第22話 修羅皇の懐刀
時は少し戻り、リゼルとアベルがいる場所へ舞台は戻る。
二人と対峙したるは四天王の筆頭とも言える立場に位置する一体の鬼。
その名は『悪童子・山吹』、大凶丸の副官として様々な場面で最適なサポートを行ってきた影の実力者だ。
その山吹が、スタンピードを完遂すべくリゼルとアベルの前に立ちはだかっている。
「よーし、じゃあ始めようか。さっさとあんたらを始末してうちの大将のところに行かなくちゃいけないんでねぇ!」
ニタリと笑う山吹の左手には怪しく光る『還元刃・死穢流』が握られている。
数多の命を吸い尽くし、その度に切れ味を増してきた妖刀は、その恐ろしいポテンシャルを隠そうともせず、その存在感を放ち続けている。
山吹が不敵に放ち続ける殺気と『死穢流』の凍るような威圧感が合わさり、その場には異様な空気が流れていた。
「リゼル様ここは私が……『ソードチェンジ』!」
『剣聖』であるアベルがスキルを発動すると、その手には光り輝く聖剣が出現する。
「神命剣……シャイニング・ファルシオン!」
それはアベルが持つ中でも最強の剣。
初手から最強の手札を投入することの意味は、山吹が持つ『死穢流』に対しての警戒心の表れに他ならない。
「気を付けなさい、アベル!はああああっ!!!!」
リゼルが持つ杖から放たれるのはもちろん『紫光』だ。
そして、その光が向かう先には剣を持つアベルがいる。
その光に包まれるとアベルの全身に力が湧き上がり、全てのステータスが大幅に上昇していく。
リゼルが放つ最大級の『能力上昇魔法』を受けたアベルは、山吹を迎え撃つのに万全の態勢を整えることができた。
「はっはぁ!そんなもん関係あるかよぉ!行けぇ、お前らぁ!」
妖刀の切っ先をアベルとリゼルへと向けながら号令が発せられた瞬間、周囲のモンスターたちが一気に移動を開始した。
もちろん、目掛ける先はアベルとリゼルの二人。
山吹によって召喚された妖怪タイプのモンスターの軍勢が、雪崩のように二人へ迫る。
様々な形状をしたモンスターたちが一塊となり、自分たちの方へ接近するのを見つめながら、アベルが迎撃しようと動き出そうとするが……
「アベル、ここは私が動きます。あなたはあの鬼を用心して下さい」
それに先んじてリゼルが動く。
杖を空へ目掛けて掲げ能力を発動する。
瞬間、リゼルの頭上に光の球が出現し、そこから眩い光が発せられ周辺を包み込んでいった。
リゼルとアベルへ接近していたモンスターの大軍勢。
それらの目を眩ますように、リゼルが作り出した光球から強烈な光が発せられる。
「目くらましか?……いや、違うな……」
山吹は、自らが使役するモンスターたちが光に包まれていく様子を、遠巻きに眺めながら、その効果を慎重に観察していた。
今までリゼルが使用してきたのは様々な支援の効果をもたらす紫色の光、即ち『紫光』だった。
当然、今回もその類の能力を使用してくると考えていたが、蓋を開けてみれば作り出されたものは眩い光を放つ球だった。
言うなれば超小型の太陽とでも言うべきだろうか?
サッカーボールほどの大きさの球からは、周囲を包み込むほどの光が、とめどなく溢れ出ている。
ただの目くらましであれば、それほど脅威とは思わない。
山吹が使役する妖怪タイプのモンスターたちは、基本的には戦闘以外の意思を持たないため、一瞬目を眩ませた程度では、その戦闘意欲が衰えることは有り得ないからだ。
そして、その山吹の疑念の答えは……
光に包まれたモンスターたちが溶けていく様子を見ることですぐに理解することができた。
光の中のモンスターたちが、体から煙を出しながらのたうち回り始め、飴細工のように溶け始めていく。
もちろん、それぞれのモンスターごとの抵抗力もあり、溶けていく速度に時間差こそ発生してはいるが、最終的にはどのモンスターも跡形も無く消滅していった。
「くそ!広域殲滅魔法ってやつか?そんなものまで使いやがるのかよ!」
忌々し気に山吹が呟いた言葉は、残念ながら少し間違っている。
たった今、リゼルが使ったのは広域殲滅魔法ではなく、広域浄化魔法だ。
その効果は、邪悪なるもの、即ちモンスターを浄化し消滅させてしまうものだ。
広域殲滅魔法と違うのは、人間には効果が無いという点だ。
しかし、モンスター相手には絶大な効果を発揮する、まさに『紫光の女神』たるリゼルが使用するのに相応しい攻撃手段だと言えるだろう。
「はん!顔に似合わず残酷なことするじゃねえかよ!」
吐き捨てるように皮肉を放ちながら『死穢流』を持った山吹が動き出す。
リゼルが放つ浄化の光は山吹にも効果があるらしく、その体からは煙が吹き出しているのが見えるが、他のモンスターのように苦しそうな様子は全く見えない。
「とりあえず、その邪魔な光を出すのは、やめてもらおうかなぁ!」
光が邪魔ならば、その使い手を殺せばいいだけだ。
なりふり構わず突っ込んでくる山吹の前に、アベルが立ちはだかる。
ガキイィイン!と激しい金属音が鳴り響き、『シャイニング・ファルシオン』と『死穢流』が激突する。
光り輝く光を放つ聖剣と、穢れを纏う怨念を纏う刃が交差し、激しい鍔迫り合いを繰り広げた。
「ちい!また邪魔者かよ!」
「リゼル様の下へは行かせんぞ!」
そこから展開されるのは、息も詰まるほどの近接戦。
アベルの極限まで磨かれた剣技と、山吹の舞いを踊る様な華麗な連撃がぶつかり合う。
お互い一歩も退かずに斬撃を繰り出し合う様は、まさに激闘の渦とでも表現できようか。
((……強いな))
お互い、斬撃の応酬を繰り広げられる中、アベルと山吹は同じことを考えていた。
それは、相手の強さの認識だった。
アベルは、現在リゼルにより、その潜在能力を極限まで引き上げる『能力上昇魔法』を掛けられている状態だ。
そんな自分とほぼ互角の戦いを繰り広げられる山吹に対して、素直に強さを認めるのは当然のことだと言えるだろう。
そして、それは山吹も同じだった。
山吹は鬼の中では大凶丸に次ぐ実力の持ち主だ。
大凶丸以外で自分とまともに戦える相手など見たこともなかった。
そんな自分とここまで戦える相手に対して、アベルと同様に強さを認めざるを得なかった。
そうして、お互いが繰り出す斬撃は止まることはなく、その戦いはさらに激化の一途を辿ろうとしていた……
「よっしゃぁああ!山吹ぃいいい!聞こえるかァアアアア!!!!俺も我慢の限界だぁ!そろそろ力を解放・・・・するぜぇえええ!!!!」
その時、山吹の耳に聞こえてきたのは周囲一帯に響き渡る、豪快な叫び声だった。
「……あの馬鹿鬼が」
その声を聞いた瞬間、憎々し気に吐き捨てられた言葉は自らの主に向けるべき言葉とはかけ離れていた。
そして、それと同時に山吹の体が、緑色に発光していく。
「はあ……ここまでか……やっぱりあの馬鹿は我慢なんて出来ないんだよなぁ……」
妙な光を放ち始めた自らの体を見ながら山吹があきらめるように溜息をつき、アベルとの戦闘を止めてしまった。
そんな山吹の様子を、何が起きたのかまるでわからない表情でアベルが見つめていた。
少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。
ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。
良ければ、感想もお待ちしております。
評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。
いつもありがとうございます。




