第24話 『星崩の大魔宮』⑭ 消魔
『龍殺の守護者』と『星炎龍・セプテントリオン・アリオト』の決着が着いた頃、別の空間ではまた新たな邂逅が行われていた。
「あなたがわたくしの相手ですの?本当に戦いになるんですの?」
「へえ、お姉さんは相手が子供だと舐めてかかっちゃう感じの人なんですか?」
相対するのはSランク冒険者『蒼氷の聖女』星羅・バーンシュタインと、『七星』の一角『セプテントリオン・メグレズ』だった。
「まあ舐めてるわけではないんですけど、貴方みたいな子供相手だとやる気が出ないのも当然ですわ」
メグレズの見た目は10歳くらいの少女が魔導士のようなローブを羽織っている。
こんな小柄な少女がまさかグランドダンジョンのボスの一体だとは誰も想像もつかないだろう。
「まあまあ私的には舐めてもらってた方がやりやすいんだから良いんだけどねー」
「あらあら、わたくしとしたことが、獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くす……こんな簡単なことを忘れてましたわね」
セイラはそう言いながら杖を構える。
杖の先端に据え付けられている宝玉に魔力が宿り始め、周囲の空気が俄かに冷気を帯び始める。
急速に気温が下がり始めたのを察知したメグレズはブルブルと体をふるわせながら白い息を吐き始めた。
「あれれー?何か急にやる気出しちゃいましたか?私寒いの苦手なんですけど……」
「ご心配なさらず、すぐに何も感じなくして差し上げますわ、ヘル・スノーストーム!」
セイラの膨大な魔力が吹雪へと変換され周囲を極寒の吹雪が覆い始める。
通常のモンスターならば一瞬で凍結し絶命せしめる程の凍気がメグレズを襲った。
「うふふ、これで完了、他愛ないですわね」
十分な吹雪を見舞い、術を打ち切るセイラ。
周囲の吹雪は霧散しそこに残るは一瞬で凍結したメグレズの亡骸――
ではなかった。
そこには何事もなかったかのように笑顔で立っている少女の姿だった。
「……解せませんわ」
「あはは、びっくりしました?私、意外と寒さに強かったみたいですねー」
「それは寒さに強いなんてレベルじゃない!……ですわね」
驚きのあまりセイラの言葉使いも若干の乱れを見せる。
自らのスキル『蒼氷』は如何なるものも瞬時に凍結し死に至らしめる力を持つ……はずだった。
しかし、目の前の少女はその攻撃を受けてなお、凍結するどころか無傷で立っているのだ。
「一体どんな理屈なんですの?」
「さあ?もう少し戦ってみればわかるんじゃないですか?」
「言われなくてもそうしますわ!アイシクル・ブラスターレイ!」
次にセイラが放ったのは極低温のレーザー。
超高温の光線を放つアイリーンの『ボルガニック・レイザー』の対となる魔法である。
触れれば即凍結し、そのまま砕け散る必殺の一撃だ。
メグレズは特に回避もせずまともに受ける……がまたもや無傷でいなす。
(一体どういうことですの?わたくしの『蒼氷』は並大抵の魔法防御力では耐えることは不可能のはず……まさか!?)
セイラはSランク冒険者だ。
今まで踏んだ修羅場の数は並の冒険者たちを遥かに凌ぐ。
その経験が導き出した一つの可能性を口に出す。
「……『魔法無効化』?」
「……へえ、やっぱりわかっちゃうんですね。正解ですよー、私の正式な名は『消魔・セプテントリオン・メグレズ』と言います。以後お見知りおきを」
(やはり、『魔法無効化』!それならばこの状態も納得できますわ)
「『魔法無効化』は読んで字のごとく、全ての魔法を無効化するスキルだ。
相手が魔法であれば、どれだけ強力な凍気や火炎も全て無効化し防いでしまうため、魔導士系統の冒険者の天敵とも言われるスキルである。
当然、セイラも例外ではない。
膨大な魔力でどれだけ極低温の魔法を放っても、無効化されてしまえば意味がないのだ。
「また面倒な相手と出会ってしまいましたわ……さて、どうしたものかしら」
「やっぱりお姉さんは魔法が通用しなかったらただの人って感じなんですかね?それじゃあ私相手には勝てませんよー」
メグレズは不敵に微笑みながら両手を頭上に掲げる。
「さて、次はこっちから行きますよー、出でよ『重断剣•グラビティ』」
すると、全長3メートルはあろうかという巨大な両手剣が出現する。
小柄なメグレズの見た目からして果たして本当に扱えるのか?というくらいのサイズ感だ。
メグレズはその巨大な剣を事もなげに持ち上げセイラに向かって構える。
「これはまた……意外な武器をお持ちで」
「そのセリフはよく言われます。まあ人を見た目で判断すると駄目ですよってことで……行きますよ!」
勢いよく地面を蹴り、駆け出すメグレズ。
両手剣を精一杯い振りかぶりながら物凄い速さで突っ込んでくる。
「……速い!?」
想像の何倍もの速さで突っ込んでくるメグレズに驚きながらもバックステップで回避しようとするセイラだったが……
「甘いですよー!」
そこからさらにメグレズが加速する。
まるでセイラの動きを予測していたかのような二段階の加速、虚をつかれたセイラは一瞬反応が遅れ、メグレズの接近を許してしまう。
「もらったぁ!」
セイラを射程に捉えたメグレズは力の限り、両手剣を振り下ろした。
「……やりますわね!でもこれでぇ!!!!」
咄嗟に持っている杖を地面に叩きつけるセイラ。
その瞬間、地面から巨大な氷柱がメグレズを貫かんと一気にせり上がった。
「あれぇ?私の能力を忘れちゃったんですか?」
しかし、氷柱の先端がメグレズの腹部に届くか届かないかのタイミングで、『魔法無効化』が発動し氷柱は粉々に砕け散る。
「無駄ですよぉ!」
メグレズは無惨に散った氷柱の残骸ごと、セイラの体を薙ぎ払おうと両手剣を振り払う。
……が、先程の氷柱で一瞬のタイムラグが生まれたため、間一髪で後ろに飛び退き、退避することが出来た。
そのまま後退し、メグレズと距離を取る。
「ふう、まさかあの外見で重剣士タイプとは驚きましたわ。わたくしとしたことがこんな油断をしてしまうなんて……」
通常、両手剣のような巨大な剣を扱う重剣士などの職業に就くのは、大柄な者が多い。
しかしメグレズのような小柄な少女が、自らの武器に巨大な両手剣を選択するなどとは、想像もしなかった。
何とか回避は出来たが、自らの油断からピンチを招いたことは反省し、次に活かす必要がある。
「さてと、それでは……」
おもむろに杖を自らのアイテムボックスに収納すると……
「ここからは、ちょっとだけ本気を出しますわよ」
そう言いながら自らの拳を胸の前で撃ちつけるのだった。
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