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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第三章 地獄の鬼たちと新たな希望
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第29話 死闘


 スタンピード最終戦、真の力を取り戻し『真・修羅皇』となった大凶丸の前に立ちはだかったのはリゼルさんだった。

 大凶丸が放った恐ろしいほどの黒い闘気の奔流と、リゼルさんが展開する『紫光』の障壁をが真正面から衝突すると、凄まじい衝撃音が辺りに鳴り響く。


 「す、凄い威力……想像以上ね」


 今まで冷静だったリゼルさんには、似付かわしくないような、腹の底から絞り出すような苦し気な声が聞こえてくる。

 やはり、あの攻撃を防ぐのは一筋縄ではいかないようだ。

 漆黒の闘気流に押されて紫色の光を放つ障壁が、軋むような嫌な音を響かせ始めている。


 「はっはぁ!せっかく出てきたのにその程度かよぉ!そんなしょぼい壁なんぞ、すぐに破壊してやるからなぁ!」


 下品な笑い声が響き渡り、さらに漆黒の闘気の勢いが激しくなる。

 僅かにではあるが、『紫光』の障壁に亀裂が走り、後少しで障壁が砕け散ろうかという状態に陥ってしまう。

 障壁の亀裂はどんどん拡大し、蜘蛛の巣のような模様を全体に描きつつあった。

 何とか耐えているリゼルさんの額には汗が浮かび、その表情には全く余裕が無くなりつつある。

 いかに超常の『紫光』という力を操るリゼルさんにとっても、あの大凶丸の不条理なまでの力は手に余るらしい。


 このままでは、本当にまずい。

 しかし、リゼルさんですら防ぎきれない攻撃に対して俺が出来ることはほとんど無いに等しい。

 

 ミズキですら、大凶丸が放つ闘気流のあまりの威力に、顔面蒼白になりながらリゼルさんの障壁に守られている状態だ。


 「オラオラオラァ!もう少しで全員ぶっ飛んじまうなぁ!」


 「くっ!このままでは……」


 障壁の耐久力も風前の灯火となり、間もなく砕け散ろうとしていたその時……


 漆黒の闘気を放ち続ける大凶丸へ向かって飛び込んでいく人物がいた。


 「調子に……乗るなよ!」


 その銀髪の剣士は、輝く剣を構えながら、大凶丸に斬り掛かる。


 「ぐぬ……!また、お前かぁ!」


 切れ味鋭い太刀筋により、漆黒の闘気流の放出を中断させ、さらに追撃を加える。

 もう少しというところで、斬撃を回避せざるを得ず、結果的にリゼルさんの障壁を破壊できなかったことで、口惜しそうに叫ぶ大凶丸へ向かって、二の太刀、三の太刀を次々と放っていく。


 「アベル、よくぞ来てくれました……」


 あの剣士はアベルという名前らしい。

 リゼルさんの口ぶりからすれば、仲間なのは間違いない。

 あの大凶丸に対して、あれだけ互角に渡り合っているのだから、相当の強者なのだろう。

 ……これで、何とかあいつを倒せるかもしれない。

 絶体絶命のピンチに駆け付けてくれた強力な援軍に、思わず表情が綻んでしまう。


 「アベル!気を付けなさい!さっきまでとはレベルが違います!」


 「はっ!承知しました!」


 「はっはぁ!前みたいに少しは楽しませてくれるんだろうなぁ!?」


 改めて体勢を立て直した大凶丸は、アベルさんが放った鋭い刺突を刀の腹で受け止めながら楽し気に笑っている。

 アベルさんは次々と攻撃を繰り出すが、大凶丸は余裕たっぷりでそれら全てを捌いてしまう。

 アベルさんの剣と大凶丸の刀が激突する音が周囲に響き渡り、火花を散らしながら拮抗した状態を作り上げている。


 「アベル、受け取りなさい!はああああ!!!!」


 そこへ放たれるのは、リゼルさんによる『紫光』。

 どうやらこれは、アベルさんへ向けての『能力上昇魔法バフ』のようだ。

 紫色の光に包まれたアベルさんの動きが目に見えて早くなり、剣撃の重さも増しているように見える。

 上昇したステータスに後押しされた攻撃は、見る見る大凶丸を押し込んでいき、僅かにではあるが確実に後退させている。

 

 これは……行ける。このまま押し切れる!


 そう思った瞬間、大凶丸が口を開いた。


 「やるじゃねえか!じゃあ、これを受けてみろ!……刻断きざみだち……六連!」


 さっき、俺の片足を斬り飛ばした一撃は、認識する間もなく繰り出された『神速』を越えるものだった。

 その一撃を……六連撃で繰り出すなんて……


 コマ送りの如く、次の瞬間には刀を振り切った姿勢の大凶丸と、全身を一瞬で切り刻まれてしまったアベルさんの姿がそこにはあった。


 「馬鹿かよ、そんなもん……チートすぎるだろう……」


 体中から夥しい量の出血を出しながら倒れ伏すアベルさんの姿を、呆然と見つめる俺を余所に迅速に動き出したのは……ミズキだった。


 「いけない!『藍嵐……癒風』!」


 ミズキの鎧の一部が展開され、藍色の光と共に風が吹き出される。

 癒しの風とでも表現できるだろうか。

 その風に包まれたアベルさんの体の出血が少しではあるが、和らいでいくように見えた。


 「ハヤトさん!早くエリクサーを!あいつは……私が!」


 そのまま、大凶丸へ向かっていくミズキ。

 どうやらアベルさんを回復させるまでの時間を稼ぐつもりらしい。

 俺は『神速』を使用し倒れているアベルさんのもとへと向かう。

 ミズキの奴、俺がエリクサーを多用しているのを把握しているということは、やはり配信を見ているというのは嘘じゃないみたいだな。


 「アベル!アベル!しっかりしなさい!」


 アベルさんが倒れてしまったことに対して、リゼルさんが取り乱している。

 やはり大切な仲間がこんな目に合ってしまえば、冷静でいるのは難しいのだろう。

 俺はすぐにアベルさんを抱き起すと、血の気が引き真っ青な表情をしたアベルさんへエリクサーを飲ませる。

 

 間もなく、顔色が元に戻り始めるのを確認すると、リゼルさんへ向かって頷きながら無事を伝える。


 「アベル……ああ、良かった……」


 アベルさんが無事一命を取り留めたことに安堵の表情を浮かべる。

 しかし、すぐに戦闘とはいかないだろう。

 完全に回復するまでは俺とミズキとリゼルさんで時間を稼ぐしかないだろう。


 「ちょっとー!誰か止めて下さいー!」


 そこへ絶叫しながらミズキが突っ込んできた。

 一瞬受け止めようかと思ったが、あまりの勢いに受け止めきれず、そのまま明後日の方向へ吹っ飛んでいってしまう。


 「いやー!受け止めてくださいよー!!!!」


 悲鳴を上げながら吹っ飛んでいくミズキが飛んできた方向へ視線を向けると、何かをぶん投げた体勢のまま、微動だにしない大凶丸の姿があった。


 


 

 

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