第35話 『星崩の大魔宮』㉕ 無敵のアルカイド
少し間が空いてしまいましたが更新です!
よろしくお願いします!
四人の冒険者が『星崩の大魔宮』に突入してから、数時間。
ダンジョンの入り口の前に仮説された対策本部内では、【ダンジョン統括省第三支部】の鏑木支部長は、眉間に皺を寄せながらひたすら険しい表情を続けている。
彼の前にあるモニターには、現在進行形で『紅蓮の魔女と神速の配信者』、つまりハヤトのチャンネルが流されている。
そして鏑木支部長が不機嫌な理由はもちろん、このハヤトの配信によるものだ。
ダンジョン統括省が今まで機密にしてきた情報を漏れなく世間に公開してくれている。
先程から鏑木支部長の携帯には、上層部や関連部署からの叱責や問い合わせが止まらない。
数少ないSランク冒険者であり、今までダンジョン攻略に関しては多大な貢献をしてくれた、アイリーンとの約束でもあったため特別に許可を出したものの、現在は猛烈に後悔をしている最中だった。
彼は自らの仮説デスクに座り、腕を組みながらこれからの対策を思案中であった。
「あら?さすがの鏑木支部長も今回は参っちゃってるのかな?」
そこへひょっこりと顔を出したのは、一人の女性。
年齢は四十代ほどだろうか、鏑木支部長とは対照的な柔らかい雰囲気を醸し出している。
「あなたは……藤堂さんじゃありませんか。【冒険者ギルド】の関東地方のトップが何故こんな場所に?」
「グランドダンジョン攻略ともなると、ギルドの責任者が顔を出さないわけにはいかないでしょう?」
「まあ、そうですね。どうぞお座り下さい。今お茶でも出しますので」
その女性の名は藤堂かすみ、【冒険者ギルド関東支部】の責任者を務めている。
今でこそ一線を退いてはいるが、かつては幾多のダンジョンを踏破した歴戦の冒険者だった。
さすがの鏑木支部長も彼女には頭が上がらないのである。
「それにしても、あの『紅蓮の魔女』の様子が世間様に配信されるようになるなんてねぇ……『神速の配信者』だったかな?良い相棒を見つけたわね」
鏑木支部長が出したお茶を飲みながら、かすみがつぶやく。
「はい、彼女の戦闘はとにかく周囲を巻き込みますので、あの攻撃から生き延びながら戦闘を配信を出来る者がいるとは……」
「ええ、戦闘面はもちろんその通りだわ。そしてもう一つ、彼女があそこまで気を許す相棒が出来るなんて、私には信じられないの」
「ほう……そういえばあなたは、あの『紅蓮の魔女』とは長い付き合いでしたね。そのあなたからすれば、彼女は変わりましたか?」
「ええ、多少性格は柔らかくはなったかもしれないわね。でも、あそこまで人を信じるようなことは無かったわ、だから配信から流れてくるあの子の言動が私には信じられないの」
「そうなんですか?それでは今の彼女の様子は……」
「恐らくあの『神速の配信者』、草薙ハヤト君のおかげね」
かすみはモニターに映し出されているハヤトの配信を見ながらしみじみと呟いた。
「『神速の配信者』のお陰ですか……それは一体」
「うーん、うまく言えないんだけどね……この配信を見続けていたら何となく理解できるんじゃない?」
かすみの言葉に鏑木支部長は全く理解が追い付かずに戸惑っている。
「まあ、とにかくあの子たちが無事にダンジョンを踏破するのを祈りましょう!」
かすみはそう言いながら手をパン!と鳴らした。
鏑木支部長は相変わらず眉間に皺を寄せながら再びモニターへ目を移すのだった。
◆◆◆◆
「ボルガニックレイザー!」
「ふん!効かぬと……言ってるだろうがぁ!」
アイリーンさんの渾身の魔法をあっさりと耐え抜いたアルカイドが、怒号と共に剣を振るう。
剣からは赤黒い衝撃波が発生し、アイリーンさん達へ襲い掛かる。
「ぬうん!目覚めよ……『銀嶺』!」
そこへ割って入るのは清十郎さんだ。
手に持っている刀からは眩い銀色の光が溢れ出している。
アルカイドが放った衝撃波と清十郎さんの銀色の斬撃が衝突し、相殺された。
「清十郎、どきなさい!とぉりゃあああ!!!!」
清十郎さんを飛び越えて相手に向かうのはセイラさんだ。
セイラさんも体から青白い光をとめどなく放ち続けており、その状態でアルカイドに向かっていく。
「来い!小娘ぇ!」
「誰が小娘ですかぁ!はあああ!」
アルカイドが剣をセイラさんへ向かって振り抜くが、凄まじい速度を維持しながら突っ込んでくるセイラさんの方が一枚上手だった。
剣を見事な動きで回避し、がら空きになったアルカイドの脇腹へ向かって攻撃を繰り出す。
一撃、二撃と攻撃を繰り出すが……
アルカイドには全く通用しないようだ。
「貴様の攻撃も……効かぬわぁ!」
剣を地面に豪快に突き刺すと、アルカイドの周囲から波動が放たれる。
「ちぃ!やっぱり全然効いてませんわぁ!」
素早くバックステップを繰り出し、波動を回避するセイラさん。
一連の攻防でセイラさんが繰り出した攻撃は全く通用せず、アルカイドは全くダメージを受けていない。
「やはり……こちらの攻撃手段に対しての耐性は完璧のようですね」
アイリーンさんが悔しそうに呟く。
さっきから三人が放った攻撃は全て防がれている、というか当たってもダメージが入らない。
アルカイドが言っていた、今まで戦った『七星』の面々が受けた攻撃の耐性を獲得できるというのは、どうやら本当のことらしい。
俺は指示通り、離れた場所から配信を続けているが、どう贔屓目に見ても不利な状況にコメント欄も意気消沈している。
〈これは……ちょっとやばいよな……〉
〈ちょっとどころじゃなくて、もう詰んでね?〉
〈多分、こっちの攻撃手段って全て耐性獲得されてるよな〉
〈さすがに4対7じゃ手数が足りないのか〉
〈やっぱりグランドダンジョンってえげつないよな〉
コメント欄には悲壮感が溢れている。
こちらの攻撃は全て耐性で対策をされ、通用する手段は何もない。
確かに状況は絶望的と言えるが……
まだあきらめる状況ではない。
こちらの面子は『紅蓮の魔女』、『蒼氷の聖女』、『龍殺の守護者』の人外三人衆だ。
これだけ不利な状況でも、この三人がいれば跳ねのけてしまいそうな、そんな予感さえしてしまうのだ。
「さて、どうしましょうか?」
「ええ、清十郎、何か作戦を出してちょうだい」
「私がですか!?ええと……少し時間を下さい」
三人の会話を聞くと、全く糸口は見えないが……
それでも俺は逆転を信じるしかない!
そう思いながら配信を続けるのであった。
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