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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第1話 それは絶望と共にやってくる

第二章、開幕です!


新たな展開です!

今年ももうすぐ終わりですね……

明日、もう一話更新したいと思いつつ……


出来るかなー(棒読み)

 


 「冒険者、アイリーン・スカーレット、草薙ハヤトの二名は、Sランクダンジョン攻略のために明朝7時にダンジョン統括省第三支部へ出頭するように――」


 

 えーと、今は……朝の5時ですね。


 この時点で明日の朝7時に出勤確定ですか……糞ブラックじゃねえか!

 しかも、またSランクダンジョンか……ちょっと生き急ぎ過ぎなんじゃね?


 ちなみに、グランドダンジョン『星崩の大魔宮』を踏破したのが昨晩のことですよ?


 そして、ダンジョン統括省で何やかんや話して、このホテルに着いてから、アイリーンさんとテラスで話し込んだのが……そうだな、3~4時間前だな。


 お別れした後も、色々と興奮状態で寝付けなかったから、眠りについたのはついさっきだ。


 そんな俺のささやかな眠りは、鏑木支部長からの連絡にてあっさりと破られてしまった。


 まあ、今日の出頭じゃなかっただけ、まだマシな方だろうと自分に言い聞かせながら再び布団に入った。


 ……一方その頃、『紅蓮の魔女』ことアイリーン・スカーレットは、鏑木支部長の連絡をガン無視し、すやすやと安眠を満喫しているのだった。



 ◆◆◆◆


 

 その頃、東京の霞が関にあるダンジョン統括省の本部では……


 「急げ!早くしないと……奴らが!」


 「集まった冒険者たちはこれだけか!?」


 「各地の支部から召集可能な冒険者は片っ端から声を掛けています!」


 「少しでも多くの戦力を一刻も早く集めるんだ!そうしないと……『黄牙団』が!」


 ダンジョン統括省の職員たちによる、怒号が飛び交う状況下を気が滅入るような表情で眺めている一人の男性がいる。


 男性の名前は、金剛寺 アキラ……Aランク冒険者だ。


 彼は自らがオーナーを務めるクラン『金剛の刃』の精鋭を率い、ダンジョン統括省の召集に応じて馳せ参じた冒険者の内の一人だった。


 (……本当に、ここに『黄牙団』が来るのか?)


 ダンジョン統括省の説明を聞いてなお、彼の疑念は晴れない。


 (あの劉・愛蕾が来るとしたら……どれだけ戦力を集めたとしても無駄だろうに)


 職員の説明が本当だとしたら、ここに現れるのはアジア圏内でもトップと言われるSランク冒険者だ。


 『黄牙団』自体が世界有数の武闘派集団と言われていることもあり、劉が連れてくる団員もかなりの猛者揃いに違いない。


 (願わくば……このまま出現しないで欲しいな)


 彼自身も数々のダンジョンを踏破し、Aランクまで上り詰めた歴戦の勇士でもあるが、相手があの有名な劉・愛蕾では話が違う。

 はっきり言って勝てる見込みなど万に一つも無いのだ。


 しかし、皮肉にもその時は訪れた。


 彼が、そう思考したのとほぼ同時に、ダンジョン統括省の正門の方から、激しい爆発音が聞こえた。


 「……な、何だ!?この音は!?」


 ダンジョン統括省があるのは、霞ヶ関の真っ只中。

 当然、各省庁の庁舎が存在し日本の中枢機能を担っている。


 そんな場所で爆発音など、ただ事では無い。


 「くそ!冒険者たちは大至急正門へ向かってくれ!全員でだ!」


 職員の絶叫に似た指示を聞きながら、金剛寺も全力で正門へ向かって走り出す。


 いくら音に聞こえた武闘派の『黄牙団』とは言え、こんなあからさまな行動を取るとは思わなかった。


 ダンジョン統括省の敷地内で破壊行為を行うなど、はっきり言って正気の沙汰とは思えない。


 下手をしたらテロ行為と断じられて国際問題にも発展しかねないのだ。


 (劉・愛蕾……本当に何も考えていないのか?)


 金剛寺は、そんな疑問を頭に浮かべながら正門へ急行する。


 その傍らには、彼が信頼する『金剛の刃』の団員たちも同行している。

 金剛寺程では無いにしろ、共に死線を潜り抜けてきた頼れる仲間たちである。


 間もなく、正門に辿り着くかという距離に到達した頃、彼らの目に奇妙なものが映り込んだ。


 (あれは……何だ?)


 正門よりもずっと高い場所、上空の凡そ数十メートルというところに、とあるものが飛行しているのが目に付いた。


 (鳥……いや、モンスターか?)


 よく見ると、羽根が生えているのが見えるが……大きさは、鳥と断ずるには大きすぎるが、怪鳥などのモンスターと比較すれば小さすぎた。

 

 ……そう、ちょうど人間と同じくらいの大きさだ。


 金剛寺の思考がそこまで及んだ瞬間、その存在から何かが地面に向かって放たれた。


 「な!?」


 それは、真下に向かって直下的に落ちるように飛んでいき、すぐに地面に着弾。

 凄まじい爆発音を奏でる。


 「これは……あいつが!」


 さっきの爆発音もあいつの仕業で間違い無いだろう。


 「しかも……あいつは……」


 そう、たった今、地面に砲弾のようなものを放ち、周囲を混乱の渦に巻き込んでいるあの存在は……


 「人間……『黄牙団』か!」


 より近くで目視することにより、それは確信へと変わる。

 正門の上空を飛行している存在は、背中から羽根を生やした人間だった。

 その手には、ライフルのようなものを抱えている。


 恐らく、神器かスキルの力で飛翔し、砲弾を放っているのだろう。


 「しかし、一体なんのために!?……皆、気を付けろぉ!」


 周囲の団員に警告を放ちながら、自らの武器である巨大な薙刀を構える。


 空を飛びながら砲弾を放つその姿も異質ではあるが、金剛寺の脳裏に浮かんだのは「一体何のためにこんなことをしてやがるんだ?」ということだ。


 本気でテロ行為を実行したいのならば、その砲弾を正門か、その気になればダンジョン統括省の庁舎に直接ぶち込むことも出来ただろうに。


 何故敢えて地面に狙いをつけて砲弾を放ったのか、金剛寺にはその行動の意味がわからなかった。


 (まさか……陽動か!?)





 そう考えた瞬間、目の前の正門が轟音と共に吹き飛んだ。



 「!?」



 一瞬、何が起こったのかわからなかったが、巨大な正門が一瞬で爆ぜながら吹き飛んでしまったのだ。



 「こ、これはぁ!?」



 金剛寺を先頭に全力で移動していた冒険者たちは、一斉に立ち止まり呆然とその光景を眺めていた。


 そして、その吹き飛んだ正門があった位置に一つの人影が見える。


 それは、女性だった。


 不敵な笑みを浮かべながらゆっくりとこちらに向かって歩みを進めるその女性は決して大柄ではないが、その存在感は群を抜いている。

 中華風の民族衣装のような服装を身に纏い、その上から全身を包むような白いマントを羽織っている。

 

 そう、その女性をそこにいる冒険者たち全員が以前から見知っていた……


 

 「き、貴様は……劉……愛蕾!」



 Sランク冒険者の一人であり、『黄牙団』のクランオーナー、アジア圏内のみならず、世界を見渡してもトップクラスの実力を持つと言われる存在が、目の前にいる。


 目の前でダンジョン統括省の正門を吹き飛ばすという暴挙に出ながらも、全く悪びれずにこちらへ進んでくる。


 その姿は正に災厄――



 『黄雷の戦妃』が絶望と共に、冒険者たちの眼前に現れたのだった。


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