第32話 『星崩の大魔宮』㉒ ミザールの真意
『双獣牙・デュアルファング』、二本一対でただならぬ気配を漂わせるこの武器は、『セプテントリオン・ミザール』の手元で怪しげな光を放ち始めていた。
「はあああ!『覚醒せよ……双獣』!」
ミザールの合図を皮切りにそれぞれの短剣から何かが勢いよく飛び出してくる。
「シャアアアアア!」
「ギギギギィィイ!」
出現したのはそれぞれ赤と青の色違いの二匹のモンスター。
一見巨大な蛇に見えるが胴体は昆虫のような鱗に覆われ、頭の部分にはムカデのようなパーツにクワガタのような大顎が生えている。
体長は三十メートルほどはあるだろうか。
そんな恐ろしいモンスターが二匹、凄まじい速度で地を這い、宙を舞っている。
〈あれって、メガロセンチピードだよな……〉
〈ああ、でも大きさと凶悪さが段違いだけどな〉
〈確かに、メガロセンチピードでAランクモンスターだから……〉
〈やだ、絶対にSランク以上じゃんか〉
コメント欄に絶望的な文字が流れている。
あのモンスターは少なくともSランク以上ってわけだな!
「……これは」
「これこそ、アルカイド様より賜りし私の切り札!さあ、オメガセンチピードよ!あの憎たらしい小娘をバラバラに切り刻んでおしまい!」
ミザールの合図と共に、二匹のオメガセンチピードがアイリーンさん目掛けて突進を開始する。
「そんな真っ直ぐ突っ込んできたら……良い的ですよ!ボルガニックレイザー!」
アイリーンさんは真っ直ぐ突っ込んでくるオメガセンチピードへ向かって超高熱の閃光を放つ。
狙いは一番近い個体だが、すぐさま杖を振り、二匹まとめて一掃すべく閃光を横薙ぎに払う。
「甘いわねぇ!」
ミザールが即座に動く、何と二匹の目の前の空間を操作し、空間の歪みを出現させる。
二匹はそのまま、歪みに飛び込みどこかへワープし、ボルガニックレイザーを回避する。
「……な!?」
驚くアイリーンさんの頭上と背後、二ヵ所の空間が歪み始める。
「危ない!」
俺の叫び声と同時に歪みから二匹が、大顎をガチガチと鳴らしながら飛び出してきた。
「くっ……、プロミネンスウォール!」
アイリーンさんは何とかギリギリで障壁を作り出し、二体の突進をいなした。
通り抜けざまに大顎が障壁にぶつかり、ギャリギャリと嫌な音を奏でている。
「ふん!しかしまだ終わらないわよ!」
再びミザールが空間を操作し、歪みを作り出す。
オメガセンチピードはまた歪みに飛び込み姿を消した。
「そうか……これが」
これこそが『セプテントリオン・ミザール』の本気の戦い方だと理解した。
『双獣牙・デュアルファング』はあの獰猛な二匹のオメガセンチピードを召喚する神器。
そして、そのオメガセンチピードを自らの空間転移能力で自在に移動させ、相手を翻弄し隙を付いて息の根を止める。
「……なんて恐ろしい戦法なんだ」
気付けばそこら中にミザールが作り出した空間の歪みが存在しており、二体はその間を縫うようにワープを続けている。
ミザールの巧みな空間操作のおかげで相手は、オメガセンチピードの挙動を正確に掴めない。
……が、しかし。
「アイリーンさんには通じないだろうに」
俺は心に浮かんだ言葉を思わず口に出した。
「クリムゾン・メテオ!」
一瞬の隙をついてアイリーンさんが極大魔法を放つ。
杖を振るった直後に、天から超高熱の隕石群が舞い降りてくる。
「うわわわぁ!」
久しぶりの感覚だが……巻き込まれるぅ!
俺は緊急で『神速』を発動し、回避体勢に入る。
降り注ぐ炎の隕石を何とか回避しながらも、配信を続ける俺のカメラが捉えたものは……
大量に降り注ぐ隕石を避けきれずに無惨に押しつぶされ、焼き尽くされる二体の姿だった。
「いよっしゃぁ!さすがアイリーンさん!」
これなら、あのミザールもただでは済まないはず……
そう思いながらミザールの方を見ると。
そこには、自らの頭上に巨大な空間の歪みを作り出して隕石群を片っ端から転移させているミザールの姿があった。
「何でもありかよ!こんちくしょう!」
空間の歪みに守られながらミザールは再び二本の短剣を操作し、オメガセンチピードたちを生み出していた。
「さあ、もう一度最初からよ!」
先ほどと同じく、ミザールは空間の歪みを大量に発生させる。
水を得た魚のようにオメガセンチピードが空間を右に左に自在に転送し続けながらアイリーンさんを狙い始めた。
〈あの武器もやばいよな……〉
〈ああ、あのモンスターを呼び出し放題かよ〉
〈アイリーンさんもジリ貧じゃね?〉
〈いや、まだ手段はあるだろう〉
〈それってひょっとして……〉
そう、視聴者たちと同じく、俺の頭の中にもこの状況を打開する手段が一つだけ浮かんでいる。
……最高位神器『炎帝器・エクス・イフリート』による魔神化。
今の状況も、アイリーンさんが炎の魔神になってしまえば一瞬で打破できるのは間違いないだろう。
再びプロミネンスウォールを周囲に展開し、オメガセンチピードの突進から身を守っているアイリーンさんも、同じことは考えていたようだ。
「『憑依……エクス・イフリート』!」
すぐに、『炎帝器・エクスイフリート』を頭上に掲げ、魔力を集中し始めた。
先ほどの『セプテントリオン・フェグダ』を一瞬で葬った時と同じ現象が起こり始める。
赤黒い魔力が杖の先端の宝珠から湧きおこり、アイリーンさんを包み込む。
赤黒い繭のような魔力の塊が出来上がり、その中から炎を纏った魔神の姿のアイリーンさんが出現した。
「ギャギャギャァアア!」
「シャアアアアア!!!」
オメガセンチピードたちは突如出現した異形の魔神の姿に一瞬戸惑いを見せたが、すぐに立て直し突進を始める。
ミザールも今度は空間操作は行わない。そのまま二体同時にアイリーンさんに突っ込む。
……しかし、二体同時の渾身の突進を、アイリーンさんは微動だにせず体一つで受け止めてしまう。
「「…………!?」」
全力で突っ込んだのに一歩たりとも相手を動かせずに焦るオメガセンチピード。
『どっせぇええい!』
完全に動きを止めた二体に向かってアイリーンさんが炎を纏ったパンチを放つ。
「「ギシャァアアアア!!!!」」
炎の拳からは更に強大な魔力の炎が巻き起こり、二体同時に消し飛ばしてしまった。
「何だと!そ、そんな……ぐぅ!」
その光景に目を見開いて驚くミザールだったが、次の瞬間には瞬間移動の如く高速移動をしてきたアイリーンさんに腹部を手刀で貫かれていた。
思わず自らの腹部に刺さるアイリーンさんの腕を掴むミザールだったが。
『すいません、そろそろ終わりにしますね』
フェグダの時と同じく、手刀から炎を発生させ、ミザールを焼き尽くそうとするアイリーンさん。
手刀の先端から赤黒い地獄の炎が噴出し始めた瞬間だった――。
「受け取ってください……アルカイド様ぁ!」
アイリーンさんの腕を掴んでいる自らの手を短剣で切断するミザール。
間髪いれずにその切断された自らの手を空間操作でどこかに転送する。
「やった……これで……我ら『七星』の勝ちだぁあアアアア!!!!」
そのまま地獄の炎に焼かれ、燃え尽きながらも歓喜の叫び声を上げるミザール。
たった今転送されたミザールの腕は、地獄の炎で焼かれている最中だった。
その腕を転送先で受け取るのはもちろん、『セプテントリオン・アルカイド』だ。
これでアルカイドは、地獄の炎の耐性までも吸収することになる。
自らの命を賭してアルカイドの勝利をより確実なものにする。
『セプテントリオン・ミザール』の願いは……
こうして結実したのであった。
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