第26話 『星崩の大魔宮』⑯ 氷結地獄
その場にいるのは、一方はその身の丈を遥かに超えた長さの両手剣を持つ少女、そしてもう一方は青白い光を全身から放ちながら身構える徒手空拳の女性。
相対する二人は、自らの必殺の一撃を相手に撃ち込むためのタイミングを計っている。
セイラが現在使用している『氷結地獄』は、体内の闘気と魔力を融合させ、極限まで練り上げる『魔拳王』のスキルを、セイラなりにアレンジしたものだ。
セイラの十八番である氷系統の魔力と闘気を融合させ、自らのステータスを爆発的に上昇させ、周囲には凍気を振り撒くことが可能となる。
「あーあ、お姉さん相手ならこの姿のままでも簡単に勝てると……思ったんだけどなぁ!」
そう言いながら両手剣を持った少女、メグレズが気合を入れるとその体に変化が始まる。
元々は小柄な少女そのものだった体躯はどんどん大きくなり、いつしか筋骨隆々の巨大な鬼の如き姿へと変貌させていく。
「久しぶりにこの姿になりましたよぉ!こうなったらもう知りませんからねぇ!『グランドインパクト』!」
その巨体は再び両手剣を振り上げ、鉄槌の如く地面に振り下ろした。
先程の一撃とは次元が違う威力の『グランドインパクト』を受け、周囲の地面が一瞬で吹き飛び始める。
一度はセイラの凍気で凍結せしめられた地面は激しい隆起に耐え切れず、再び崩壊しながら周囲を巻き込み始める。
「それがあなたの本当の力ってわけですわね……それではこちらも全力で行きますわよ!」
崩壊を続け瓦礫を巻き上げながら衝撃波が向かってくる中、精神を集中すべく一瞬瞳を閉じた後……
「……『第一階層』!」
その瞬間、セイラの姿が消えた。
まるで瞬間移動をしたかの如く忽然と姿を消し、『グランドインパクト』による地面の崩壊を免れる。
『氷結地獄』の第一段階である『第一階層』は、身体能力の爆発的上昇を更に推進する。
その上昇した身体能力で音速に迫る速度で移動し『グランドインパクト』を乗り越える。
「はああああ!!!!」
そのままの勢いでメグレズに迫るセイラの姿は、さながら青白い光を放つ彗星のようであった。
「一体、何なんですかぁ!?」
メグレズはその巨体に似付かわしくないような嘆き声を上げながら、迫りくる彗星に向かって大剣を振り下ろす、が。
「遅すぎてあくびが出ますわ!」
セイラは、すかさずジャンプで回避し華麗にその体を捻りながらメグレズに近接し……
「行きますわよぉおおお!!!!」
放たれたのは、超高速の連撃。
剣を振り下ろした直後の隙だらけの巨体へ向かって、十重にも二十重にも重ねられた攻撃が一切の躊躇なく叩き込まれた。
たまらず吹き飛ばされるメグレズの巨体。
その体は何度も何度も回転し、地面に打ち付けられながら果てしない距離を転がっていく。
「まだまだですわぁ!!!!」
セイラは更に追撃を加えるべく駆け出した、完全に勝負を決める気だ。
「ぐぅぅっ!痛いじゃ……ないですかぁ!!!!」
メグレズは追撃に向かってくるセイラの気配を察知したためか、無理やり体を起こし追撃に備える。
「……こうなったら、リミッターを解除してぇ!!!!」
メグレズの両腕が更に膨張し始める。
どれだけ胴体との比率が歪になろうとお構いなしで両腕のみ肥大化させていく。
「もう……知りませんよぉぉぉ!!!!」
半ば発狂しながら肥大化した両腕で『重断剣・グラビティ』を振り回しながら突撃してくる。
「決着を付けましょうか!……『第二階層』!!!!」
次にセイラが使用したのは『氷結地獄』の第二段階である『第二階層』だった。
これは、闘気と魔力をその四肢に集中させ攻撃力を増幅させる、攻撃特化形態である。
セイラの両腕と両足に、青白い光が集束するように纏わりつき、強力な光を放ち出す。
「死ねぇえええ!!!!」
「負けませんわよぉぉぉ!!!!」
メグレズの大剣での一撃と、セイラの必殺の拳撃が交差し激突する。
巨体の中心部を狙って放たれた聖女の剛拳は、その大きな胸を貫いた。
聖女の頭部へ狙いを定めて振り下ろされた剣撃は、その剛拳の余波を受けて弾き飛ばされた。
「あいったぁ……負けちゃったかぁ……」
「わたくしに『第二階層』まで使わせたんですもの、あなたの強さ、誇っても良いですわよ」
その言葉を聞いて微笑みながら息を引き取るメグレズ。
『蒼氷の聖女』 青羅・バーンシュタインと『消魔・セプテントリオン・メグレズ』の対決はこうして幕を閉じたのだった。
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