第21話 吹き荒ぶ藍嵐
クラン『闇鍋騎士団』のクランオーナー、村雲ミズキは目の前に立ちはだかる大凶丸を注視する。
(さてと、この鬼が平賀さんが言っていたボス鬼なのは間違いないみたいですね……)
実は、ミズキは今回のスタンピードにて、大凶丸を必ず倒すように平賀から依頼を受けていた。
そして、その依頼こそが『藍染』をミズキが使用することの条件に他ならない。
ダンジョン統括省の研究開発部門の主任である平賀にとって、『藍染』の開発こそが悲願だった。
そのために、あらゆるものを犠牲にし、時にはダンジョン統括省の上層部から警告を受けながらも一心不乱に『藍染』の開発に勤しんできたのである。
そうして、思惑通りの兵器として『藍染』は完成させた平賀が次に望むものは明確な『実績』だった。
『藍染』は完成はしたものの、ダンジョン統括省の上層部はその能力に懐疑的だった。
ダンジョン統括省の開発部の一年間の予算の内の八割と法外な金額を注ぎ込んで開発されたのが『藍染』ならば……
明確な成果を以て実際に使い物になるかを慎重に判断すべし。
ダンジョン統括省の上層部はそう判断したのである。
もちろんそれは、平賀にとっても願ってもないチャンスであり、『藍染』により目覚ましい成果を上げることにより、ゆくゆくは国家を挙げての一大プロジェクトまで押し上げるつもりだった。
そんな中で起こったのが、グランドダンジョン『鬼皇の死都』でのスタンピードだった。
この一大事に、平賀は研究室内で一人の時に盛大にガッツポーズをしてしまうほど喜んでいた。
どれだけ考えても『藍染』の投入にこれほど相応しい舞台は他には見当たらなかった。
ここで明確な成果を上げることが出来れば一気に最高の評価を得られることは間違いない。
ここでの明確な成果とは、即ちグランドダンジョンのボスであり『統率者』の一人である『修羅皇・大凶丸』の討伐だ。
『藍染』の力で大凶丸を倒す。
それこそが平賀の一大目標となった瞬間だった。
そして、このスタンピードを千載一遇のチャンスと捉えていた者はもう一人存在していた。
それが、『闇鍋騎士団』のクランオーナーである村雲ミズキだった。
クラン『闇鍋騎士団』は、その実力は確かなのは間違いないのだが、その実力に見合った評価を世間から得られているかと言えば、答えはノーである。
それは、度重なる炎上騒ぎのせいでもあり……
アイドルのような活動をしているクランオーナーへの世間の冷たい視線のせいでもある。
ミズキはこの事実に辟易としていた。
何故、自分たちが世間から冷たい目で見られなければならないのか。
これだけ成果を上げても何故、『九頭竜』や『金剛の刃』ほどの名声を得られないのか。
自分だけならまだしも、大切な仲間までもが世間から正当な評価を得られず苦しんでいる。
普段は、あっけらかんとした態度でいるミズキも実は、その事実にはしっかりと心を痛めていたのだ。
いつからかミズキの心の中には、どうすれば『闇鍋騎士団』は世間から正当な評価を得ることができるのか?という考えが強く根付いてしまっていたのだ。
そんな中で舞い込んだのが平賀からの依頼だった。
『藍染』を装着の上、スタンピードを制圧せよ。
元々、その強靭な肉体を平賀に見込まれて、開発のテストパイロットを担っていたこともあるが……
ミズキにとって平賀からの依頼は、渡りに船だった。
スタンピードから世間を守れば、多大な評価を得ることができる。
これで、仲間たちも胸を張って冒険者として活動できるのだと考えたミズキは、この依頼を二つ返事で受けていた。
ここに、平賀とミズキという変人同士のコンビが爆誕したのだった。
◆
ミズキは意を決したかのように、剣を構えながら『藍染』が持つ能力を行使する。
『藍嵐……旋風!』
その瞬間、『藍染』が再び光を放ったかと思うと、ミズキに周囲に強力な風が吹き始め、最終的には巨大な竜巻を形成していく。
「はああああ!」
竜巻の中心部にいたミズキが剣を力一杯振り抜いた瞬間、その竜巻が生きているかのような動きを見せながら、大凶丸へ襲い掛かった。
「ほう……少しは面白そうな技を使うじゃねえか」
大凶丸がニヤリと残忍な笑みを浮かべながら竜巻を迎え撃つ。
刀を上段に構えたかと思うと、目の前に迫る竜巻へ豪快に振り下ろした。
あまりの剣圧に竜巻は両断されると同時に霧散してしまう。
「まだまだですよー!『藍嵐……烈風』!」
竜巻と共に大凶丸へ迫っていたミズキが、次に放つのは巨大な風の刃だ。
元々ミズキの得意技だった『鎌鼬』よりも遥かに大きく鋭い真空の刃が大凶丸を襲う。
「そんなものが……俺に通用するかよぉおおお!!!」
振り下ろされた状態の刀を力に任せてそのまま振り上げ、真空の刃へぶつけ相殺するが……
「隙ありぃ!『藍嵐……突風』!」
ミズキの全身が発光し、周囲へ円周上に凄まじい風が放たれる。
それはまるで衝撃波の如く勢いを誇り、大凶丸を吹き飛ばす。
「ぐぅう!」
「トドメですよー!『スチームイカロス』、展開!」
元々ミズキが所持していた鋼の翼が展開されると、凄まじい速さで飛行を開始し、そのまま体勢を崩している大凶丸目掛けて弾丸の如く突っ込んでいく。
「テンペスト……ブレイクゥ!!!!」
風を纏いながら突撃し渾身の一撃を放つ。
それは劉愛蕾との戦闘でも使用したミズキの最大の必殺技だ。
「ヌオオオオオオオオオ!!!!」
その威力を察したのか咄嗟に抵抗する素振りを見せる大凶丸だが……
ミズキの突進は、大凶丸の想定よりも遥かに速かった。
何故ならば『藍染』との相乗効果により、『スチームイカロス』のスピードも格段に強化されていたからだ。
ミズキと大凶丸が交錯し、激しい斬撃音が響く。
次に確認できたのはドサリと何かが落ちる音と、周囲に飛び散る大凶丸の鮮血だった。
地面に落ちているのは逞しく鍛え上げられた大鬼の腕だった。
大凶丸の右腕が見るも無残に切断されている。
「ぐうう……小娘ェ!」
大凶丸は、血液が滴り落ちる腕の切断面を抑えながら、ワナワナと震えている。
「はあ……はあ……やった……これなら!」
その姿にミズキは確かな手応えを感じる。
やはり『藍染』の能力は強力無比。
このまま行けば、大凶丸を倒すことは問題ないだろう。
そうすれば、『闇鍋騎士団』の評価も……
「面白いじゃねえかァアアアア!!!!」
「え?」
打って変わって聞こえてきた大凶丸の嬉々とした叫び声に、一瞬聞き間違えたのかとミズキは疑うが……
そこには、先ほどよりもさらに獰猛な笑みを浮かべた大凶丸の姿があった。
「そんな……まさか……」
その表情からは自らの体が受けたダメージの影響は微塵も感じられず、追い詰められている者の悲壮感もない。
あるのは、強者と出会いワクワクしている大鬼の姿だった。
先ほどの震えは武者震いだったとでも言いたいのだろうか。
とにかく、現在見えている大凶丸の姿は、ミズキの想像を超える程には異様だったのだ。
「よっしゃぁああ!山吹ぃいいい!聞こえるかァアアアア!!!!俺も我慢の限界だぁ!そろそろ力を解放するぜぇえええ!!!!」
耳を劈くような悪夢の如き絶叫が聞こえてきたかと思うと、大凶丸の体が発光を始める。
それは、赤や緑、黄色や青といった様々な色が混ざった禍々しい光だった。
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