第30話 『星崩の大魔宮』⑳ ミザールの覚悟
「……あれ?ここは?」
いうのまにか俺はさっきまでいた異空間とは別の空間にいた。
どうやら転送されてしまったようだ。
「あれ?ハヤトさん、無事だったんですね!」
聞き慣れた声がする方向へ振り向くと、そこにはアイリーンさんがいた。
ついさっき、小型蟲型カメラにて無事は確認できたいたが、こうして再会できると喜びもひとしおだ。
「はい!何とか無事でした!アイリーンさんも大変だったみたいですけど大丈夫ですか?」
「ええ、私の方は全然大丈夫でした。ハヤトさんと再会出来てほっとしちゃいました」
いつものニッコリ笑顔を向けてくれるアイリーンさん。
実は強敵相手に死闘を繰り広げて文字通り死にかけたのだが、こうしてまた笑顔を見ることが出来て本当に良かった。
「ちょっと?この空間にいるのはあなた方だけではなくてよ、人前であまりイチャイチャしないでほしいですわ」
やっぱりいたかセイラさん。
ちくしょう、せっかく二人きりになれたと思ったのに……
「まあまあお嬢様、せっかく皆で再会できたのですから、少しくらいはしゃいでも良いじゃないですか」
もちろん清十郎さんもいる。
どうやら四人まとめて同じ空間に転送されたみたいだ。
……まあ、みんな無事で良かった良かった。
気を取り直して俺たちはそれぞれの無事と、はぐれている間に何があったのかを報告し合うことにした。
全員の話をまとめると、四人とも別の空間に飛ばされて、それぞれ待ち構えていた『七星』と戦っていたらしい。
アイリーンさんが、老人の姿をした『セプテントリオン・フェグダ』
セイラさんが、少女の姿をした『セプテントリオン・メグレズ』
清十郎さんが、ドラゴンタイプの『セプテントリオン・アリオト』
そして俺が、忍者の姿をしていた『セプテントリオン・メラク』
その前に倒した毒蛇のような姿をしていた『セプテントリオン・ドゥーベ』も入れて、これで五体の『七星』を倒したことになる。
残りは二体、あの女性の姿をした『セプテントリオン・ミザール』と、赤髪の大男、恐らく『七星』のボスであろう『セプテントリオン・アルカイド』だ。
この二体を倒せば、グランドダンジョン『星崩の大魔宮』を踏破出来るのは間違いないだろう。
……よし、これでこのダンジョンのゴールも見えてきたな。
「ところで、ハヤトさんも『七星』の一人を倒したんですか、それは凄いですね」
清十郎さんが、本当に驚いた様子で俺を褒め出した。
「ええ、相手はグランドダンジョンのボス『統率者』の一員。それを上級職に上がりたてのレベルで倒してしまうなんて、確かに前代未聞と言っても過言ではないですわ」
セイラさんもそれに続く。
「はい、ハヤトさんは普通の冒険者とは一味違うんです。なんたって、私の相棒なんですから」
アイリーンさんが胸を張りながらドヤ顔をしている。
いや、可愛いんだけど、何て言うか……
アイリーンさんが俺のことで誇らしげにしていることが、とてつもなく嬉しいと思えてしまった。
……よし、この調子で頑張ろう。
そう決意した瞬間だった。
周囲の空間が再び歪みだす。
この現象はどこかで見た覚えがある……
そう、先程俺たちを分断してしまったあの空間魔法と全く同じだ。
「これは……またミザールの空間魔法か!?」
また、どこかへ連れていかれるのか、それとも再び分断されるのか、四人ともが最大級の警戒をしたその時。
「人間ども……ここからは私が相手をします、覚悟なさい」
俺たちの目の前の空間が不自然に歪曲したと思えば、その中から妖絶な女性の姿をした『セプテントリオン・ミザール』が出現した。
「あら?あなた一人だけですの?あの赤髪の大男ならばともかく、あなた一人ならば無理ですわ。やめておきなさいな」
セイラさんが皮肉たっぷりに警告するが……
「ご忠告痛み入るわ。しかし……大きなお世話よ!」
ミザールがそう言いながら魔力を集中すると、周辺の空間が再び歪み始める。
その歪みは、俺たちの丁度中心に発生する。
「……また、分断かよ!?」
先程と同じく、俺たちはそれぞれ別の空間に飛ばされてしまう。
「ちくしょう!またかよ!」
飛ばされた先は、また違う空間だった。
まずいな、次は一体どんなのと戦うんだ?
周辺を警戒すると、背後から声が聞こえる。
「ハヤトさん!大丈夫ですか!?」
その声は……アイリーンさんか!
振り向くと、いつものアイリーンさんがそこにいた。
良かった!今度は一人じゃなかったみたいだ!
「良かったぁ、また一人で飛ばされたら寂しいなぁって考えてたらハヤトさんがいたからホッとしちゃいました」
……いや、その発言はすごく心に沁みるわぁ。
ほんのり癒されながらも俺はすぐに気を引き締める。
何故なら目の前の空間が再度歪み始め、歪みの中から何かが出現し始めたからだ。
どうやら、先程とは違って分断されたのは二人ずつだったようだ。
俺とアイリーンさん。
そして、セイラさんと清十郎さん。
それぞれのコンビを隔てた形で空間の歪みが発生したことからも、二対二の割合で分断されてしまったことがわかる。
一体どういう了見でそんなことをしたのか。
答えを知っているのは本人しかいないだろう。
……そう、目の前に出現し、こちらに敵意を剥き出しにしている妖艶な女性。
『セプテントリオン・ミザール』との対決が今始まろうとしていた。
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