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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第3話 『蒼氷の聖女』 VS 『黄雷の戦妃』

 時刻は数時間前へ遡る。


 自らの豪邸……自宅へ戻り体を休めていたセイラの元に、ダンジョン統括省から召集の連絡が入ったのは、夜中の2時を周ろうかという頃だった。

 当初の連絡は、「沖縄に出現した新たなSランクダンジョンへ至急向かってほしい」だった。


 早朝に出発し沖縄へ向かおうとしていたセイラの元に新たな連絡が入る……


 「ダンジョン統括省の本部へクラン『黄牙団』が向かっている、すぐに本部へ向かってほしい」


 ダンジョン統括省、第三支部の鏑木支部長直々の連絡により、急遽行先を変更することになった。

 内心かなりイライラしてしまったが、内容的にかなり切羽詰まっている状況は理解できたので、素直に従うことにした。


 そして、清十郎を伴い、超特急で東京の霞ヶ関へ向かった結果、なんとかギリギリのタイミングで間に合ったのだった。


 「劉愛蕾……まさか本当にこんなところまで来ているとは驚きですわ」


 鏑木支部長から聞いた時には俄かに信じられなかった情報だったが、現在目の前にいるのは紛れもなく劉愛蕾……自分と同じSランク冒険者だった。


 「あたしもあんたのことは前から聞いているよ。『蒼氷の聖女』……前から戦ってみたいと思ってたんだ」

 

 「へえ……わたくしは、あなたの噂を聞いて出来ることならお会いしたくないと割と本気で思っておりましたわ」


 「あははは!あんた……面白いねぇ!」


 Sランク冒険者同士の問答がどこかの琴線に触れたらしく、大口を開けて笑い始める劉愛蕾。

 セイラは割とドン引きした表情でその様子を眺めている。


 「……ああ、よく笑わせてもらったよ!……それじゃあせっかくだし、あんたにもハンデをあげるよ!一発だけあたしに全力の一撃をぶち込んでもらって良いからね!」


 「はあ?あなた、わたくしのことを舐めてるんですの?」


 先ほどの金剛寺に対して出した提案と全く同じことを話す劉愛蕾の姿に、心底不快感を感じてしまう。

 

 セイラはセイラで冒険者の頂点であるSランクにまで上り詰めた自負とプライドがある。

 その自分に対して、ハンデをあげるだと?それも……無抵抗で一撃を受ける?

 ……明らかに自分を舐めているのは明らかだった。


 「いや、気を悪くしないでおくれよ。ただ、自分と同格と言われるあんたの実力を知りたいだけなんだよ。ほらほら、遠慮はいらないから全力で来なよ!」


 怒りを露わにするセイラとは相反し、余裕の笑みを崩さない劉愛蕾。

 その姿を自らへの侮辱と判断したセイラは、即座に持っていた杖をアイテムボックスへ収納し、拳を握りしめる。


 杖を使用した魔導士スタイルではなく、鍛え上げた格闘術で戦う『魔拳王』のスタイル。

 すなわち、セイラの本領である。


 「清十郎!そこで飛んでる鳥人間はあなたに任せます!わたくしは、今からこの女を……ぶちのめしますわ!」


 「わかりました、お嬢様。こちらはお任せ下さいませ」


 「頼みましたわよ!『氷結地獄コキュートス』!」


 自らの主人が奥義を使用し、本気の攻撃態勢に移行しようとしているのを横目に、いつの間にか抜刀済みの清十郎がスタンバイしていた。

 セイラから任された相手を抑えるべく、最大級の警戒を持って刀を構える。


 「いつの間に……くそ、面倒なのが来やがったなぁ」


 陽動要員としてここにいるはずなのに、気付けば音に聞こえた『龍殺の守護者』の相手をさせられそうになっている状況に、上空で深いため息を吐く呉李静だった。

 しかし、今は清十郎の相手をしている場合ではない、恐らく自らが下手な行動を起こさなければ、相手も何もしてくることはないだろうと踏んでいる。

 そのため、今は、劉愛蕾とセイラの戦いを見守ることにした。


 視線を戻すと、そこには体中から青白い光を放ち、完全に攻撃態勢に移行している『蒼氷の聖女』の姿があった。


 「これは……やばいな」


 自らが所属している『黄牙団』のクランオーナーの実力ははっきりと理解している。

 共に様々な戦場を経験し、その度に桁外れの戦闘力を嫌と言う程見てきている。

 しかし、その理解を以てしても「あれをまともに喰らうのは良くない」と見ただけでわかってしまうほどの攻撃力を、セイラは秘めている。


 「いきなり『最終階層ジュデッカ』は可哀そうですわ……だからとりあえず……『第二階層アンティノラ』辺りで手を打ちますわ!」


 さすがに、霞ヶ関のど真ん中で周囲に絶対零度の凍気を放つわけにはいかない。

 そこでセイラは、自らの凍気による周囲への影響が比較的すくない『第二階層アンティノラ』を選択した。

 自らが放っていた、闘気と魔力が凝縮された青白い光が、手足に凝縮されていく。

 セイラから放たれる凍気によって、徐々に周囲の気温が下がり、戦いを見守る金剛寺たちの吐息も白くなっていく。


 「さあ……そろそろ行きますわよ!」


 その状態で、全力の拳撃を放とうと構える姿の流麗さに、周囲の冒険者が固唾を飲んで見守る中……


 「劉様ぁ!さすがに、それは喰らっちゃいけねぇ!『霊亀』を使って下さい!」


 尋常ではないポテンシャルを感じさせるセイラの姿にさすがに、不安を感じたのだろう。

 上空の呉李静が、大声でアドバイスを送る。『霊亀』とは何かのスキルだろうか?

 今さらどんな防御手段を講じてこようが、こうなればそれごと粉砕するのみだ。


 「馬鹿かよ!相手がまだ最高位神器グランドレガリアを使ってないのに、あたしだけそんな真似できるわけないだろうが!」


 さらっと、重大情報を口にする辺り、本当に馬鹿なのか?

 少なくとも、劉愛蕾が何らかの最高位神器グランドレガリアを所持しており、先程聞こえた『霊亀』というスキルが、それを使用したスキルだということはわかった。


 「馬鹿の相手はコリゴリですわ。とりあえずこれで……くたばってしまいなさいなぁ!!!!」


 茶番に付き合うのも飽きた。

 さっさとこの状況を終わらせようと、鋭い踏み込みと共に全力の正拳突きを放つ。


 「おっしゃぁ!こいやぁ!!!!」


 宣言通り、丸腰で受ける劉愛蕾。

 セイラの全力の一撃は、綺麗に胸元に入り、凄まじい衝撃音を放つ。

 一気に凍気が弾け、劉愛蕾ごと、周囲一帯を凍結させてしまう。


 (すごい……これは……絶対に死んだだろう!)


 金剛寺も、ハヤトの配信を見てセイラの能力は把握している。

 しかし、画面越しと実際に見るのとでは大違い。

 この一撃を無抵抗で受けて生きていられる生物がこの世にいるとは思えない。

 今眼前で放たれたのはそう感じてしまう程の攻撃だったのだ。


 「ふん……さすがにこれで終わりですわね」


 思い通りの一撃をぶち込み、多少スッキリした面持ちのセイラ、纏っていた凍気を全て拳に載せて放ったため、青白い光も全て消失してしまっている。

 先程まで劉愛蕾がいた場所には巨大な氷塊が残るのみ、そこに生命反応があるとは思えなかった……が。


 「いやぁ、恐ろしいなぁ」


 上空の呉李静が、ライフル銃を抱えながらそう呟いた。


 「お嬢様の実力は思い知りましたか?あなたもさっさと投降してしまった方が賢明ですよ」


 対峙したままの清十郎が放った言葉を聞いた呉李静は、気まずそうに頭をポリポリと掻いた後……


 「いや、そうじゃないんだよなぁ。確かにあんたんとこのお嬢さんは恐ろしいな。俺が戦ったならば一瞬で殺されるだろうに……だが、一番恐ろしいのは、やはりうちの劉様って実感しちゃったんだよね」


 「な、何!?どういうことだ!?」


 驚愕すべき言葉を聞き、思わず声を張り上げてしまうが……

 その瞬間、劉愛蕾がいた位置にあった氷塊の内部に閃光が轟いた。


 それは氷塊の中心部から真っ直ぐに上空へ伸びていく天を衝く光だった。

 その一瞬後に、ズガァン!!!と轟音が鳴り響く。


 「これは、雷か!?」


 氷塊は瞬間的に砕け散り、そこには無傷の劉愛蕾が立っていた。


 「悪いな。攻撃に関しては大丈夫だったんだけど、氷の中から自力で脱出できなくてな、思わずスキルを使っちまったよ」


 そこにいた一同は、信じられないものを見ているような呆然とした表情を浮かべている。


 まさか、今の一撃を無抵抗で受けて生きているだけではなく、ほとんど無傷でいられるなんて……


 同じSランクでもこれだけの実力差があるのか?


 セイラと清十郎の到着により、自らの命が助かったと安堵していた冒険者たちに、再び絶望の表情が浮かぶ。


 「まあ、あんたの攻撃はかなり凄かった。一瞬受けたことを後悔しちゃったもんねぇ……」


 セイラの正拳突きを喰らった胸元をパンパンと手で払いながらそう呟いた後……


 「さあ、次はあたしの番だね!覚悟しなよぉ!!!!」


 再び獰猛な笑みを浮かべながら戦闘態勢に入る劉愛蕾。


 (これは、さすがに命懸けですわね……鏑木支部長、恨みますわよ!)


 セイラはその姿を見ながら、状況が想定よりも遥かにヤバいと理解し、自らの命を覚悟するのだった。

 

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