第25話 『紅蓮の魔女』 VS 『影法師』 黒曜
久しぶり過ぎる主人公たちのバトル回……
よってハヤトの一人称となります。
スタンピードで出現した鬼の軍団との戦いも佳境を迎える中、俺とアイリーンさんが迎え撃つのは、全身黒づくめの死神みたいな姿をした鬼だった。
リゼルさんによると、この鬼の名は黒曜、『影法師』の異名を持つ四天王の一人だそうだ。
自らの影を操り、援軍を召喚したり、その異名の通りの能力『影法師』を使い分身を生み出したりと、厄介な能力を持っている強敵だ。
……だが、残念ながらその黒曜の命も最早、風前の灯火って感じなんだけどな。
『ボルガニックレイザー!』
理由はもちろん、アイリーンさんだ。
たった今、目の前で黒曜の分身たちが軒並み焼き払われているところだったりする。
どれだけたくさんの分身を生み出そうが、『紅蓮の魔女』アイリーンさんには関係無く、出現した順番にその悉くが超火力の犠牲となっていく。
まあ、わかりやすく言えば、相性抜群ってやつだね。
黒曜が次々と分身を出現させるため、アイリーンさんは次々と広域殲滅系の火炎魔法を放ち、周囲一帯を吹き飛ばさんばかりの勢いで戦い続けている。
ちなみにその様子も俺の視線を通じて大絶賛生配信中なのは言うまでもないだろう。
超高熱の熱閃をギリギリで回避し、吹き荒れる爆炎の嵐の隙間を搔い潜りながらベストのポジションをキープし続けている。
巻き添えを食わないように『神速』で回避しながらの配信は久しぶりなので、若干冷や冷やはするものの、このスタイルこそが俺の原点、『神速の配信者』の面目躍如といったところだろうか。
そして、俺の視線を通じての配信を見た全世界の視聴者たちは、その光景を見ながら熱狂的な応援を続けている。
〈おおー!やっぱりアイリーンさんは、こういう多数のモンスターを殲滅するみたいなパターンが得意なんだな〉
〈ああ、まるで水を得た魚、いや量産雑魚を得たアイリーンさんだな!〉
〈いや、何その例えw?〉
〈それに『神速』さんのこのスタイルでの配信も久しぶりだよな〉
〈アイリーンさんの攻撃を回避しながらの配信だと、こんなにスリルが味わえるんだなw〉
〈いや、何か逆に新鮮さを感じるわw〉
〈迫りくる炎をギリギリで避ける感じが出来の良いVRゲームみたいで面白いよな〉
……こらこら、何が出来の良いVRだ。
こちとら割と真剣だってのに。
まあ、慣れと自分の成長も相まってか、前よりは割と余裕で対処できているのは間違いないんだが……
ちなみに、わずかではあるがアイリーンさんの攻撃から何とか生き延びた影の分身たちもいるにはいる。
そいつらは俺が配信しながら処分していった。
『七星剣・セプテントリオン』による斬撃とアリオトの炎を使えば、一撃で倒すことができた。
俺も超級職の端くれであり、しかも今までのダンジョン攻略でそこそこレベリングも進んでいるため、敵の影分身程度であれば難なく倒せるほどには強くなれてはいるみたいだった。
やがて、黒曜が『影法師』を使用し分身を生み出す頻度が少しずつ減り始めた。
さすがに無尽蔵に生み出すことは出来ないらしく、心なしか黒曜の動きも鈍り始めているように感じられる。
『影法師』は、黒曜自身の何らかのリソースを使用して分身を生み出しているのかもしれない。
そして、黒曜自身もそんな自覚は持っているらしく、自らの武器である大鎌を取り出すのが見えた。
どうやら、『影法師』から直接戦闘による戦法へと切り替える目的のようだ。
ふわりと宙に浮き上がったかと思うと、大鎌を振り上げながらアイリーンさんへ狙いを定めて、滑空するように飛行を始めた。
「馬鹿だなぁ」
俺からすればそれはこれ以上ないくらいの悪手に見える。
何故ならば……
『イグナイト・ブレード!』
アイリーンさんの戦闘能力を舐めているとしか思えないからだ。
黒曜の動きを見て、即座に炎の剣を作り出し迎え撃つ準備を完成させる。
直後にアイリーンさんの炎の剣と黒曜の大鎌が交差したかと思うと……
大鎌が飴細工のように熔解していくのが見えた。
「……!?」
黒曜は自らの武器が一瞬で跡形も無く溶けてしまったのを見て硬直している。
表情は全くわからないが、その立ち振る舞いから見るに、さぞ驚いたのだろう。
そして、その硬直を見逃すアイリーンさんではない。
『ボルガニックレイザー!』
炎の剣の切っ先を黒曜の頭部へ向けたかと思うと、そのまま超高熱の閃光をぶっ放した。
「………………っ!!!」
黒曜は大したリアクションを取る間もなく頭部を吹き飛ばされてしまうと、残された体は力なくその場にどさりと倒れ込む。
どうやら勝敗は決したようだった。
いや、さすがアイリーンさん、並のモンスターが相手だとまるで勝負にならないくらいに強い。
まあ、今戦っていた黒曜も、四天王の一人だから、一応ボスモンスターなんだけどな。
「よっしゃぁああ!山吹ぃいいい!聞こえるかァアアアア!!!!俺も我慢の限界だぁ!そろそろ力を解放・・・・するぜぇえええ!!!!」
その時に周囲に、豪快な叫び声が響き渡った。
「アイリーンさん、今の声は何でしょうか?」
「わかりません、一応警戒を怠らないで下さい」
アイリーンさんと会話を交わした直後、俺たちの目に飛び込んできたのは……
とっくに命を失ったはずの黒曜の体が、謎の青い光を放ち始める様子だった……
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