第22話 『星崩の大魔宮』⑫ 滅龍刀・銀嶺
広大な空間の中で清十郎と黒龍が睨み合う。
ドラゴンの切り札の一つでもあるブレスを真っ向から斬り裂いて防いでしまったのは、アリオトとしても想定外だったらしく、清十郎に向けて警戒の眼差しを送っている。
「……なるほどな」
アリオトは得心するように呟いた。
「その力、ドラゴンを屠るために特化された力だな。差し詰めその刀は神器……しかもSランクだろうな」
アリオトの推理に対して清十郎はよくわかったな?とでも言いたげな表情を一瞬浮かべた後に笑顔でこう述べた。
「ええ、その通りです。この刀はSランク神器『滅龍刀・銀嶺』、装備者にスキル『龍殺』をもたらす、対ドラゴン用としては最強の武器です」
そう言いながら刀をアリオトに向ける清十郎。
この『滅龍刀・銀嶺』はとあるSランクダンジョンをセイラと共に踏破した際に入手した神器だ。
装備することによって使用可能となる『龍殺』は、その名の通りドラゴンタイプのモンスターに対して極大の特効をもたらす。
その効果は、白銀の光を纏っている時にドラゴンタイプへの攻撃の効果を5倍に引き上げるという破格の性能を誇る。
清十郎はこのスキルを駆使し、過去に地上を脅かした地龍を単独での討伐に成功している。
その結果、世間から『龍殺の守護者』の二つ名で呼ばれることになり、伝説の冒険者としての名を刻むことになるのは知っての通りである。
その対ドラゴン特化と言える清十郎と、ドラゴンタイプのモンスターであるアリオトの相性は、清十郎にとっては最良であり、アリオトにとっては最悪と言えるものだった。
……しかし、アリオトは不敵に笑う。
「久々に出会えた強敵との戦い、存分に楽しませてもらおうぞ……」
そう言いながら笑うアリオトの喉元が光、口元から炎が漏れ出し始める。
それは、アリオトが笑う度に火勢を強める、さながら燃焼炉のように見えた。
「その炎のブレス……火龍ですか……」
世間的に言えば炎のブレスを操るドラゴンといえば火龍に分類されるのは定跡といえるだろう、しかし清十郎が何気なく放ったこの言葉を聞いた瞬間、アリオトの表情が険しくなる。
「ふん!我を火龍のような下等な龍種と一緒にするな……」
「ほう、それではあなたは一体何に分類されるドラゴンなのですか?」
「我は貴様ら人間如きに分類されるような名は持ってはおらぬわ、だがその昔、我のことを神の如き存在と崇めていた人間どもの間ではこう呼ばれていた……『星炎龍』と」
「……『星炎龍』ですか、残念ながら聞いたことはないですが、ただの火龍とは違うようですね」
「当たり前だ、我が炎は星の力を持つ必殺の炎、人間如きに耐えられる代物ではないわ!」
その必殺の炎は先程、清十郎の刀で綺麗に斬り裂かれたのだが……
清十郎は頭に浮かんだその考えを口には出さないことにした。
これ以上激昂させては、戦況が変わってしまうかもしれないからだ。
「……とにかく、私はセイラ様の下に駆けつけなければなりませんので、申し訳ありませんが成敗させて頂きます」
そう言いながら刀を構えなおす清十郎、スキル『龍殺』を使用したためか、再び刀身に白銀の光が宿り始める。
「ぬかせ!人間如きがぁ!――ガァアアア!!!!」
再びアリオトがブレスを放つ。
光を纏った火炎が舞い、辺りを蹂躙する。
清十郎は今度はブレスを斬らず、上空に回避する。
「逃がすかぁ!!!」
すかさずアリオトが身をよじり巨大な尻尾を叩きつけてきた。
鞭のように激しくしなった尻尾は、空中の清十郎へ容赦なく襲い掛かるが――
尻尾はそのまま空中を通過する。
清十郎は華麗に身を翻しながら尻尾を回避し地面に着地、素早くアリオトの死角へ移動する。
「むう!?一体どこに行ったぁ!?」
驚くアリオト、しかしその足元には既に清十郎が迫っており、黒龍の首を狙って斬り掛かるところだった。
「ッグゥアア!」
ギリギリのタイミングで首を引いたアリオトだったが、白銀の光を纏った刀身により漆黒の鱗が斬り裂かれ傷を負ってしまう。
ここぞとばかりに清十郎が畳みかける。
アリオトも反撃を行うが、爪での攻撃を華麗な動きでひらりとかわしながら、的確に相手にダメージを与えていく。
アリオトの屈強な体にどんどん傷がついていく、強固であるはずの漆黒の鱗がいとも容易く斬り裂かれていく。
しかし、その時。
「いい加減にしろぉ!人間如きがぁ!」
アリオトが叫び、全身が輝き出す。
「死ねぇ!!!!」
凄まじい魔力を帯びた炎が全身から放たれ、周囲一帯が炎で包まれる。
「これが……奥の手?」
ブレス程の威力は無いにしろ、その範囲はアリオトの全方位に及ぶ。
「厄介な攻撃を持っているな……」
清十郎はその身を翻して迫りくる炎を回避するが、常に放たれ続ける火炎や熱閃を完全に避けることは至難の業だ。
体の所々が焼かれブスブスと煙を上げ始めている。
「ならば!」
清十郎は刀を地面に突き立てると、刀身から白銀の光が迸り防御壁を張る。
これで少しは持つだろう。
「ガアアアアア!!!!」
そこへアリオトが咆哮を上げながら身を翻し、その反動で尻尾で薙ぎ払ってきた。
「くっ!」
素早く刀を地面から引抜き、即座に跳躍して回避する。
そのまま上空は尻尾を旋回させて追撃してくるが、そこは斬撃で対抗する。
ガキィン!と金属音がしてお互いの武器が弾き返された。
その反動で吹き飛ばされた清十郎だが、華麗に宙返りしながら地面に着地する。
アリオトは今の斬撃で尻尾の先端の鱗が破損している。
その様を苦々し気な表情で見つめた後に、清十郎へ向けて憤怒の表情を見せた。
「なぜ死なぬ!矮小なる人間如きが我の攻撃で……なぜ死なんのだぁ!」
アリオトが次に選択した行動は、全身に炎を纏った状態での突進だった。
頭頂部をこちらに向けて物凄い勢いで突進してくる。
清十郎は両手で刀を持ち正面へ構える。
「――来るが良い……ドラゴンよ!!!!」
どうやら正面から受け止める決心をしたようで、その刀身には先程までとは比較にならないほどの、白銀の光が集束してきている。
「ガアアアアアアア!!!!」
「はあああああああ!!!!」
アリオトの突進と、清十郎の斬撃が交わる。
両者一歩も引かずの激突により、邪悪な爆炎と眩いばかりの白銀の光が交わり空間に乱舞する。
清十郎が持つ刀身にアリオトの頭が激突し、清十郎の体は一部が焼き焦げ、アリオトの体も多量の鱗が弾け飛んでいる。
そして、激しい轟音と共にドラゴンの巨体が止まる。
「はあ……はあ……何とか止まりましたね」
「グゥゥゥ――ゥゥゥオオオオ――ッ!!!!」
アリオトは更に何かしようとしているのか、口から漏れ出る炎を吐き出しながら唸り出している。
「さて、こちらも全力で……行かせてもらいます!……目覚めよ『銀嶺』!!!!」
その瞬間、清十郎が持つ刀身が更なる白銀の光を放ち出したのだった。
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