第28話 ハヤトとミズキ
えーと、確か死ぬ寸前になると走馬灯が走るって聞いたことがあるんだけど……
なーんにも浮かばないじゃねぇか!
そんなことを考えている俺の脳天に大凶丸が刀を振り下ろす。
ああ……
死んだなこれ……
俺は、目の前まで迫る刀を見ながら覚悟を決めた……
「駄目でぇぇす!!!!」
その瞬間、少女の叫び声と共に突風が吹くのを感じると同時に、刀が何かに弾かれ軌道が逸れるのが見えた。
ギリギリで俺の体を外れた斬撃は、そのまま強烈な衝撃波を発生させて、足下の地面を豪快に斬り裂いていく。
……凄い威力だな、掠っただけでもあの世行きだっただろう。
「ああん!?邪魔すんなよ、小娘がぁ!」
大凶丸の刀を弾き、俺の命を救ってくれたのは……藍色の鎧を着た少女だった。
「助かった!アリオトぉ!」
即座に、セプテントリオンのアリオトを使用し、目の前の大凶丸へ向かって輝く炎を放つ。
炎は大凶丸を包みこみ、瞬く間に燃え上がる……が。
「全然熱くねぇんだよぉ!おらぁ!」
大凶丸は気合だけで体を包み込んでいた炎を消し飛ばしてしまった。
効かないだろうな、とは思ってたけど何だよその消し方は、さすがに有り得なさすぎだろが!
「藍嵐、風車!」
少女の鎧の一部が展開し、回転する刃が二枚、飛び出してきた。
刃はそれぞれ高速回転しながら大凶丸へ向かう。
並のモンスターならば触れるだけで切り刻まれてしまいそうな、鋭い飛び道具での攻撃だ。
しかし、大凶丸は僅かに鬱陶しそうな表情を浮かべながらその屈強な腕であっさりと弾いてしまう。
「今の内に距離を取りましょう!」
少女の声ではっと今自分がすべきことに気が付いた俺は、即座にバックスステップを行いその場から離れる。
もちろん、少女もそれに追随するように素早い動きで俺の隣に並び立った。
「ありがとう、君のおかげで命拾いした……」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですからね」
お礼の言葉に対して、ニッコリと微笑みながら対応するこの少女、どこかで見たことがあるのは間違い無いのだが、それが全く思い出せない。
すると、配信のコメント欄が俄かにざわつきを見せていることに気付く。
〈『神速』さんとミズキたんのコラボとか……〉
〈いや、こんなピンチなのに胸が高鳴るわw〉
〈アイリーンさんとはまた違う名コンビになる予感がする〉
〈『神速』さんも『闇鍋騎士団』のメンバーになれば良いのにw〉
〈いや、さすがにそれは無いって!〉
……そうか、思い出したぞ。
この少女は、『闇鍋騎士団』のクランオーナー『村雲ミズキ』じゃないか。
こんな鎧を着ているからわからなかった。
なるほど、度々ニュースなんかで炎上しているところを見ていたが、実物はこんな少女なんだな。
「あなたは、有名な『神速の配信者』こと、草薙ハヤトさんですね、よろしくお願いします」
おお、俺のこと知ってるんだ。
しかも、思ったより腰が低くて丁寧だ。
あんなに炎上続きだから、てっきりもっと横暴な感じだと思い込んでたから意外な感じがするな。
「あの……」
「ん?何でしょうか?」
「うちのクランに入りませんか?」
「はいい!?いきなり何ですか!?」
こんな非常事態に何言ってんだ?
思いもよらぬ言葉に引き攣った表情をしながら、彼女の方角を見ると……
「いえー、私、ハヤトさんの配信を見てるととても楽しい気分になるんです。そんな素敵な配信を皆に届けることができる人が、うちのクランに入ってくれたら嬉しいなぁってずっと思ってたんです!だから会ったらすぐに勧誘しようと心に決めてましてー」
「いや、だからってこのタイミングで言う話じゃないでしょ」
なるほど、炎上するのはこういうところかな?
……と、少しだけ彼女のことを理解してしまった瞬間に、大凶丸が再び動きを見せる。
「おいい!戦闘中に何をダラダラと話してやがる!さっさと来ないとまたこっちから行くぞコラァ!」
「……くっ!言わんこっちゃない!」
「……十字殺……死ねぇ!」
どう考えてもこの場に不釣り合いな会話をしていた、俺たちの隙を逃すような相手では無い。
目にも止まらぬ速度で二度振られた刀より発生した斬撃が、十字の形となりこちらへ向かって飛んでくるのが見える。
「またちゃんとお話ししましょうねぇ!」
「どうでも良いからとりあえず、避けてぇ!」
ミズキが背中の鉄の翼を展開させながら、勢いよく空中へ飛び出していくのを見ながら、『神速』を発動させて十字の斬撃を回避しようと試みる。
斬撃の速度は凄まじいものだったが、軌道は直線的だったこともあり、何とか回避することに成功するが……
「ふん、ちょこまかと、まずはお前を殺しとくか……地均!」
大凶丸はおもむろに片足を持ち上げると、勢いよく振り下ろし、地面を踏みしめた。
ドゴォン!と激しい衝撃音と共に、その場に巨大なクレーターが出来たかと思うと、その衝撃波と震動が周囲へ伝播し始める。
「く、くおおおおっ!」
う、動けない……!
激しい震動と暴風の如く迫りくる衝撃波の影響で、その場から全く動けなくなってしまった。
『神速』を発動しようにも、こうも地面が揺れてる状態だと一歩進むこともままならない。
「さて、これでお前も終わりだなぁ!」
俺が為すすべもなく動けなくなっている間に、刀の切っ先をこちらに向けると、漆黒の闘気が噴き出し始め、凄まじい力の奔流が出現した。
「その状態で……避けれるもんなら、避けてみやがれぇ!」
刀に、闘気が集束していき、漆黒の柱を生み出すと……
そのまま、刀を振り上げこちらへ攻撃を放とうとしてくる。
「間に合えぇぇぇ!!!!」
空中にいたミズキが、急発進してこちらへ向かってくるのが見える。
俺を助けようとしているのは有難いが、タイミング的に恐らく間に合わないだろう。
メラクの瞬間移動でどうにか逃れられないかと思い付き、周囲を見渡すが、振動と衝撃波の影響で瞬間移動先の視界が確保できず、能力を発動できない。
そうこうしている内に、大凶丸の攻撃準備が整ったらしい。
「……黒世断!」
斬撃というよりは最早砲撃に近いほどに、巨大な一撃が放たれた。
俺は相変わらず身動きが取れず、回避は不可能。
ミズキは猛スピードでこちらへ向かっているが、もちろん間に合わない。
目の前のあまりに巨大な力の奔流は、俺の今のステータスでは凌ぐことは不可能だろう。
くそっ!これまでか!
そう思いながら目を閉じてしまったその時……
「遅れてすいません、もう大丈夫です!」
それはは凛とした女神の声だった。
思わず目を開けると、俺の目の前には光に包まれた女神の姿と……
周囲に『紫光』の障壁が展開されているのが見えたのだった。
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