第28話 『星崩の大魔宮』⑱ 炎帝器
最高位神器……グランドダンジョンを踏破することで入手できる、神器の中でも最高の能力、希少さ、価値を誇る。
一般的に冒険者がSランクダンジョンを踏破することは、世界中を見渡しても数えるほどしかいないSランク冒険者以外には不可能と言われている。
グランドダンジョンはそのSランクダンジョンを踏破することでしか解放されない、そのため世間的には情報は知られておらず、Sランク神器が最高位だと認知されている。
しかし、現在『紅蓮の魔女』アイリーン・スカーレットが所持している『炎帝器・エクスイフリート』はそれを上回る最高位神器。
全ての神器の中でも最高位の名を冠する神器である。
この最高位神器を所持しているということは、以前どこかのグランドダンジョンを踏破しているという証明に他ならないが……アイリーンがグランドダンジョンを踏破したという事実はごく一部の人間にしか知らされていない極秘事項となっている。
その『炎帝器・エクスイフリート』の力が、今まさに発揮されようとしていた。
「ぐ、最高位神器じゃと!?なぜ貴様がそんなものを持っておるのじゃ!」
「あれぇ?おじいじゃん、この杖のことを知っているんですか?」
「とぼけるな!最高位神器を持っているということはグランドダンジョンを踏破したということ、すなわち、『統率者』を倒したということじゃろが!人間なんぞにそんなことが出来るものかぁ!」
さっきまでの余裕は消え去り、只々喚き散らしている。
「しかも、その神器の名前は……もしや貴様が倒したというのは……』
「はい、私が倒したのはグランドダンジョン『獄炎の霊殿』で出会った『魔炎帝・エクスイフリート』、あなたの言う通り『統率者』と名乗っていましたね」
アイリーンの言葉に一気に目を見開くフェグダ。
「な……なんじゃと?あの『魔炎帝』が、貴様のような人間に負けたというのか……我らと同じ『統率者』が……」
事実が受け入れられないのか、ショックのあまりよろめくフェグダ。
「同じ『統率者』ですか?変ですねぇ?」
「なんじゃ?この期に及んで何が言いたいんじゃ?」
「いえ、私が戦った『魔炎帝・エクスイフリート』は確かにかなりの強敵でした。それこそ私も死を覚悟するほどの……しかし同じ『統率者』と名乗るあなたは……それと比べるとあまりにも弱すぎる気がするんですけど、本当にあなたは『統率者』なんですか?」
「貴様ぁ!!!!もう許さんからなぁ!!!!死ねぇぇえええ!!!!」
アイリーンの指摘はフェグダのプライドを著しく傷付けたらしく、即座に激昂を誘発してしまった。
怒りをそのまま吐き出さんばかりに叫びながら、アイリーン目掛けて突っ込んでくる。
「ふう……この程度で激昂して突っ込んでくるなんてやはりあなたは『統率者』とは思えませんね」
極めて冷淡にそう吐き捨てたかと思うと、杖を頭上に掲げた魔力を集中し始める。
「それでは……行きますよ!『憑依……エクスイフリート』!!!」
杖の先端の紅黒く光る宝珠から炎の魔力が噴出し、アイリーンを包み込み始める。
その魔力はあたかも繭の如く、アイリーンを取り込んでしまった。
「な、なんじゃぁ!?」
フェグダはその異変に気付き、突進を止め様子を伺った……
が、一歩遅かった。
次の瞬間、繭が破れるように、炎の魔力が弾け飛び、勢いよく炎を纏った魔神が飛び出してきた。
「き、貴様はエクス・イフ……がぁ!」
驚く間もなく巨大な剛腕で顔を鷲掴みにされてしまうフェグダ。
足をジタバタさせて抵抗するが、凄まじい腕力の前には全く意味をなさない。
炎の魔人はそのままフェグダを頭上に持ち上げる。
その間にも魔神が纏う炎の影響でフェグダの体は焼かれ続けている。
魔人は、空いているもう片方の腕で手刀を作り、がら空きになっているフェグダの胸元へ向かって突き刺した。
「ぐえぇ!!!!」
『さあ、これで終わりにしましょうか』
魔人からは、アイリーンの声と野太い悪魔のような声が重なって聞こえてくる。
その言葉の終わりと共に、刺しこまれたままの腕から、より一層激しい炎が噴出し始めた。
「ぐ、グオオオオオオオ!!!!!」
体内から強大な炎で絶え間なく焼かれ続ける苦痛に、断末魔の叫び声を上げるフェグダ。
『ごめんなさい、『超再生能力』を破るにはこれが一番楽なんですよね』
体内から再生能力を上回る出力で跡形も無くなるまで燃やし尽くす。
アイリーンが一番容易だという理由で選択した方法は、フェグダにとってもっとも苦痛を味わう方法でもあった。
現在のアイリーンは『魔炎帝・エクスイフリート』の力を得て、地獄の炎を使役可能となっている。
地獄の炎はその威力もさることながら、相手を焼き尽くすまで消えることはない、そしてその炎は相手に最大級の苦痛を絶え間なく与え続ける炎として、最も恐れられている炎でもある。
「ぎ、ギエエエエエ!!!!もう、殺してクレぇえエ!!!!」
自らが備える『超再生能力』のために簡単には死ねないフェグダが、自らの死を懇願し始めている。
その能力が仇となり、耐えることができない苦痛を絶え間なく与え続けられる地獄を経験する事になるとは、何とも皮肉な話である。
『さあ、そろそろ終わりですかね?お疲れ様でした♪』
炎の魔神の姿のため、外見からは全くわからないが、アイリーン本人は間違いなく笑顔を浮かべているであろう。
いつしか、フェグダの断末魔が聞こえなくなったかと思うと、もはや黒焦げになり原型を留めていない体が消滅を始める。
アイリーンの地獄の炎が『超再生能力』を上回った瞬間だった。
『もうちょっと粘るかと思ったんですけど……意外とあっけなかったですね……憑依、解除!』
一瞬、赤黒い光が体中から放たれたかと思うと、炎の魔人の姿が消え去り、そこにはアイリーンの姿があった。
少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。
ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。
良ければ、感想もお待ちしております。
評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。
いつもありがとうございます。




