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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第2話 『黄牙団』の恐怖

新年あけましておめでとうございます!

昨年はたくさんの応援、ブクマ、評価、感想ありがとうございました!


今年も皆様に楽しい小説をお届けできる様に精進させて頂きますので、お手柔らかによろしくお願いします!

 

 

「ふん、一先ず陽動は成功と言ったところか……」



 ――そう呟いた彼の名前は、呉李静、『黄牙団』に所属している冒険者の一人だ。


 階級はAランク、『黄牙団』の中での序列は第3位、クランオーナーの劉愛蕾の左腕といったポジションに位置している。


 彼は今、自らが所持する神器『天凱翼』を装備し、上空から状況を達観している。


 

 「あーあ、あいつらも終わりだな。劉様の相手をさせられるとは可哀そうに……」

 


 念のため、手に持っているライフル銃の照準は相手の冒険者たちへ合わせてはいるが、まず必要にはならないだろう。

 何故ならば、これから眼下で繰り広げられるのは、劉愛蕾による一方的な虐殺に他ならないからだ。



 「えーと、1,2……大体10人程度か、3分も持たないだろうな」



 一歩一歩、ゆっくりとしかし確実に歩みを進める劉愛蕾の姿に対して、対峙する冒険者たちは目に見えて狼狽えているのがわかる。


 恐らく冒険者の中で一番の実力者であろう、中央にいる薙刀を構えている男性に対して照準を向けながらも、これから彼らに訪れるであろう悲劇に対して、同情の念を禁じ得ないのだった。


 

 ◇


 

 そして、その怪物と対峙させられている張本人である金剛寺は、まるで蛇に睨まれた蛙のように、体中から冷や汗を出しながら、自らの運命を呪っていた。



 (対峙してわかった……こいつは、噂以上の化け物だ……)



 金剛寺自身も、数々の修羅場を潜り抜けてきたという自負はあるが、目の前の女性から発せられる威圧感は、今まで感じたことがないものだった。



 (間違いなく全員殺される……しかも一方的にだ)


 

 重ねに重ねた自らの経験が伝えてくれるのは、圧倒的な力の差だった。

 それこそ、象と蟻……いやそれ以上かもしれない。

 そんな絶望的な状況に対して、仮にもこの場で一番の実力者として出来ることがあるとすれば……


 

 「と、止まれ!お前たち、一体……どういうつもりなんだ!?」



 カラカラに乾いた喉を振り絞り、精一杯声を張り上げる。

 何とか、時間を稼ぎ……あわよくば仲間の命を救うこと。

 それが今の自分に打てる唯一の手段と理解してしまったのだ。


 

 「ふうん?見たところ、あんたがここのリーダーかい?」


 「ああ、そうだが……」


 値踏みするようにこちらに発せられた劉愛蕾の質問に対して、決して刺激をしないように慎重に返事をする。

 一つ返事を間違えればその瞬間に殺されてしまうのではないか?そんな疑念を常に持ちながら対峙しているため、金剛寺の精神力はみるみるうちに削られてしまっていた。


 

 「まあ、そんなに恐縮しなくても良いさ、そっちが先に手でも出してこない限り、こっちは何もしないからさ……『今のところは』ね」


 完全に委縮状態にある金剛寺たちの状態を察してか、柔和な態度を見せる劉愛蕾の姿に、何人かの冒険者たちは多少の安堵を浮かべるが……


 金剛寺はその姿に、微かではあるが違和感を覚えてしまった。



 (いきなり正門を吹っ飛ばしておいて何もしないだと!?こいつはやはり道理が通じないのか?それとも頭がおかしいのか?しかも、『今のところは』だと?一体何が狙いなんだ!?)



 よく考えれば『黄牙団』の連中の行動はおかしいことだらけだ。

 わざわざ地面を爆破して冒険者たちを集めておきながら、その目の前で自ら正門を破壊している。

 陽動だとしても、こんな回りくどい行動を取るだろうか?

 はっきりと断言はできないが……何かが引っ掛かる。



 「んー?どうしたんだい?完全に固まっちゃってるね。目の前に侵入者がいるんだよ?それで良いのかーい?ほれほれどうした?」


 

 極限の緊張状態でありながら、必死で思考を纏めようと頭を回転させている金剛寺に向かって、劉愛蕾はニヤニヤと笑みを浮かべながら煽り始める。


 

 (くっ……!一体誰のせいでこんな……いや、煽りに負けずに考えろ!こいつらの目的は一体なんだ?……ん?)


 

 一瞬、劉愛蕾の煽りに対して怒りの感情を抱いてしまったが、その直後に奇妙なことに気付く。



 (上空のあいつと目の前の龍愛蕾、たった二人でこんなところまで来たわけじゃあるまい……他のメンバーはどこに行った?……まさか!?)

 


 その事実に気付いた瞬間、自らの血の気が引いていくのがわかった。



 (これは……俺たちを……冒険者をこの場におびき寄せるための……罠か!)



 「全員すぐに戻るんだ!本部が……危ない!」


 

 これが陽動だとすれば、他の『黄牙団』のメンバーが本部に向かっているはずだ。

 今回、集められた冒険者たちは全員ここに出張ってしまっているため、本部は丸腰状態。

 そんな所に攻め込まれたら一たまりも無いだろう。

 即座に踵を返し、本部へ向かおうとするが……


 

 「『麒麟』……」




 振り返った目の前には、その瞬間まで背後にいたはずの劉愛蕾の姿があった。

 何かのスキルを使用したのだろうか。音も無く瞬時に移動した姿に一同は驚愕する他無かった。


 「あんたらさぁ、せっかく来たんだしもうちょっとゆっくりしていきなよ」


 「な!?瞬間移動だと!?」


 「いや、瞬間移動じゃないんだけどね、まあ似たようなもんかな?」


 能力の詳細は分からないが、退路を断たれたことだけは確かだ。


 (最悪だ……このままでは本部が危ない!)


 一刻も早く本部に戻らなければならないが、目の前には最強の冒険者。

 まず逃がしてはくれないだろう。

 ということは、相手を倒すしか選択肢は無いが……それが実現できる可能性は限りなく低かった。


 「ふうん、そうだねぇ……そんなに縮こまられちゃ面白くないしね……そうだ!こうしよう!あんたらの中で一番強い奴の攻撃を一撃だけハンデとして喰らってやるよ!」


 驚愕の提案をしてくる劉愛蕾の表情には満面の笑みが浮かんでいた。


 (……つくづく狂ってやがる!Sランク冒険者っていう奴は狂ってなければなれないのかよ!)


 自分では有り得ないような提案を、事も無げに繰り出してくる相手の感覚に辟易しながらも、千載一遇のチャンスが転がり込んできたのでは?と武器を握る手にわずかに力が入るのがわかる。


 金剛寺のジョブは【金剛戦士】、一撃の威力に重きを置いた上級職だ。

 しかもレベルはカンスト、はっきり言って一撃の攻撃力のみならばSランク冒険者にも通用する自信はあった。

 その一撃を、ハンデとしてぶち込ましてくれるというのだ。

 

 「その申し出、有難くもらっておく……だが後悔するなよぉ!唸れ……『ヴァジュラ』ァ!!!」


 その瞬間、金剛寺が持つ薙刀が黄金に輝き出した。

 

 Aランク神器『金剛刃・ヴァジュラ』、能力は所持者のHPを注ぎ込むことにより、攻撃力を増加させることが出来る。

 そして、たった今、金剛寺は自らのHPを1だけ残して全て自らの武器に注入した。

 その結果として、『金剛刃・ヴァジュラ』の攻撃力は約5倍に膨れ上がっている。


 「まだまだぁ!『金剛力』発動!」


 そこへ、【金剛戦士】の固有スキルである『金剛力』を重ねて発動させる。

 『金剛力』の効果は、次に放つ攻撃の威力を倍加させることが可能となる。


 これで、合わせて10倍、下手をすればSランクダンジョンのボスですら倒すことも可能な程の攻撃力を金剛寺は手に入れたことになる。


 (どうせ、ここで仕損じれば死ぬだけだ……)


 現在の金剛寺のHPは1のみ。

 かすり傷一つ負ってしまえば死ぬ運命にある。


 しかもここはダンジョンでは無いのでセーブもしていない。

 ここで死ねば復活も出来ないが……


 「それでもやるしかないんだよぉ!!!」


 決死の覚悟で『ヴァジュラ』を振りかぶり劉愛蕾へ向かっていく。


 「へえ……これはなかなかだねぇ」


 「言ってろ……死ねぇぇ!!!!」


 それでも余裕の態度を崩さない相手に向かって全力の一撃を叩き込む。

 あまりに威力に劉愛蕾がいた周囲の地面が爆ぜ土埃が舞う。


 「……やったか?」


 手応えは十分、思わず舞い込んだチャンスを活かし、大金星を挙げたかと一瞬期待を込めたが……


 「うーん、筋は悪くないんだけどねぇ……」


 土埃の中から現れたのは、無傷の劉愛蕾だった。

 あれだけの衝撃を受けたのにも関わらず、傷を負うどころか服装にも全く乱れは見られなかった。


 「そんな馬鹿な……俺の全力の一撃でも……無傷だと?」


 元々、力の差は重々理解していたが、自らの一番の得意分野でもある一撃の威力ですら、傷一つ付けることが出来ない程に力の差がある現実に愕然としてしまう。


 「くそ……ゲームセットかよ……」


 これでもかと突き付けられた現実に、思わずあきらめてしまう。


 「まあ、これでお終いだねぇ。あたしが強すぎるだけだから気を落とさずに来世ではもっと努力しなよ」


 目の前の冒険者たちに戦う気力はすでに無し。

 後は命を刈り取るだけだ。

 劉愛蕾は、ゆっくりと冒険者の方へ向けて歩き出すが……



 「そこまでですわ!」



 突如として周囲に響き渡った、凛とした女性の声にその歩みを止める。

 その声の主は、先程破壊された正門の位置に立っていた。

 劉愛蕾はその相手の姿を視認した後に、思わず獰猛な笑みを浮かべる。


 「へえ…あんたは確か……」


 「度重なる狼藉……この青羅・バーンシュタインが許しませんわよ!」


 ダンジョン統括省の要請を受けた『蒼氷の聖女』が窮地を救うべく駆け付けたのだった。

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