第13話 『星崩の大魔宮』③ 七星
グランドダンジョン『星崩の大魔宮』の攻略が開始し、大体30分程度が過ぎた。
轟清十郎のスキル『極限感知』により、複雑に入り組んだ迷宮を最短ルートで進んでいく四人組。
所々で出現するモンスターたちが行く手を阻むが、『蒼氷の聖女』の氷で、『龍殺の守護者』の剣技で、そして『紅蓮の魔女』の爆炎で、ことごとく瞬殺されていった。
その様子を漏れなく世間に配信する『神速の配信者』も忘れないで欲しい。
『神速』のスキルを使いこなしながら、ダンジョン内の状況をベストポジションで世間に発信し続けるその様は、正に一流の配信者といっても過言ではなかった。
……その様子を遠くから監視する存在がいる。
清十郎の『極限感知』でも感知不可能なほどの遥か遠くに陣取っているその存在は、四人の挙動を余すことなく監視している。
「ほう……やっとここにも冒険者とやらが侵入してきたかと思えば、また奇妙な連中がきたものだな」
「ええ、でもその力は本物よ、三匹は正真正銘の化け物ね、後一匹は……よくわからないわ」
「……ふん、どんな奴らが来ようが所詮は人間じゃろうて、我らの敵ではないわ」
「ヒャハハハハ!あんな奴ら俺一人で十分だぜぇ!!!」
「まあまあ、油断は禁物ですよ、しっかりと分析した上で戦いましょうよ」
「ああ、メグレズの言う通りだ、我ら『七星』、万が一にも負けは許されんのだからな」
「……………………」
その存在は七体の異形の存在、魔族の様な姿をしている者から、モンスターの様な形状まで、様々なタイプの様相を呈している。
「あの様子では、最初のボスフロアまでそれほど時間は掛かるまい」
「そうですね、何故か迷宮を全く迷わずに最短ルートで進んできてますから」
「スキルとかいうやつじゃな、全く厄介な」
「ドゥーベ、最初はお前だろう、そろそろ持ち場に着いた方が良いんじゃないのか?」
「ああ!まあ俺のところで全員殺しておいてやるから、お前らはゆっくりと見物してろよ!ギャハハハハ!!!」
「ドゥーべさんはいつも威勢だけは良いんですよねぇ、頼むから口だけとかやめてくださいね」
「ああん!てめぇメグレズ!誰に口聞いてやがるんだコラァ!!!」
「……よさんか」
ドゥーべと呼ばれた魔族型の人物とメグレズと呼ばれた少女のような姿をした人物が諍いを起こし掛けたその時に、声を掛けた人物。
赤い髪を逆立てた大柄なその風貌は、まるで魔王と呼ばれても差し支えないような迫力を醸し出していた。
「……悪かったよ、アルカイド」
「けっ!俺はさっさと行くぜぇ!」
どうやらアルカイドと呼ばれたその人物が七名の中心となる存在のようだ。
「……とにかく、我らは決められた使命を果たすのみ」
アルカイドは腕を組みながら天を仰ぎ、こう呟いた。
「……『七星衆』の名のもとに」
◆◆◆◆
俺たちがグランドダンジョン『星崩の大魔宮』に突入してからかなりの時間が経った。
清十郎さんのスキル『極限感知』のおかげでこれだけ複雑なダンジョンを全く迷わずに進むことが出来ている。
たまに出現するモンスターたちは、他の三人が一瞬で殲滅してしまう。
もちろん、その瞬間は俺が漏れなく配信している。
〈さっきから、ボスクラスのモンスターのオンパレードだな〉
〈そうだな、出現して数秒以内に漏れなく倒されてるが〉
〈やっぱりこの三人って次元が違うよな〉
〈『神速』さんだけが俺たちのところにいてくれる〉
コメント欄も順調に盛り上がってくれている。
先ほど、同時接続者数を確認したところ、15万人に達していた。
どうしよう、一気に増えすぎて気持ちが全然追い付かないや。
俺がいつも追いかけていた有名なダンジョン配信者たちでも同時接続者数がこれだけ行っていたことは稀だったと思う。
そんな有名配信者たちと正に今肩を並べるどころか、さらに追い抜こうとしている。
今俺が配信している光景は恐らく人類初めてといっても過言では無い光景だ。
このまま行けば同時接続者数はまだまだ増えるだろう。
もしこのグランドダンジョン攻略が上手くいき、無事に戻ることが出来たならば、一度今後の生き方なども踏まえ、冷静に考える時間を作るべきかもしれない。
そんなことを考えながら必死に目の前の光景を配信し続けるのであった。
「やっと到着しましたね、ここが最初のセーブポイントです」
清十郎さんの案内で到着した場所には大きな扉が存在し、その前には青白い光を放つ魔法陣が存在している。
間違いなくボス直前のセーブポイントだ。
〈すげぇ、セーブポイントまでほとんど無傷で来ちゃってるし〉
〈グランドダンジョンも意外と大したことないのか?〉
〈馬鹿!あの四人だからそう見えるだけで、俺たちなら何回死んでるかわからねぇよ!〉
〈さっきから他のダンジョンのボスモンスターが徒党を組んで襲ってきてるのを見てないのか?〉
コメント欄も色々な意見が入り乱れている。
「あら?ここのセーブポイントには宝箱はないんですね」
アイリーンさんが気付いた通り、どうやらこのセーブポイントにはレアドロップ確定の宝箱は存在していないらしい。
俺が『神速』を入手した時のように、ボス前のセーブポイントにはレア宝箱があるのが普通なのだが……
「それもおかしいですけど、何よりこのダンジョン、簡単すぎませんこと?」
セイラさんが自らの疑問を口にし始めた。
「ここはダンジョンの最高峰、グランドダンジョンのはず、しかしこれまで然したる強敵も、難しいギミックなども存在しなかった。突入して一時間かそこらでボスまで辿り着けてしまうのに、どこか最高峰のグランドダンジョンですの?」
「そう言われれば、確かにそうかもしれませんね、グランドダンジョンにしては歯応えが無さすぎる気がします」
セイラさんの意見にアイリーンさんも賛同する。
確かに今まで出現したモンスターは俺から見れば狂ってるレベルの強敵揃いだったが、Sランク冒険者の二人からすれば物足りないレベルだったかもしれない。
何よりまだ突入してそれほど時間も経っていないのにボスまで無傷で辿り着けていることに関しては、疑問を持つのも無理はないのかもしれない。
〈何か興味深いこと言ってない?〉
〈まあ俺たちからすれば十分おかしいレベルのモンスターだらけだったんだけどなw〉
〈確かにこのボスを倒して踏破じゃあっさりしすぎている気がするよな〉
〈とにかくボスに挑んでみるしかないんじゃない?〉
コメント欄もセイラさんの発言を受け、俄かにざわつき始める。
「……まあ先に進むしかありませんね」
アイリーンさんが大きな扉を見上げながらそう言った。
「ええと、皆さんそれではこれから『星崩の大魔宮』のボスに挑戦します」
〈おお!いよいよだな!〉
〈大丈夫、その面子なら負ける方が難しいw〉
〈ああ、セーブは忘れるなよ!〉
〈ボス戦も完璧な配信を期待してます!〉
よし、それではボス戦だな。
グランドダンジョンには、一体どの様なボスモンスターが待ち受けているのか。
皆でセーブを行った後に大扉の方へ向かい、手を触れると独りでに扉が開き出した。
いよいよグランドダンジョンのボス戦、気合を入れて配信するのみだ!
俺は自らに気合を入れ直し、『星崩の大魔宮』のボス戦に挑むのだった。
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