあるが……
それでも希望通りのジョブが選択肢として出現しないことも往々にして存在する。
今までの蓄積である程度の傾向は掴めているが、最終的は冒険者ギルドでもわからないため、正に神のみぞ知る、としか言いようがない。
今は、Sランク冒険者として名を馳せる青羅・バーンシュタインも、小さい頃から氷系統の魔法をひたすら鍛錬し続けたものの、上級職にランクアップする段階で適性に該当する選択肢が出現しなかった時は、バーンシュタイン家が引っ繰り返るほどの大騒動を引き起こすことになったのは記憶に新しい。
セイラはその後に提示された選択肢の中からほとんど経験のなかった格闘家系統を選択し、血の滲むような努力の末にではあるが、最終的には超級職『魔拳王』として、世界トップクラスの冒険者と成り得たのだから、結局提示される選択肢の正しさを証明する事例となったのだが……
そして、また新たな選択肢が、冒険者草薙ハヤトに提示されたのだった。
◆
俺に提示された超級職の選択肢は二つ……
『神速王』と『配信王』だ。
スキル『神速』を使用し、アイリーンさんと共に戦ってきた光景を『配信』し続けてきた俺に提示された選択としては……間違いなくピッタリだと思ってしまった。
後は、どちらを選ぶか。
それをじっくり考えようと思う。
戦闘のことだけを考えるならば『神速王』一択だろう。
詳細はわからないが、間違いなく今俺が使用している『神速』をより効率的に使用可能になるのは間違いない。
アイリーンさんに頼りっぱなしの戦闘面に関しても、ある程度役立てるようになるのならば……
こちらを選択するのは至極当たり前なことに思える。
かすみさんや陸奥さんも『神速王』を強く推しているのは、これが理由だろう。
(鏑木支部長は、興味が無くどちらでも良いらしいが……)
まあ、普通に選ぶなら十人中、九人がこちらを選ぶんだろう。
しかし、俺はもう一つの選択肢である『配信王』の方にもかなりの興味を持ってしまっている。
なぜならば……俺は配信者だからだ。
俺は元々配信者志望で冒険者になった。
『深淵の回廊』でトラップを踏み、いきなり深淵階層に飛ばされた時のあの生配信が俺の原点。
あの配信でアイリーンさんとも出会うことができ、パートナーとなれた今があるんだ。
その原点を極めようとするならば……選ぶのは『配信王』だろう。
『配信王』は間違いなく配信特化の超級職。
アイリーンさんの強さを更に世間に知らしめるためには、こちらを選ぶのが正解なのだろう。
アイリーンさんと肩を並べて戦うべく『神速王』を選ぶのか……
アイリーンさんを更に配信するために『配信王』を選ぶのか……
二つに一つ。
俺の頭の中をさまざまな考えが巡り、答えを出せないでいた。
「あの……ハヤト君。ひょっとして……悩んでる?」
悩みに悩み、頭を抱える俺にかすみさんが心配そうに声を掛けてきた。
「え?ああ、はい。物凄く悩んでます……」
「えええ……なるほど……ええと、どうしようか」
俺の様子を見てかすみさんも頭を抱え始める。
暫く考え込んでいたかと思うと意を決したかのように俺に向かって諭すように口を開き始めた。
「あのねハヤト君。君を超級職にするのは、緊急で新戦力が必要になったからっていうのは伝えたわよね?」
「……はい、それは覚えてます」
「だったら、より戦力になりそうな『神速王』を選んでもらわないとこっちも困るわよ」
「あ……それはそうですね」
かすみさんの論理はどう考えても正しかった。
俺はその言葉を聞いて一瞬で納得してしまったほどだ。
なるほど、確かに戦力を増やすために特別に俺を超級職にランクアップさせてくれるならば、より戦闘力が高そうな『神速王』を選ばない手はないだろう。
配信特化の『配信王』になっている場合じゃない。
そうして、俺は『神速王』を選択しようとする……
そこで、隣にいたアイリーンさんと目が合ってしまった。
相変わらず吸い込まれそうな透明感のある大きな瞳だ。
そんなことを考えていると、ふとアイリーンさんの意見を聞いていないことに気が付いた。
「あの……アイリーンさんは『神速王』と『配信王』のどっちが良いと思いますか?」
「はい、私はハヤトさんが選ぶならどちらでも良いと思います!」
……なるほど、どちらでも良いか。
やっぱり、俺のジョブにはあまり興味が無いのかな?
アイリーンさんらしい答えだなぁ……と考えていると。
「ただ……」
「ハヤトさんがハヤトさんらしく、いられるようなジョブに就いて欲しいとは思います!」
付け加えられたその言葉に思わずはっと息を飲んでしまった。
そうか、俺らしくいられるような超級職について欲しい。
アイリーンさんにとっての俺らしさ……か。
今までの冒険を何度も思い返しながら、その言葉が表す意味を頭の中で深く考える。
そして、俺の心は一つの結論に達した。
「決めた……」
「俺が選択する超級職は……」
「『配信王』だ!」
俺は心に浮かんだ言葉をそのまま口に出した。
かすみさん>あかんやん
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