第33話 ラストチャンス
いや……ちょっと……
以前の更新から4カ月も経ってしまいました……
仕事が忙しいのと、ちょっと体調崩してまして……
やっと更新できる、引き続きよろしくお願いいたします。
神域魔法【獄炎臨界砲】
【邪海龍アトランティカ】との戦闘でアイリーンさんが使用した魔法である。
彼女が扱う魔法の中では恐らく最強クラスの威力を誇る(セイラさんとの連携で放つ【星崩】なんて、もはや常識外れの威力を叩き出す魔法もあるが)この魔法は、発動準備だけでも莫大な時間と労力を必要とする。
だが今のアイリーンさんは、すでにその準備を完全に終えていた。
自身のすべての魔力を注ぎ込んだ杖を高く掲げ、ただひたすらにその魔法を発射するその瞬間のため、極限まで意識を研ぎ澄ませている。
この場にいる全員が死力を尽くして稼いだ時間は、すべてこの一撃のためにあった。
俺たちの視線の先、そこには、上空から無力に落下してくる大凶丸の姿がある。
全員の連携を重ねた末、俺の【セプテントリオン】の能力で遥か上空へワープさせられた大凶丸は、じたばたと藻掻いてはいるものの、打つ手もなくただ重力に従い落下し続けていた。
「……アイリーンさん、撃てますの!?」
セイラさんが確認の声をかけると、彼女は微動だにせず、しかし確かな気迫を宿した声で答えた。
「――問題ありません。これ以上ないくらい、完璧です……皆さんが作ってくれたこのチャンス……必ず決めてみせます」
その声は、戦場に似つかわしくないほど静かで、しかし一切の迷いがなかった。
次の瞬間……
アイリーンさんの足元から、紅蓮の魔力が爆発したかのように吹き上がる。
それと同時に杖の先端に凝縮された光が、もはや目視できる限界を超えて閃光を放ち続けている。
「【獄炎臨界砲】ッ!!」
杖に浮遊していた火球が、大凶丸へ向けて一直線に撃ち放たれる。
その軌跡は不気味なほど静かで、しかし、恐ろしい速度で標的へ迫っていく。
着弾の刹那――
火球は膨大な熱量を周囲へ放出し、直後『魔炎帝エクスイフリート』の魔力を解放する。
超高熱の火柱と赤黒い地獄の炎が交わり、十字架を形成する。
その光景はアトランティカの時と同じで、圧倒的に美しく、そして地獄のようだった。
ただそこには破壊の権化としか思えない力が存在した。
「す、すげえ……!」
仲間の誰からともなく、震えるような声が漏れる。
数十秒後、ようやく光が収まる。
俺はゆっくりと前へ一歩踏み出した。
「……決まったか?」
そう呟いた俺の目に映ったのは――
まだ完全には崩れ落ちていない、巨大な影だった。
大凶丸は確かに瀕死だ。
しかし、あまりにも異様な生命力で、なおも立ち上がろうとしていた。
大凶丸の片目がこちらを睨みつけ、黒い瘴気を吹き出した。
そして、その口がゆっくりと開く。
「ぐ……ぐぅおおおおお!!!!やって……くれるじゃねえか……」
大凶丸は確かに瀕死には違いない、瀕死のはずなのに……
赤黒く焦げた皮膚の隙間からまだ脈動のように瘴気が溢れ、片目だけになった獣の瞳が、まるで殺意そのものみたいに俺たちを睨みつけていた。
「……う、うそだろ……あれ、生き残れるのかよ……」
俺は、信じられないものを見るように呟いた。
「アイリーンさんの最強の魔法なのに……アトランティカですら一撃で……!」
神域魔法ですら倒せない相手に、どう勝てばいい?
その疑問が、まるで冷たい毒のように俺の背筋を這い上がってくる。
アイリーンさんでさえ、杖を握る手がわずかに震えていた。
「……ば、馬鹿な……全魔力を込めた……あれ以上の魔法は、私……」
セイラさんは歯を食いしばり、震える声を必死で抑えていた。
「いったい、どうしろと言うんですの……!あの規模の魔法が効かないなら……他の攻撃なんて、意味を成しませんわよ……!」
正論だった。
誰も否定できなかった。
そして追い打ちをかけるように、大凶丸が低く、地の底から響いてくるような声で笑った。
「……クク……終わりかと思ったぜ……だがな……俺はまだ……負けてねぇんだよ……!」
大地が震え、瓦礫が跳ねる。
大凶丸は、立ち上がった。
瀕死のはずの体を引きずり、体中から血を流しながら……その右腕は焼け落ちているのに、残った左腕で巨体を支え、なお俺たちに向かって踏み出す。
「やるしか………ないのか!?」
清十郎さんが一歩前に出て刀を構える。
他の皆も同じく武器を構えるが、その表情には恐怖が浮かんでいるのがわかる。
俺自身、心臓が嫌な音を立てた。
足が勝手に後ろへ下がりそうになるのを、必死に踏みとどめる。
――怖い。
正直に言えば、怖かった。
あの規格外の神域魔法ですら倒しきれない化け物を、どうやって仕留める?
アイリーンさんは魔力枯渇寸前。
セイラさんも疲労で息が荒い。
他の皆も今までの戦闘で限界が近いのは間違いないだろう。
俺たちは……もう万全ではない。
「く……くそっ……!」
俺は歯を食いしばり、セプテントリオンを構え直す。
大凶丸は、ゆっくりと、しかし確実に歩を進める。
その足音は、まるで死刑宣告の鐘の音のように重く響いた。
「……終わらせてやるよ……次の一撃で……てめェら全員……まとめて殺す……!」
大凶丸の足元から黒い瘴気が吹き上がり始め、その体を覆っていく。
戦意より先に、ただ圧倒的な恐怖だけが広がっていくのだった。
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