第14話 『星崩の大魔宮』④ 紅蓮 VS 毒蛇
『星崩の大魔宮』の最初のボスフロア、大扉を開け放ち中に入ると、そこにはまただだっ広い空間が広がっていた。
上空にはプラネタリウムでも連想させるかの様な星空が広がっており、足下には石造りの床がどこまでも広がっていた。
そしてその空間の中央の辺りにそいつはいた……
気だるそうに立っていたのは緑色の髪の魔族だった。
ひょろりとした長身に身に着けるは、蛇の鱗の様な鎧。
顔にも蛇の鱗がびっしりと張り付き、瞳孔は縦長だ。
その姿はまるで蛇の化身だった。
「……ああ、やっと来やがったか、待ちくたびれたぜ」
その蛇の化身から漏れ出たのは、これまた気だるそうな言葉だった。
「あいつが、『星崩の大魔宮』のボス!?」
「えーと、想像してたのとちょっと違いますねぇ」
「何と言うか、力不足ですわね」
「はい、お嬢様」
「……あんだこらぁ!?喧嘩売ってやがんのか?この野郎!」
ドスの利いた声で威嚇してくる蛇の化身。
本当にこいつがグランドダンジョンのボスなのか?
疑問に思った俺は端末の鑑定機能を使用する。
そこに表示されていたのは……
『セプテントリオン・ドゥーベ』
という文字のみだった。
「セプテントリオン?……何だ?」
「あん?お前、俺の名前がわかるのか?それもスキルってやつか?まあいい、直々に教えてやろう、俺の名前はドゥーベ!偉大なる『七星』の一人よ!」
その瞬間、ドゥーベの体から魔力が一気に噴き出した。
この魔力が強大なプレッシャーとなって押し寄せてくるこの感覚、これはまるでアイリーンさんと同等の……
「ギャハハハ!ビビッて声も出ねえのか?まあお前らは全員ここで俺に殺されるから気にしなくても良いぜぇ!ギャハハハハ!!!!」
そう言いながらドゥーベはどこからか取り出した槍を構える。
どうやらあの紫色の刃を付けた槍があいつの武器のようだ。
「ほう?あれは確か……なかなか厄介な獲物を持っていますね」
「あら、清十郎、あの気持ち悪い槍を知っているのかしら?」
「ええ、お嬢様、あの槍は『毒蛇槍・バジリスク』、斬った者に対して猛毒の効果を付与する伝説の武器ですね、確かランクはSだったかと……」
「へえ、あの槍Sランクの武器なのね……それは、気を付けないといけませんわね」
〈Sランクの武器とか、初めて見たよ〉
〈ダンジョンのボスが武器を持ってるなんて反則だろ〉
〈ていうか人の言葉を話すボスを初めて見たよ〉
〈斬った者を猛毒にする武器とか、ヤバ過ぎだろう〉
〈さすが、グランドダンジョン、ボスも一味違うのか〉
〈さっきあいつ『七星』とか言ってなかった?〉
〈言ってた、言ってた!ということは全部で七体のボスがいるってことか!?〉
コメント欄が恐ろしい考察で溢れている。
確かに、さっきあのドゥーベは自分のことを偉大なる『七星』の一人って名乗った。
ということは、あんなSランクの武器を振り回すような奴が少なくとも六人存在しているってことだ。
なんてこった。
やはり、ダンジョンの最高峰、グランドダンジョンだ。
コメント欄の考察が正しければあいつを倒してもまだ残り六体ものボスを倒さなければならないことになる。
これはちょっときつくないか?
「さあさあ、どいつが俺の相手になるんだ?まとめて掛かってきても俺はかまわんぜぇ!?」
ドゥーベが槍を頭上でぶん回しながらこちらを挑発し始めた。
「あらあら、それじゃわたくしが……」
セイラさんが一歩前に出ようとしたその時だった。
「いいえ、ここは私が行きます」
アイリーンさんがセイラさんを制し、前に出る。
「へえ、まあ別にわたくしは構いませんことよ?」
「ありがとうございます。それではここは私が引き受けますね」
杖を構え、魔力を集中しながらドゥーベの方へ向き合う。
「お前が俺の相手かよ!?拍子抜けだよなぁ!!!」
「いえいえ、あなた如き私一人で十分ですよ」
相手はグランドダンジョンのボスにも関わらず、アイリーンさんはいつも通り平常運転だ。
杖に魔力こそ充填しているが、体は自然体で力んでいる様子は全く見られず、表情は笑顔を浮かべている。
「何笑ってやがるんだコラァ!!!」
ドゥーベが怒声を発すると同時に『毒蛇槍・バジリスク』に紫色の魔力が宿る。
どう贔屓目に見ても毒気を含んだその魔力はまるで毒霧のように周囲に散布されていく。
なんかさっきよりも魔力のプレッシャーがどんどん強くなっているように感じる。
ていうかアイリーンさんよりデカくないか?
「セイラさん……これは?」
「ああ、あなたでもわかりますの?あのドゥーベとかいうモンスターは、今のところアイリーンさんより魔力では上回ってますわね」
冷静に分析するセイラさん。
「多分、あの武器と魔力が連動していますの、ドゥーベが毒の魔力を発すればあの武器が吸収し、その分持ち主の魔力を強化するという感じですね……俗に言うマッチポンプとかいうやつですわ」
何がマッチポンプだ。
でもそれが本当だとしたらとんでもないことだ。
アイリーンさんの楽勝かと思ったらとんでもない。
「へえ、少しは楽しませて頂けそうですね」
今や全身紫色の魔力に包まれたドゥーベを見てもなお、クスリと微笑むアイリーンさん。
「まだ笑ってやがるのか!?いい加減死ぃぃねぇぇええええええ!!!!」
その姿を見れて堪忍袋の緒が切れたのか、ドゥーベが絶叫しながらアイリーンさんに突っ込んでいく。
体中の至る所から紫色の魔力が漏れ出ており、近付いただけで猛毒になりそうなことはここからでもわかる。
俺はドローンを操作し、アイリーンさんとドゥーベが同じ画角に入るように位置を調節する。
現在の俺の前にはセイラさんと清十郎さんがいる。
この二人の後ろという安全圏からドローンを飛ばし、アイリーンさんの戦闘を配信しようというわけだ。
紫色に輝く刃、十分に毒の魔力を吸い尽くし本来以上の力を得た『毒蛇槍・バジリスク』が――
アイリーンさんの頭部目掛けて全力で振り下ろされた。
「プロミネンスウォール!」
すかさず真紅の障壁を張り、攻撃に備える。
ガキィィィイイイン!!!と激しい音がしてドゥーベの槍が弾かれる。
「な、何ィ!?」
自らの全力の一撃を完璧に防御され、驚愕の表情を浮かべながら宙を舞うドゥーベ。
その体を目掛けてアイリーンさんが杖を振るう。
「ボルガニックレイザー!」
杖の先端から超高火力の熱閃が放たれる。
「う、ウォオオオオオオオオオ!?」
完璧に体勢を崩されたところにドンピシャで放たれたアイリーンさん必殺の閃光。
これは決まったな。
そう思った瞬間だった。
「負けるかよォォオオオオ!!!!」
ドゥーベの体が震え始めると、奇妙な歪みを見せ始めた。
……そしてボルガニックレイザーがその体を捉えた瞬間に、内部から何かが飛び出したように見えた。
その何かは、俺たちの目の前にひょいと降り立った。
それは紛れもなく、たった今アイリーンさんの魔法で消し飛ばされたはずのドゥーベの姿だった。
「くそぉぉぉ!!!こんなところで俺の切り札を使わされるとはなぁ!!!」
先ほどの比じゃないほどに紫色の魔力が膨らむ。
……まさか、これは。
〈あれって脱皮だよね?〉
〈うん、多分そうだな〉
〈うわあ、気持ち悪い〉
〈蛇みたいだなと思ったら、やっぱり蛇だったわ〉
〈まあアイリーンさんの魔法を耐えたって意味ではなかなかのスキルだぞ?〉
〈脱皮ってスキルなのか?〉
コメント欄を見て俺も確証を得る。
あれは……脱皮しやがったのか。
「脱皮するなんて珍しいモンスターですね?まあ次の魔法で止め刺しちゃいますよ?」
アイリーンさんは先程の攻防が何事もなかったかのように振舞っている。
恐らく次の攻撃で問題無く対処できるだろう。
「ふん!負けるかよぉ!!!」
ドゥーベが再度、紫色の魔力を放ち始めた瞬間だった。
「もう良い、ドゥーベよ、一度下がれ」
ドゥーベの背後から声がした。
「なっ!?」
いつの間にか、そいつらはそこにいた。
ある者は巨大なドラゴンの姿、ある者は小さな老人の姿、様々な姿の者たちがドゥーベの背後に横一列に並んでいる。
その数は、六体――
「我ら『七星』、ただの一人も欠けるわけにはいかんのだ」
ドゥーベも入れて七体の異形、『七星衆』が集合した瞬間だった。
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