第36話 『星崩の大魔宮』㉖ 聖女たる所以
『セプテントリオン・アルカイド』の能力は『耐性の獲得』である。
自らが受けた攻撃に対する属性の耐性を獲得することが可能である。
そして、その対象は自らの眷属にまで至る。
今まで倒された『七星』の犠牲の上に、アイリーンたちの攻撃手段に対しての耐性は、全て獲得済みだ。
『毒蛇』ドゥーベからは、アイリーンの炎魔法に対する耐性を……
『黒蜘蛛』 メラクからは、ハヤトが使用する様々な道具に対する耐性を……
『星炎龍』 アリオトからは、清十郎の龍滅属性と剣撃に対する耐性を……
『消魔』 メグレズからは、セイラの氷魔法と打撃に対する耐性を……
『猿老』 フェグダは、アイリーンの地獄の炎の耐性を獲得出来なかったが……
『次元王』 ミザールが、命を賭して地獄の炎の耐性を獲得した今……
『七星王』 アルカイドは、アイリーンたちに対しては無敵と言える耐性を獲得してしまった。
現時点でアイリーンたちが持つ攻撃手段の中でアルカイドに通じるものは無い……
かに見えたが――
◆◆◆◆
「清十郎!しばらく時間を稼ぎなさいな!」
「はい!お嬢様!」
未だ何らかの手段を隠し持っているのか、セイラさんが清十郎さんに時間稼ぎを指示する。
その意図を察知したのか清十郎さんはすぐに『銀嶺』を覚醒させ、アルカイドへ向かっていく。
「……急ぎますわよぉ!『第二階層』!」
その瞬間、セイラさんが纏っていた青白い光が両手足に収束していく。
元々、体中から溢れ出るように迸っていた光が、両手両足に一気に集束したため、下手をすればその姿が見えなくなるレベルの輝きを放ち続けている。
こちらから見ても驚くべき強化に見えた……がそれで終わりではなかった。
「まだまだぁ!『第三階層』!」
更にセイラさんが進化を続ける。
次に起こった変化は、その背中に羽根を象ったような光が出現したことだった。
両手両足と背中に鮮烈な光を宿した姿は、正に天使……いや、聖女だった。
「これが……『蒼氷の聖女』」
そういうことか、炎の極限魔法を連発し周囲を殲滅するアイリーンさんが『紅蓮の魔女』に対し、何故セイラさんが『蒼氷の聖女』と呼ばれるのか?
単純にアイリーンさんのライバル的な存在や炎と氷の対比で呼ばれていると思っていたが、それは間違いだったようだ。
……この姿こそが、『蒼氷の聖女』たる所以だったんだ。
神々しささえ感じるセイラさんの姿を余すことなくカメラに捉え、世界中に配信を続ける。
〈すげぇえええ!!!!〉
〈氷の天使……いや、神か、神なのか!?〉
〈いや、もう本当に綺麗、イルミネーション見てるみたいだね〉
〈これが……『蒼氷の聖女』!〉
コメント欄もえらい騒ぎになっている。
セイラさんがこの姿になった瞬間、周囲の気温が一気に加工を始めたようだ。
周囲に多大な影響を及ぼし、自らの戦闘力を跳ね上げるのが『第三階層』の効果なのかもしれない。
しかし、そのセイラさんでも、万全の耐性を獲得済みのアルカイドには及ばない可能性が高い。
どれだけ強化を施してもやはり氷属性と打撃属性だけでは、アルカイドには通用しないのだ。
火力が青天井のアイリーンさんの炎魔法が通じていないのが良い証拠だろう。
そしてそれは、セイラさんも百も承知のはずだ。
だからこそ、セイラさんはもう一段階の強化を重ねた。
「これで最後ですわ!『最終階層』!」
空間内に、凛とした声が響く。
それは誰も見たことがないような光景だった。
静かで厳かで凛とした……とても美しい光景。
さっきまでのように青白い光を纏っているのは同じだが、決定的に違うものが二つある。
一つは、周囲が全くの無音になってしまったことだ、この形態の影響なのか、周囲に無数の大型の氷の結晶が浮かび上がっているが、不気味なほどの静けさに包まれている。
――そして、もう一つは、アルカイドが一瞬で巨大な氷塊に覆われ、完全に凍結してしまったことだ。
セイラの戦法の真髄とも言える『氷結地獄』
『第一階層』は、魔力と闘気の融合を促進させ、身体能力を爆発的に上昇させる。
『第二階層』は、融合したオーラを自らの手足に収束させ、戦闘能力を更に増加させることが可能となる。
『第三階層』は、そこから更にオーラの羽根を纏い、周囲に及ぼす凍気を爆発的に増大させる。
そして、たった今使用した『最終階層』は、文字通り『氷結地獄』の最終段階。
氷結魔法の最終到達点ともいえる絶対零度の凍気を操ることが可能となる、究極形態である。
本来アイリーン程の魔力量を持ち合わせていないセイラでは、到達できないレベルの氷結魔法の使用を〈魔拳王〉のスキルを組み合わせることで実現可能とした、最高奥義である。
今のセイラさんの姿は、従来身に着けていた白銀の鎧が、氷の装飾によって更に重厚になり、両手足に纏った青白い光と、背中に纏った神々しい翼によって、氷の神の如き輝きを放っている。
周囲には大量の氷の結晶が音も無く舞っており、それも更なる神々しさを際立させている要因だろう。
〈いや、なんか俺、泣けてきたよ……〉
〈奇遇だね、私も涙が止まらない〉
〈冒険者って頑張れば神になれるんだな〉
〈これなら、アルカイドも倒せる!……のか?〉
〈どうだろ?氷の中に閉じ込めてるけど、これって……〉
『最終階層』に対する感動の嵐に混じって不穏なコメントも散見される。
……それもそのはずだ、見た目の美しさに誤魔化されているが、セイラさんが使用しているのは、氷属性の極大魔法と同等の効果だろう。
ということは、アルカイドには……
俺の心配は的中し、アルカイドを閉じ込めている氷塊の内側からバリバリと嫌な音が響き始める。
それは、セイラさんが生み出した静寂の空間を破壊する音だった。
やがて、氷塊に亀裂が走り始める。
……くそ、やはりセイラさんの全力でも通じないのか!
俺が悔し気に配信を続けていると――
「やはり、わたくし単独では時間稼ぎ以上のことは難しいですわね、ちょっとアイリーンさん、そろそろわたくしとあなたで協力すべきだと思うんですけど、どうお考えですの?」
……ええ!?まさかの協力要請かよ!
大丈夫なのか?二人って犬猿の仲なんじゃ……
「ええ、私もちょうど同じことを考えていたところです」
何と、アイリーンさんも即答で快諾してしまった。
……一体どうなるんだ!?
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