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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第9話 村雲ミズキという少女

 

 その事態は突然起きた。

 『黄牙団』の序列二位と三位、楊梓晴と呉李静と戦っていたセイラと清十郎の耳に聞こえてきたのは、激しいジェット音だった。


 戦闘機でも突っ込んできたのかと誤認してしまいそうなほどに急接近してくるその轟音に、二人は心当たりがあった。


 

 「清十郎……この音はもしかして?」


 「はい、お嬢様。恐らく私も同じことを考えています」


 「はあ……もしかしたらと思ってましたけど、本当に来てしまったのね」


 『闇鍋騎士団』の団員が登場した時点で二人は嫌な予感を抱いていた。


 それは、『闇鍋騎士団』のクランオーナーである『村雲 ミズキ』の登場だ。

 

 実は、二人は彼女とは何度か会ったことがあるが、印象は最悪だった。


 その理由は彼女の人間性に他ならない。

 無自覚の悪意……とでも言えば良いのだろうか。

 彼女の行動が原因で起こったトラブルや事故は数知れず。

 そのせいで、『闇鍋騎士団』が度々炎上し、世間から迷惑系と認知されていると言っても良いだろう。


 戦闘時に周囲を巻き込みまくる『紅蓮の魔女』ことアイリーン・スカーレットも、無自覚で周囲を焼き尽くすことがあるが、そのアイリーンがマシに思えるほどには、『村雲 ミズキ』は非常識な冒険者としてその名を知られてしまっていた。


 「何を余所見している!?お前らの相手はこっちだろ!」


 『村雲 ミズキ』の出現によってイマイチ対峙している目の前の二人に対して、完全に集中しきれなくなっているセイラたちの隙を狙って攻撃をしかけてくる楊梓晴。


 だが……


 「わかって……ますわ!」


 その攻撃を軽くいなし、鳩尾目掛けて正拳突きを見舞うセイラ。

 カウンター気味にまともに喰らってしまった楊梓晴は、悶絶しながら膝を付いてしまう。


 「が……はぁ」


 「あなた方もなかなかの強さですけど、あの化け物と比べると役不足ですわ」


 やはりSランク冒険者とAランク冒険者の間には大きな壁が存在している。


 先程から隣での出来事を観察しながらも、二人の相手を余裕で対応出来ているのも、この実力差があるからに他ならない。



 「ちぃ!なめるなぁ!」


 

 セイラのセリフを聞いた途端に激昂した呉李静が、上空から銃弾を放つ。



 「あなたの相手は……私です!」



 しかし、その銃弾は清十郎の刀によってあっさりと弾かれてしまう。

 清十郎は返す刀で、『銀嶺』による斬撃を放ち、上空の呉李静の迎撃を試みた。



 「くっ!!!猪口才なぁ!」


  

 ギリギリのタイミングではあるが、何とか空中で旋回して斬撃を避けることには成功する。


 しかし、呉李静は気付かなかった。

 今の斬撃を回避しようと旋回している間に、自分の真上に飛び上がって来たセイラの存在を。



 「だらっしゃぁああ!……ですわぁ!」


 

 そのまま華麗に錐揉み状に回転しながら、豪快に蹴りを叩き込む。



 「ぐはぁああ!!!」


 

 真上から後頭部に強力な蹴りを叩き込まれた呉李静は、ほぼ垂直に地面に墜落し、そのまま意識を失い倒れ伏す。


 その身を翻しながら着地を決めたセイラの眼前には自らが倒した二人の人物がいる。

 

 片や、鳩尾に強力な正拳突きを喰らい、息も絶え絶えにうずくまる者と……


 片や、後頭部に蹴りを喰らいながら地面に叩きつけられ、意識を失った者……


 『蒼氷の聖女』と『龍殺の守護者』の連携技に、『黄牙団』の序列二位と三位が……



 すなわちクランオーナー、劉愛蕾の右腕と左腕が、敗れた瞬間だった。


 

 ◆


 時間は僅かに戻り、劉愛蕾と村雲ミズキが顔を合わせたところへ戻る。


 

 「ていうことは、お前がこのふざけた奴らの親玉だってのか?」


 「はい!私の仲間の仇はきっちり取らせて頂きますよぉ!」


 ぶんぶんと肩を回しながら張り切っているクランオーナーに向かって、その後ろで他の団員たちが何やら言いたそうな、それでいて言い出せないような表情をしている。


 その中で、サブオーナーのサダヨシが思い切って口を開いた。



 「あの、オーナー?……仲間たちは別に死んだわけじゃないですけど……わかって言ってます?」


 「……何ですってぇ!?サダヨシさん、そういうことはもっと早く言ってくださいよ!」


 「いや、それはオーナーが勝手に……」


 「もー!サダヨシさんのせいで皆さんのこと死んだことにしちゃったじゃないですか!」


 「いやだから、それは……」


 「はい!ごめんなさいは!?」


 「ごめんな……さい」


 あまりの剣幕にサダヨシの心が折れてしまった。


 このやり取りからも普段のクラン内での大変さが見え隠れしてしまう。

 『金剛の刃』のクランオーナー、アキラは彼に心の底から同情した。



 「あたしはさっきから一体何を見せられてるんだい?」


 「はい?ああ、お待たせしました。それじゃあ戦いましょうかね!」


 「小娘ぇ……良い度胸じゃないか」


 「小娘じゃなくてミズキっていう名前があります!」


 「小娘……お前」


 「ミズキと呼ばれています!」


 「だから、小娘」


 「ミズキです!」


 「………………ミズキ」


 今度は劉愛蕾の心が折れてしまった。


 (あの化け物が……あいつは一体何者なんだ?)


 あの劉愛蕾の心をへし折ってしまうほどのミズキのメンタルの強さにアキラは改めて驚嘆してしまうのだった。


 「あれ?何か忘れてるような……ああ、いけない!メイ!メイ―!」


 突然何かを思い出し、とある人物の名前を呼び始める。


 「はい!ここにいます!」


 すると、物陰から一人の少女がひょっこりと顔を出した。

 ミズキと同年代か、少し年下だろうか。

 見た目はかなり幼く見えてしまう。


 「あっ!いたいた!もう、どこに行ってたの?」


 「すいません、オーナーの速さについていけなくて、さっきやっと追い付いたばっかりです……」


 「あなたは、うちのクランの配信担当なんだからね!はぐれたら配信が止まっちゃうでしょ!」


 「はいぃ……すいませんでしたぁ……」


 自分を置いてかっ飛んでいったのはミズキなのに、怒られてしまってやるせない気持ちになってしまう。

 ただ、『闇鍋騎士団』の中では普段通りのことなので、既に慣れてしまっているメイは、素直に謝ってしまうのだった。


 「これまた凄いのが来たねぇ……まあこれからあたしに殺られちゃうんだからどうでも良いけどね」


 「さて……これで配信もバッチリ……後はあなたをぶっ飛ばすだけですね!」


 劉愛蕾の物騒な言葉もどこ吹く風だ。


 ミズキは手に持っている剣を構え、戦闘態勢を取る。

 そして、それを見た劉愛蕾も帯電状態へと移行し、錫杖の先端をミズキの方へと向ける。


 「よーいどん!行きますよー!」


 「来いよ、こらぁアアアア!!!」


 掛け声と共に勢いよく駆け出すミズキと、獣の如き雄叫びをあげながら迎え撃つ劉愛蕾。


 『黄牙団』のクランオーナーと『闇鍋騎士団』のクランオーナー。


 どちらも癖が強く、個性的な二人の実力者。


 その二人が、いよいよ激突する。

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