第23話 輝柳斎 VS 朱天
また少し時は戻り、スタンピードの戦場の一角では、激闘が繰り広げられていた。
対峙するのは二人の剣士、眼帯を付けた老剣士と、真紅の鎧に身を包んだ鬼の剣士。
老剣士の名は『布施 輝柳斎』、一昔前までは、日本最強の剣士として名を馳せた名冒険者だ。
四天王の一人である『赤武者・朱天』を討伐するために、一時的にではあるが、冒険者として復帰している。
「ふん……貴様のような老いぼれが相手とはな……舐められたものだ」
「ほっほっほ、見た目で相手を判断すると痛い目を見ることになるぞい?」
「ほざけ!とりあえず……さっさと死ねぇ!」
輝柳斎の言葉に激昂した朱天が素早い身のこなしを見せ、一気に斬り掛かる。
対する輝柳斎は、余裕の笑みを見せながらも、刀が迫るギリギリまで微動だにしない。
朱天が放つ縦一文字の斬撃が輝柳斎の脳天を両断しようとし……
そのまま空を切る。
「……!?」
起こるはずの無い出来事に驚愕した朱天は、その直後、自らの背後に恐ろしい気配を感じ取った。
目の前にいたはずの輝柳斎は、一瞬で自らの背後に移動し濃密な殺気を放っている。
その時、朱天の脳裏によぎったのは、直後に自らの体が切断されるイメージだった。
「輝刃流……駆隼」
「まっ……!?」
急いで背後へ振り向こうとするが、時すでに遅し、鞘に収められたままの状態から放たれる神速の抜刀の一撃は、朱天の体を胴の辺りで横に両断してしまった。
朱天は自らが斬られたことも理解できないまま、綺麗に上半身と下半身に分かたれ、どさりと地面に倒れ伏した。
「ふふん、こんなもんかの……」
勝負を一瞬で決めてしまった輝柳斎は、その様子を見ながら得意気に鼻を鳴らす。
強力無比な強さを誇る四天王の一人を、熟練の技術を持つ老剣士は、あっさりと葬り去ってしまった。
上下に分かたれた鎧武者の姿を確認した輝柳斎は、満足気に刀を鞘に収めると、その場を後にしようとする。
「……いや、まだじゃな」
そこで感じ取ったただならぬ気配に、再び朱天の方へ振り向き直すと……
そこに存在するのは、直立している朱天の下半身と……
その上空に浮き上がっている上半身だった。
「なんじゃそれは?これはまた面妖じゃの……」
「はっはっはぁ!勝負はここからだぁ!」
朱天の下半身が地面を蹴り、上空へ飛び上がると、輝柳斎の方へ向けて飛び蹴りのような姿勢で突っ込んでくる。
それと同時に、上半身は翻るように旋回しながら、地面すれすれを滑空するように向かってきた。
下半身が繰り出す飛び蹴りによる上段の攻撃と、上半身が繰り出す刀により下段の同時攻撃だ。
「これならば防げまい!今度こそくたばれぇ!」
「こりゃまたややこしいのう」
上下の同時攻撃による挟み撃ちに対しても、さほど慌てる様子も見せない輝柳斎は、そっと刀に手を添えると……
「輝刃流、廻蛟」
再び抜刀と同時に斬撃を放つ。
今度の斬撃は、輝柳斎自身が回転するようにして放つ、連続の斬撃だった。
一つ目の太刀で地面すれすれを突っ込んできていた上半身を捉え、見事に首を切断してしまった。
そして、そのまま一太刀目を振り抜いた勢いを利用し、回転しながら二太刀目にて上空からこちらへ飛び込んでくる下半身を迎撃する。
飛び蹴りの姿勢のままの下半身と斬撃が交差したかと思うと、そのままスパァンと半分に切断してしまった。
目にも止まらぬ見事な連撃で、迫りくる上半身と下半身の同時攻撃を華麗に捌ききってしまった。
「ほれほれ、どうせこれでも終わりじゃないんじゃろ?」
「如何にも、まだまだ終わらんぞ!『鬼火』!」
切断されたはずの首がそう叫んだ瞬間、一つの炎が浮かび上がる。
浮遊している首の周囲を徘徊するような不気味な炎。
この『鬼火』は、一度放たれると相手を焼き尽くすまで消えることのない、朱天の奥の手だった。
刀での攻防では決して輝柳斎には対抗できないと理解した朱天が、『鬼火』を使用しての攻撃へと移行したのだ。
そして、首を無くした状態の上半身も同様に浮遊しながら刀を構えている。
両断された下半身はそれぞれ奇妙な蠢きを始めたかと思うと、見る見るうちに形態を変え、悍ましい牙を備えた大蛇のような姿へと変貌してしまった。
「困ったもんじゃな、こりゃまたキリが無いのぉ」
やれやれといった表情を浮かべ、輝柳斎が眺めるのは眼前の四体の朱天。
『鬼火』を操り上空に舞う首。
刀を構えながらその傍らに控える上半身。
そして、地面を這いながら牙を剥く二体の蛇の姿をした下半身だ。
「次は、四体同時で行かせてもらうぞ」
「ほっほっほ、それでは次の攻撃は本気で行ってみようかの」
輝柳斎は再び、刀を納めると、抜刀の体勢を取る。
「今までの攻撃が本気では無かったと言うのか?出鱈目を言うのもいい加減にしろ」
「まあ、嘘か本当かは自分の体で体験すればわかることじゃよ」
「ぐぅ……ぬ、ぬかせぇ!」
先程までとは違い、ギラリとした獣のような視線に込められた威圧感に、気圧されてしまった朱天。
一瞬でも気圧されてしまったことに、自分のプライドを著しく傷付けられ、激昂しながら四体同時に襲い掛かってきた。
『鬼火』を携えた首と上段に刀を構えた上半身が、凄まじい速度で飛行する。
地上では、二体の蛇が牙を剥きながら地面を高速で這ってくるのが見える。
やがて二体は左右に進路を分けるように移動を始める。
どうやら左右での挟み撃ちを狙うようだ。
「輝刃流奥義……」
四方向からの同時攻撃を仕掛けられた輝柳斎は、少しの焦りも見せなかった。
精神の集中を試みたのか一瞬目を閉じると、静かに息を吐く。
そして次の瞬間……
『五月雨大蛇!!!』
カッと目を見開くき敢行された抜刀と同時に放たれたのは、まさに神域にも至ろうかというほどの斬撃だった。
放たれた斬撃は一つ……だが、その斬撃は幾重にも枝分かれし拡散していく。
「なぁ!?まさかぁあああ!!!!」
輝柳斎が放った人間離れも甚だしい一撃に目を見開いて驚愕する朱天だが、その直後には全身を細切れに切断されてしまった。
もちろん、上半身と下半身も含めてだ。
地面にはボトボトと音を立てながら朱天だった欠片が落下していく。
「はあ……さすがに奥義は老体には堪えるのう」
散らばり落ちる朱天の欠片を前に、額の汗を拭う老剣士が笑う。
まさかここまでバラバラにしてしまえば、復活などしないだろうと思いながらも、一応は警戒を解かずに様子を伺うが……
その時、遠くから何かの叫び声が聞こえてきた。
「よっしゃぁああ!山吹ぃいいい!聞こえるかァアアアア!!!!俺も我慢の限界だぁ!そろそろ力を解放・・・・するぜぇえええ!!!!」
それは、鬼たちのボスである大凶丸の絶叫だった。
そしてその絶叫と同時に目の前に点在している朱天の欠片が俄かに輝き始める。
『赤武者』の異名と同じく血の様に赤い色が欠片の一つ一つから放たれ始めた。
「こ、これは……一体何が起こっておる?まさか……この光は……」
輝柳斎は、その光にとてつもなく不吉なものを感じ取るのだった。
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