第37話 『星崩の大魔宮』㉗ 起死回生の一手とは
『牙獣の森林消失事件』
それは数年前に起こった事件――
Aランクダンジョン『牙獣の森林』の内部から謎の大爆発が引き起こり、ダンジョンのみならず、周辺一帯を跡形も無く吹き飛ばしてしまった大事件である。
事件が起こった当時はニュース等でも取り上げられ話題になったが、最後まで真相が報じられることは無かった。
その当時は、様々な説が絶えなかったが、今では世間から忘れ去られ、わざわざ話題に取り上げる者も少なくなってしまった。
しかし、その事件が起こった同日、二人の冒険者がそのダンジョンに挑んでいたことを知る者は限りなく少ない。
何故ならば、ダンジョン統括省が徹底的に隠ぺいしたからだ。
そして、その二人の冒険者とは……
『紅蓮の魔女』 アイリーン・スカーレットと――
『蒼氷の聖女』 星羅・バーンシュタイン、に他ならない。
この時から、余程のことが無い限りは二人を組ませてダンジョンに挑ませてはならないと、ダンジョン統括省の中で決定事項とされてしまった。
その二人が再び手を組み、ダンジョン最難関であるグランドダンジョンのボスに挑もうとしていた。
◆◆◆◆
先ほど、放たれた『最終階層』の絶対零度に達する氷結魔法により、アルカイドは巨大な氷塊に封じられている。
……が、それも時間稼ぎに過ぎなかった。
氷塊は内部から大きな亀裂が走り、今にも砕け散りそうな状態になっていた。
「さて、今の内に作戦タイムを行いますわよ!皆さんご集合願いますわ!」
セイラさんの掛け声に素早く四人が集合する。
アルカイドが氷塊から脱出するのは時間の問題だろう、その前にあいつを倒す手段を決めてしまわなければならない。
「それではあいつに勝つ手段を伝えますわよ!」
その言葉に他の三人もぐっと集中し耳を傾ける。
セイラさんの脳裏にはアルカイドを倒す手段が既に浮かんでいるようだった。
先ほど、アイリーンさんと協力が――とか話していたけど、それと関係があるのだろうか。
「それでは時間がありませんので、簡単に話しますわ。清十郎はあいつが出て来たらとにかく時間を稼いでちょうだい……そうね、五分もあれば十分ですわ」
「五分ですか……わかりました」
「その間にわたくしとアイリーンさんで手段を講じますので、それであなた!あなたにも役割がありますわ!」
ビシィッ!と人差し指が俺に向けられる。
「お、俺ですか?」
「ええ、そうですわ!さすがにこの状況で配信だけしてれば良いってわけではありませんの!」
「わ、わかりました。それで俺は一体何をすれば?」
「それは、後ほど指示を出しますわ!それまでは配信しながら待機願いますわ!」
……待機か。一体何を言われるんだ?
不安げにアイリーンさんの方に目を向けると、こちらの視線に気付いたのか、ニコリと微笑んでくれた。
まるで俺の不安を見透かしたかのような笑顔に、急に勇気が湧いてきた。
……よし!こうなったらとことんやってやるか!
強い決意を抱いた瞬間、背後で大きな音と共に巨大な氷塊が爆散した。
「ぐぅう!この程度で我を倒せると思うなよ!」
アルカイドの表情には強い怒りが浮かんでいる。
そりゃぁあんな氷塊にいきなり閉じ込められたんだから怒るのも無理はないだろう。
「お前の相手は私だ、少し遊んでもらおうか」
その怒り心頭のアルカイドの前に清十郎さんが立ち塞がる。
その手には『滅龍刀・銀嶺』、もちろん解放されており、銀色の光をこれでもかというくらいに放出し続けている。
「まずは貴様から殺されたいか!良かろう、掛かってくるが良いわ!」
負けじと剣から赤黒い闘気のようなものを放出し始める。
怒りの表情はそのままだが、ブチ切れているわけではなく、あくまで冷静な部分も残しながら清十郎さんを迎え撃つべく体勢を整えている。
「……『龍殺の守護者』、轟清十郎、参る!」
そこへ清十郎さんが刀を構えながら飛び込んでいく。
素早い身のこなしからの剣撃を放ち、アルカイドを牽制し始める。
あくまで与えられた任務は時間稼ぎのため、そこまで深くは踏み込まず、安全圏から戦いを挑むつもりのようだ。
「……そんな、ぬるい剣で我が倒せるかぁ!」
清十郎さんの意図を一瞬で見抜いたアルカイドが本気の剣を振るいながら迫る。
浅めに踏み込む清十郎さんとは対照的に、防御無視の全力の剣をリスク無視で叩き込んでくるのがアルカイドの流儀のようだった。
耐性を獲得している優位性を理解しているのか、防御無視で突っ込んでくるアルカイドの攻撃に対して、清十郎さんは些か手こずっているようだ。
当初は、上手に捌いていたが、徐々に押され始めると、だんだんと後手に回り始めた。
「……くっ!これで五分間、持たすのか、存外厳しい!」
しかし、清十郎さんも歴連の剣士、自らが攻撃を受けるギリギリのところで何とか持ちこたえているようだ。
たまに、避けきれず攻撃を受けることもあるが、上手く立ち回り、致命傷を逃れている。
時間稼ぎとしては満点に近い立ち回りだった。
「さて、清十郎もこのままでは厳しいですわ、アイリーンさん、急ぎましょう!」
「はい!それでは行きますよ!『憑依……エクスイフリート!』」
『炎帝器・エクスイフリート』を使用し、炎の魔神の姿に変化する。
今この場には、真っ赤な炎を纏う禍々しい魔神の姿をした『紅蓮の魔女』と、青白い光を纏う神々しい天使の姿をした『蒼氷の聖女』が並び立っている。
こうして見ると、なかなか壮観だな。
『準備はOKです』
「ええ、それでは……あっ!その前に、そこのあなた!」
「はいい?」
唐突に呼ばれて素っ頓狂な返事をしてしまった。
このクライマックスで声が掛かるなんて思ってもみなかったので仕方がないだろう。
「今から、わたくしとアイリーンさんであるものを作ります。あなたはそれを自慢の『神速』であいつにぶつけてきて下さるかしら?」
「え……ええええ!?」
セイラさんが突然、とんでもないことを言い始めた。
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