第38話 『星崩の大魔宮』㉘ 星を崩す一撃
……あれ?今何とおっしゃいましたか?
セイラさんの言葉に一瞬思考が停止する。
確か、アイリーンさんとセイラさんの二人であるものを作り上げるので、それをあのアルカイドへ『神速』を使ってぶつけてこい……そう聞こえたような気がする。
「えーと、もう一回言ってもらえます?」
「だーかーらー!わたくしたちが今から力を合わせて作り上げる魔法をあいつにぶつけてこい!って言ってるんですわ!」
うーわ、はっきり言われた。
ていうか魔法?魔法を二人で作るの?そしてそれを俺がぶつけにいくの?
あいつに?清十郎さん相手にガンガンに押してるあの、あいつに?
「いや、それはちょっと……俺には荷が重いんじゃないかなぁ?」
「ちょっとここまで来てなんですの!?清十郎も長くは持たないだろうし、躊躇している暇なんてありませんわよ!」
背後では、清十郎さんとアルカイドが、現在進行形で斬り合っている。
戦況は先程までと同じくアルカイド優位、耐性を前面に押し出したゴリ押し戦法で清十郎さんを完全に押し込んでいる。
「で、でも……何で魔法を俺がぶつけるんですか!?魔法ならそのままあいつに向かって放ってしまえば……」
『いいえ、それはできないんです』
横から口を挟んできたのはアイリーンさんだ。
『炎帝器・エクスイフリート』の力で魔神の姿になってはいるが、神妙な表情をしているのがわかる。
『今から私たちが作る魔法は構造上、他の魔法のように飛ばせないんです。だから、誰かが直接相手にぶつけるしかない……』
「そしてあなたの『神速』ならば、あのアルカイドにも間違いなく命中させることができる……だからこうして頼み込んでるんですわ」
そうか……俺は今頼まれていたのか。
てっきり命令されているのかと……
まあ、それはさておき、現実問題として今の状況を何とかしなければならないのは確かだろう、
このままでは、清十郎さんも危ないのは間違いない。
そして、アイリーンさんたちの言う通り、切り札が直接相手に命中させなければならない代物ならば、一番適任なのは『神速』を持つ俺なのだろう。
あの耐性てんこ盛りのアルカイドに通用するような強力な攻撃を俺が放つなんて想像もつかないが……
〈なんか物凄い展開になってきたな……〉
〈配信だけしか出番が無いと思ってた『神速』さんにこんな出番が回ってくるなんて……〉
〈俺、ちょっと緊張してきたな〉
〈うん、私も……〉
〈気持ちは皆同じだな!〉
〈こうなったら『神速』さんを全力で応援しようぜ!〉
〈ああ、そうだな!頑張れ『神速』さん!〉
〈頑張れー!応援してるぞー!〉
コメント欄が俺への声援一色となってしまった。
ちくしょう、こうなったらやるしかないか。
「わかりました!その役目引き受けさせて頂きます!」
大量の声援に押される形にはなったが、おかげで腹を括ることができた。
どこまでやれるかわからないが、俺の『神速』が皆の助けになるなら本望だ。
「いい返事ですわ!アイリーンさん、それでは早速取り掛かりましょう!」
『はい!ハヤトさんの心意気、無駄にはしませんよ!』
二人は向かい合ってお互いの掌を前に差し出すと、魔力を集中し始めた。
アイリーンさんの掌からは赤黒い炎の魔力、セイラさんの掌からは青白い氷の魔力――
相反する性質を持つ二人の魔力が、それぞれから放出され交わっていく。
赤黒い魔力と青白い魔力が交わり、眩い光球と化していったが……
徐々に光球の色が赤黒く変色し始める。
『炎帝器・エクスイフリート』の効力なのか、単純にアイリーンさんの魔力量が強すぎるのか、光球内の炎の魔力が強すぎてバランスが取れなくなっているように見える。
「くっ……!相変わらず出鱈目な魔力量ですわね!」
『大丈夫ですか?ちょっと魔力を弱めた方が良いですかね?』
「それではこの魔法を使う意味がありませんわ!アイリーンさんはそのまま全力で魔力を放ち続けなさいな!」
『で、でもそれでは前みたいに……』
「ふん!以前もこうやってバランスを崩してしまって『牙獣の森林』を吹き飛ばしたことがありましたわね」
『ええ、これではその時の二の舞になってしまいます!』
「いいえ、決してそうはなりませんわ。何故ならわたくしは以前のわたくしでは無いからです……さあ出番ですわ!最高位神器……『極天衣・アークセラフィエル』!」
それはセイラが持っていた最後の切り札……
当初から身に着けていた青と白を基調とした鎧は、実はもう一つの最高位神器だったのだ。
『氷結地獄』により、出現していた背中の翼が膨れ上がるように倍以上の大きさになり、黄金色へと変化する。
「さあ行きますわよぉ!」
アイリーンの魔力に押され、赤黒く変色していた光球が、当初の輝きを取り戻し始める。
セイラの魔力が増幅され、同等のバランスを保ち始めたのだろう。
『極天衣・アークセラフィエル』
『極天の神域』にてボスとして君臨していたのは、『統率者』の一人『極天使・アークセラフィエル』、時には攻撃力、時には防御力と常に自らの能力の一つを爆発的に上昇させ、あらゆるケースに対応してくる恐ろしい強敵だった。
そして、その『統率者』と同じ名を冠する『極天衣・アークセラフィエル』
その能力は「装備した人物の能力の増幅」――能力を解放した際に自らの選択した能力を「一つだけ」爆発的に上昇させることが可能となる。
現在、セイラが選択し上昇させている能力は魔力……ではなく闘気であった。
現在の『最終階層』で到達し得る絶対零度はマイナス273度、青天井に上昇を続けるセイラの地獄の炎と相対するには圧倒的にエネルギーが不足している。
しかし、その不足分を爆発的に上昇した闘気で補う……それがセイラの狙いであった。
前回の『牙獣の森林』での失敗を踏まえ、アイリーンのエネルギーの暴走を抑えるために用意した秘策が……今回は、狙い通りに機能していた。
「さあ……細かい調整はわたくしがします!そちらはとことん魔力を絞り出しなさい!」
『はい!……はぁああアアアア!!!』
元より、常人では計り知れない程のアイリーンの魔力が、セイラの魔力と闘気と交わることの相乗効果により、無尽蔵に増幅されていく。
その増幅された魔力をアイリーンが精密に制御し圧縮する。
常識では対応不可能と思われる作業を『極天衣・アークセラフィエル』の能力で補うことにより、実現している。
圧縮された超エネルギーが高密度の闘気流で維持され、現実的には存在しない超兵器を構築する。
……それは二人の化け物によって作られた超エネルギー爆弾。
小さく凝縮された太陽の如く眩い光を放ち続ける球体。
「……こ、これは!?」
その球体が放つ余りの存在感に俺は後退る……
「成功……しましたわ」
『はい……何とか完成しました』
アイリーンさんとセイラさんが安堵の笑みを浮かべる。
「これこそ、わたくしたちの最終兵器……星をも崩す究極の一撃」
『……超高密度氷炎結合魔力爆弾』
「『星崩』!!!」
『です!』
「ですわ!」
下手をしたらこの地上で最強の兵器となりうる超魔法が……
俺の目の前に完成してしまった。
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