第39話 『星崩の大魔宮』㉙ 七星の最後
ちょっと間が空きましたが。
激戦……決着です!
「これが……最後の切り札……」
それは、見つめているだけで目を焼かれそうな程の光を発していた。
その眩しさは、何かの映像で見た事があるプラズマそのもの、サッカーボール程度の大きさの球体の中に凄まじい高密度のエネルギーの奔流を感じる。
「こんなもの……どうやって扱えば?」
圧倒的な存在感に只々気圧されるばかりで、全く扱える気がしない。
アイリーンさんとセイラさんが力を合わせて作り上げた最終兵器『星崩』。
これをアルカイドに命中させるという役目を担ってしまったが、軽い気持ちで引き受け過ぎたことに関して、実物を見てしまった瞬間から後悔の念が湧き出てきてしまったのだ。
目の前で煌々と輝きを放ち続ける球体を見て焦りと不安が入り混じった気持ちが押し寄せてくる。
……これを、あいつにぶつける……どうやって!?
『ハヤトさん、大丈夫です。私たちが付いてますから』
「まーったく!またビビってるんですの?それはちょっとやそっとじゃ発動しないから安心なさいな!」
『星崩』を前にひたすら逡巡を続ける俺を見かねて二人がフォローに回る。
「いや、でも……まず、どうやって?」
あんな小型の太陽みたいな代物をどうやって運ぶ?それ以前に持てるのか?
『まずは、『星崩』に手をかざして下さい。そうすれば、ハヤトさんの手に収まりますので』
アイリーンさんの言う通りに、恐る恐る光球へ手をかざしてみる。
……すると、『星崩』は驚くほどあっさりと、俺の手に吸い付くようにくっついてしまった。
「あ、暖かい?」
これだけの光を放つ物体だ。
超高熱なのかと思いきや、その表面から伝わってくる温度は、とても穏やかな暖かさだった
「だから、大丈夫って言ったでしょ?さあ、さっさとあいつにそれをぶつけて来なさいな!」
『ハヤトさんならできます!思いっ切り当てちゃってください!』
二人からの激励を受け取り、俺は意を決したかのようにアルカイドの方へ視線を送る。
今なお、清十郎さんが食い止めているが、かなり分が悪くなっているのは間違いないようだ。
『ハヤトさん、私はハヤトさんを……信じています!』
今は魔神の姿だが、いつもと変わらない笑顔で送り出してくれる。
外見からはわからないが、俺はそうだと確信した。
「わかりました!俺はやります!」
『はい!お願いします!必ず帰ってきてくださいね!』
「任せてください!」
他でもないアイリーンさんの頼みだ。
……これは、やるしかないよぁ!
「……よし!『神速の配信者』、草薙ハヤト、行きます!」
自らに言い聞かせるかのように声を張り上げた後に『神速』を発動、この戦いに決着を着けるべく一気に駆け出した。
清十郎さんとアルカイドの戦いも佳境に入っているようだ。
元より、滅龍耐性と剣撃耐性を兼ね備えたアルカイドに対して清十郎さんの勝ち目は無いに等しい。
事実、現状の清十郎さんはもはや満身創痍と言っても過言では無い程のダメージを受けており、それに対してアルカイドはほぼ無傷の状態であった。
「貴様は人間にしてはよくやった方だ、後は我の手で一思いに葬ってくれるわ」
限界を迎えてしまい、息も絶え絶えに片膝を付く清十郎さんへアルカイドが向かう。
『銀嶺』の銀色の光も今にも消え入りそうなほどに弱まり、打つ手は無いに等しかった。
「……これで終わりだぁ!」
「……くっ、もはやこれまでか!」
観念したかのように清十郎さんが目を瞑り、死を覚悟する。
止めを刺すべく剣が振り上げられ、勢いよく振り下ろされようとする刹那だった――
「……だらっしゃぁあああ!!!!」
神速の勢いのまま、 右手には『星崩』を、左手にはナイフを持った状態で振り下ろされる刃に向かって突っ込んだ。
まずは、左手のナイフを刃に合わせる。
ギィィン!という甲高い音が鳴り響き……俺のナイフが砕け散った。
そのまま、体勢を入れ替え、がら空きのアルカイドの顔面に蹴りを見舞う。
アルカイドの体勢が崩れ、清十郎さんを助けることには成功したようだ。
よし、これで……!
「今の内に逃げて下さい!」
この距離で『星崩』を放てば清十郎さんは間違いなく巻き込まれるだろう。
そのために、まずは避難できる時間を稼がなければならない。
「あ、ああ!承知した!」
少しでも離れてくれれば、すぐに起爆してやる。
傷だらけの体を無理やり動かし、清十郎さんが距離を取っていくのを確認し、アルカイドの方に視線を送ると、そこには体勢を立て直し、こちらに斬り掛かってくるアルカイドの姿が見えた。
「っとぉ!危ねぇ!」
ここで攻撃を喰らってしまえば全てが水の泡だ。
『神速』を使用して何とか回避をしながら、隙を伺うしかない。
横目で見ると清十郎さんは、ダメージを負った体で無理をしながら、何とか安全圏まで回避したようだ。
後は……この『星崩』を命中させるのみだ。
「貴様ぁ、我をコケにするのも……良い加減にしろぉ!!!!」
アルカイドの怒りが爆発し、赤い髪が怒髪天の如く天を衝く。
「ガアアアアア!!!!」
我を忘れたかのようなアルカイドの連撃が始まる。
超高速の斬撃。
『神速』を使用してなおギリギリ回避可能な刃が。
高速で、そして無数に襲い掛かってくる。
「ぐぅっ!これはいくらなんでも……!」
上下左右に身を翻しながら斬撃を避け続けるが……
とうとう、一瞬反応が遅れ、右足首に一太刀浴びてしまった。
「いってぇ!こ……この野郎!」
「ふん……そのまま、死ねぇえええ!!!!」
右足にダメージを負い、大きく体勢を崩してしまった俺を見て、功を焦ったのか、大振りの斬撃を見舞ってくる。
……これは、いける!
『神速』を使えば、大振りの隙をついて『星崩』をねじ込むことは可能だ。
しかし……それをすれば、自分も……
一瞬、そんな考えが頭に浮かぶがすぐに頭を切り替える。
アイリーンさんと約束したんだ。
「逃げるわけにはいかねぇんだよぉ!!!!」
アルカイドの斬撃の間を縫うように、『星崩』を持つ右手を思いっ切りアルカイドの体に叩きつける。
「いっけぇえええ!!!!『星崩』ぃ!!!!」
アルカイドに叩きつけられた『星崩』は、一瞬、収縮したかと思うと、凄まじい轟音を放ちながら四方八方へ光をばら撒き始める。
「き、貴様ぁ!こ、こんなところでぇ!ガァアアアアア!!!!」
「まだだぁ!『神速』!」
断末魔をあげながら光の中に消えていこうとしているアルカイドを尻目に『神速』を使用し、少しでも爆心地から離れようとするが……
やはり右足の傷は深く、思ったよりもスピードが出ない。
数十メール離れた所で限界を迎えてしまい、倒れ込んでしまう。
「がぁあ!これはさすがに無理か……!?」
振り向けば既にアルカイドの姿は見えず、プラズマの如き光が乱舞を始めている。
もう数秒も経たないうちに大爆発が巻き起こり、俺を消し飛ばすのだろう。
「ち、ちくしょう!これまでか!」
観念して目を瞑り、大爆発に備える……
まあ、こんなペーペーの冒険者がグランドダンジョンのボスと相討ちなんて、出来過ぎだよなぁ。
もうちょっとアイリーンさんと一緒にいたかったけど……
まあこれも運命だよな……
『ハヤトさん、あきらめちゃ駄目ですよ!』
目を瞑る俺の耳に聞き覚えのある声が聞こえてくる。
慌てて目を開けると、目の前には避難したはずの三人の姿。
「ど、どうして!?」
『約束したじゃないですか、必ず帰ってくるって!』
「さすがに、あなた一人を犠牲にして勝てたとしてもこれっぽっちも嬉しくありませんわよ!」
「ハヤトさんの覚悟、見せて頂きました。後はお任せ下さい!」
その瞬間、『星崩』が本格的に発動し、アルカイドがいた位置を中心に大爆発が巻き起こる。
かつてダンジョンのみならず周辺一帯を残らず吹き飛ばした超兵器。
それが俺たちのたった数十メートル先でその威力を発揮してしまった。
『エクス・プロミネンスウォール!ハァアアアアア!!!!』
「アーク・グレイシアバリケード!!!!!」
「目覚めよ『銀嶺』!!!!ヌォオオオオオ!!!!」
人間としては規格外の能力を誇る三名による、全力の障壁が張られたが――
そこへ『星崩』で解放された、超高密度の魔力が一気に炸裂し、襲い掛かる。
言うなれば、目の前で核爆発を起こしたらこんな光景になるのだろうか。
辺り一面が光と轟音で埋まり、何が起こっているのか全くわからない。
「もう!結局こうなりますのぉぉ!!!!」
「お、お嬢様、踏ん張ってください!!!!」
『もう少しです!皆さん、頑張りましょう!!!!』
そんな状況下で、何とか話をしているこの三人はやっぱりどこかおかしい。
……そんなことを考えながら、俺も含めた全員の無事を祈る事しか出来なかった。
「そうら!最後の衝撃が来ますわよぉ!」
「くっ!やはり厳しいか!」
『これを耐えれば勝ちです!踏ん張ってください!』
『星崩』から解放され続けている魔力の最後、一番色濃く濃縮された芯の部分。
ラストに一番の威力を持ってくる辺り、アイリーンさんとセイラさんの合体魔法らしいと言えるだろう。
そんな『星崩』の最後っ屁が、今までより更に激しい爆発音と共に盛大に解放された。
「ああああああ!!!!」
「ヌオオオオオ!!!!」
『ハァアアアアア!!!!』
三人が最後の力を振り絞り、爆発を防ぎきろうとするが、さっきまでよりも遥かに激しい光の奔流が俺たちを飲み込んでしまった――
「…………ここは!?」
いつの間にか気を失っていたのだろうか。
咄嗟に身を起こした俺の目に飛び込んできたのは。
爆発の余波の影響だろうか。
全身から煙を出しながらその場に立ち尽くす三人の姿だった。
「はあ……何とか防ぎきりましたわよ」
体中から溢れていた青白い光と、背中の黄金の翼は消滅してしまったが、相変わらずの気品を漂わせながら笑顔を見せるセイラさんと。
「ええ、皆さんお疲れ様でした」
そう言いながら刀を鞘に納める清十郎さん、平静を装っているが表情からはかなりの疲労感が見て取れる。
そして、最後に……
「ハヤトさん、本当に……無事で良かったです!」
爆発の余波で魔神の姿から戻ってしまったようだ。
こちらへ振り向いたアイリーンさんはいつもと同じ優し気な笑顔をこちらに向けている。
俺は、やっぱりこっちの笑顔の方が……好きだよなぁ。
心の底からそう思う。
これが、グランドダンジョン『星崩の大魔宮』のボス『七星魔王、セプテントリオン・アルカイド』を倒した瞬間となった。
少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。
ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。
良ければ、感想もお待ちしております。
評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。
いつもありがとうございます。




