第34話 『星崩の大魔宮』㉔ 七星の王
『統率者』――
それは、ダンジョンに巣くう数多のモンスターたちの頂点に立つ存在。
全てのダンジョンの最高位であるグランドダンジョンを任されるボスとして冒険者を待ち受け、どれだけ凶悪で屈強なモンスターたちもその前では凡百の存在と断ぜられてしまう。
『統率者』はそんな崇高な存在として位置づけられていた。
その『統率者』の一柱として君臨しているのが『七星衆・セプテントリオン』。
それぞれが意思を持ち、特徴的な能力を有す七体の異形の存在。
多種多様な能力や類稀なる戦闘力を誇る『統率者』の中でも、更に特殊な存在として君臨する者たちの、最後の一人だある『セプテントリオン・アルカイド』との最後の戦闘が始まろうとしていた。
◆◆◆◆
俺たちの前に凄まじい震動を上げながら出現した巨大な魔獣。
俺たちの目の前までくると、その歩みを止め、真っ赤な眼光で俺たちを凝視している。
「……タイラント・ベヒーモス」
清十郎さんはこの巨大な魔獣を知っているらしい。
「こんなモンスターまで飼っているなんてね。三年ほど前に茨城県の方でダンジョンから出てきた暴れ回った恐ろしい魔獣だよ」
……その事件はニュースで見たぞ。
確かダンジョンから突然巨大なモンスターが現れて、多大な死傷者を出してしまった痛ましい事件だったな。
冒険者たちが総出で退治したと聞いているが。
「……ふん、悪趣味ですわね」
セイラさんが忌々し気に吐き捨てる。
「さっさと降りてらっしゃい!それともそのまま戦うおつもりかしら?」
セイラさんの挑発を聞くやいなや、魔獣の頭上から赤髪の大男が目の前に舞い降りた。
もちろん、その大男は『七星』の首魁たる『セプテントリオン・アルカイド』だ。
「……よくも我が同胞たちを倒してくれたな。だが、ここまでだ。貴様らは我が直々に葬ってくれる」
そう言いながらアルカイドが取り出したのは、一振りの剣。
柄の部分は漆黒の光を放ち、アルカイドの髪の色と同じく真紅の刀身からは、並の剣では無い恐ろしい気配が伝わってくる。
「あの武器は……皆さんお気をつけて、ただならぬ気配を感じます」
アルカイドの武器を見た途端にアイリーンさんの顔色が変化する。
「ええ、確かに」
「恐らく、神器……しかもSランク以上は間違いないですわ」
セイラさんと清十郎さんもその意見に同意する。
「ほう……我が剣、『恒星剣・破軍』の恐ろしさがわかるか」
そう言いながら剣をこちらに向けるアルカイド。
「だが、無駄だ。我が剣の前ではいかなる者も無力……」
剣に魔力を集中させ始めると、剣が赤黒い光を帯び始めプレッシャーが各段に跳ね上がる。
「さあ!貴様らの命を捧げよ!」
カッ!と目を見開いたかと思うと、剣を横薙ぎに振るう。
――剣からは赤黒い剣閃が走り、凄まじい速さでこちらへ向かってくる。
「プロミネンスウォール!」
すぐさま、アイリーンさんが四人を包み込むように障壁を張り防御する。
剣閃は障壁にぶつかると、凄まじい衝撃音を鳴らしながら消滅した。
「さあ!始めるぞ……我が同胞たちの無念……しかとその身に刻むが良い!」
アルカイドが叫ぶと同時に背後にいたタイラント・ベヒーモスが天に向かって咆哮を上げる。
「来ますよ!注意して下さい!」
アイリーンさんが叫ぶと同時にアルカイドを飛び越えるようにタイラント・ベヒーモスがこちらへ向かって突進を開始する。
数十メートルにも及ぶ巨体を揺らしながら大きな角を振るいこちらをまとめて薙ぎ払おうとしてくる。
「甘いですわぁ!グレイシアインフェルノ!!!」
セイラさんが杖を振るうと、タイラント・ベヒーモスの足元に魔法陣が浮かび上がり、魔法陣から天に向かって莫大な凍気が噴出した。
『ガ!?ガァアアアアアア………………』
一瞬、断末魔の咆哮を上げたかと思えば、瞬時に凍結してしまうタイラント・ベヒーモス。
「さすがお嬢様です!ドルァアア!!!!」
清十郎さんが凍結したタイラント・ベヒーモスの頭上に飛び上がり、刀を眉間に突き刺す。
刀を突き刺したところから、一気に亀裂が走っていき、粉々に砕け散ってしまった。
「……すげぇ」
俺は配信用のカメラを回しながら感嘆することしか出来なかった。
〈いや、あのタイラント・ベヒーモスをこんなあっさりと……〉
〈あの時にこの人たちがいたらなぁ……〉
〈それは言っちゃいけないよ……気持ちはわかるが〉
〈……とにかく!凄いぞ、勝てるよ!絶対に勝てる!〉
視聴者たちも一連の攻防に驚きつつも盛り上がりを見せ始める。
一部、数年前の事件を思い起こさせるコメントも見られるが、それは仕方がないだろう。
「このまま決めますわよ!アイシクル・ブラスターレイ!」
続けざまに放つのは、極低温の閃光だ。
触れたものを即座に凍結させてしまう、桁外れの凍気をアルカイドに向けて放つ。
直立しているアルカイドに直撃する……が。
アルカイドには全く効果が無いようだ。
「あなたも無効魔法を?……というわけでも無さそうですわね」
「それにあの老人のように超再生能力ってわけでも無さそうですね」
セイラさんとアイリーンさんが自らの必殺の魔法を微動だにせず防いでしまったアルカイドの能力を考察するが……
「ふん、貴様らの攻撃手段に関しては同胞たちを通じて全ての耐性を獲得済みよ!」
「……耐性?」
「ああ、我の能力は耐性の獲得、貴様らの攻撃を受けて散っていった同胞たちは全て吸収済み……即ち貴様らに勝ち目はない!」
……耐性だって?
ということは今まで戦った『七星』が受けた全ての攻撃の耐性をコピー済みってことなのか?
だとすれば勝ち目なんかなんじゃないのか?
「我は負けぬ!同胞から力を集め、我は無敵の王となった……我が名は『七星王・セプテントリオン・アルカイド』!さあ掛かって来るが良い!」
全ての『七星』の力を集め王となったアルカイド。
その力の全ては『統率者』としての誇りを全うするためにある。
俺たちにとって絶望的な状況の中、『七星王』とのバトルの火蓋が切られようとしていた。
少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。
ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。
良ければ、感想もお待ちしております。
評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。
いつもありがとうございます。




