第17話 『星崩の大魔宮』⑦ 神速 VS 黒蜘蛛
「どらぁ!!!」
俺の一撃がメラクの背中にヒットする……がすぐに振り向かれ忍刀を振り抜かれ反撃を受ける。
「……っとぉ!」
『神速』を使用し咄嗟に後退る。
「さすがに逃げ足だけは早いな……小童が」
いつの間にか小童認定されてんじゃねぇか。
しかし無理も無い、こちらの攻撃力は『神速』の効果で十分の一に減少している。
元々のステータス差もあってどれだけ攻撃を入れてもほとんどダメージを与えることが出来ていないだろう。
『神速』によるスピードでメラクの攻撃は避けることが出来、こちらの攻撃は高確率でヒットするが、手応え自体はゼロに近いのだ。
俺はここに来る前に購入したダガーナイフを握り直しながら考える。
ちなみにこのダガーナイフも、店で購入出来る範囲では最高級品、かなりの性能を誇る優れものだ。
今までのダンジョン踏破の報酬で、出来る限りの準備はしてきたつもりだ。
武器だけではない、身に着けているプロテクターなどの装備一式も現状で購入可能な最高級品で揃えてきたのだ。
しかし、やはり最高級難易度のグランドダンジョンのボスの一角。
店で購入した装備品、ましてや扱う者が上級職に成りたての新米冒険者ときている。
最初から勝算はかなり、いや絶望的に低いのだ。
『神速』のおかげで善戦できているだけマシというものだ。
〈『神速』さん、頑張れ!!!〉
〈それにしても『神速』さんの装備って、ガーランドシリーズの最高級品だよな?〉
〈ああ、あれ全部揃えるだけで一千万円は軽く超えるぞ〉
〈それでも勝てないのか……〉
〈さっきみたいに『神速』を封じられたら終わりだな〉
その通りだよ……
『蜘蛛の糸』で動きを封じられたら今度こそ終わりだろう。
さっきみたいな自爆技でまた抜け出せる保証などどこにもないし、相手も当然頭に入れているだろう。
「ちっくしょぉぉ!」
俺は再び『神速』を使い、メラクの背後を狙う……が当然読まれている。
「ふん、同じような行動を何度も何度も、馬鹿の一つ覚えがぁ!!!」
メラクは苛立ちを隠そうともせず、背後に向けて忍刀を振り抜く……その時。
眼前には一つの宝石、先程とは違い今度は鮮やかな黄色の宝石だ。
「……これは!?」
その瞬間、メラクの鼻先で宝石が炸裂し、中から巨大な雷光が迸る。
「ぐうっ!?」
強烈な雷攻撃を受けてメラクの体が硬直する。
その瞬間を逃さずメラクの体に向けて次は赤色の宝石を投擲する。
硬直した体の胸元に直撃した赤い宝石からは先程と同様の真っ赤な炎が噴き出した。
「ぬぉぉおおおおお!!!」
不意打ちで雷から炎のコンボを喰らい、メラクの体が激しく燃え上がる。
〈おおおおおお!!!〉
〈『神速』さんの反撃、見事ぉ!〉
〈なるほど、通常攻撃が通らないならジェムを使うか!〉
〈やるじゃん!……でもコストを考えると心配だな〉
〈だよなぁ……あれって一個数百万するもんなぁ〉
……黙らっしゃい!
こんなレベルでダンジョン最高峰に挑むんだ、コストなんて度外視じゃい!
「起死回生のジェム攻撃、どうだこの野郎!!!」
激しく燃え盛っているメラクに向かって啖呵を切ってみる。
それ程に今の攻撃には手応えを感じた。
「頼む、これで終わってくれ!!!」
俺の願いが通じたのか、メラクの体が蹲るように小さくなっていき崩れていくように見える。
「よし……よし!……大金星だ、やっ……」
「ぉぉぉおおおおおオオオオオオオ!!!!!」
勝利を確信した瞬間だった。
メラクの燃えカスから突然怨念のような咆哮が聞こえ、黒い塊が爆発的に肥大する。
「え!?何だぁ!?」
俺は驚きながらも『神速』を使い、安全な場所まで移動する。
メラクが燃えていた位置で黒い何かが膨張と収縮を繰り返し、何かの形を形成していく。
一体何が起こっているか理解できない俺の目に飛び込んできたのは巨大な虫のような形状をした黒い何かの存在。
……いや、これは……蜘蛛か?
触手のような足が伸びていく、数は全部で……八本か。
胴体の辺りには不気味に赤く光る無数の目が出現する、その数も八個だ。
そして最後には大きな牙が生えてきた。
四対八本の足と八個の目、巨大な二本の牙を備える虫型のモンスター、特徴的には間違いなく蜘蛛だろう。
さっきメラクが動きを封じるのに使ってきたスキルも『蜘蛛の糸』だった。
全身黒装束の姿は忍者ではなく、この正体を隠すためだったのか。
『グフフフフ……この姿になるのは何百年ぶりだろうか……』
不気味な声がその場に響き渡る。
「これがお前の正体か!?」
『如何にも、これこそが我が真の力を発揮せし姿なり……この姿となったからには、貴様の命運は尽きたも当然よ……』
「はん、さっきの姿の方が動きやすそうだったけどなぁ!」
目の前にいるメラクの姿は巨大な蜘蛛の姿をしているため、的自体は大きく動きも鈍いように見える。
『神速』での完全ヒット&アウェイ戦法を使用する俺には寧ろ相性的には良くなったのでは?とさえ思えてしまう。
『本当にそう思うか……?』
「ああ、思うね、そんな巨体で俺を捉えらるわけがないだろ……」
『これでもか?』
最後の言葉は俺の背後から聞こえた。
瞬時に振り向いた俺の鼻先には赤く光る眼光。
「んなぁ!?」
俺は総毛立ちながら『神速』を発動し距離を取ろうとするが――
『死ねぃ!』
目前まで迫ったメラクの牙から逃れるには余りにも距離が近すぎた。
メラクの必殺の牙が俺の肩口に容赦なく食い込んだ。
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