第20話 コードヴァイオレット発動せよ
クラン『九頭竜』の活躍により、優位な状況となった最前線……
その場所で『九頭竜』、『金剛の刃』と共に戦っているのは『闇鍋騎士団』だ。
しかし、現時点で『闇鍋騎士団』の面々は心ここにあらずといった様子で戦闘をしている状況に陥っていた。
その原因は、『闇鍋騎士団』のメンバー全員に送られてきたとあるメッセージにある。
冒険者ならば必ず所持しているはずの端末。
そこにクラン共有のアカウントからとあるメッセージが送られてきた。
『お待たせみんな!闇鍋騎士団の団長が帰還したよ!【コードヴァイオレット発動せよ】!』
……以上が『闇鍋騎士団』のメンバー全員へ一斉送信されてきたメッセージの内容だ。
送り主は無論クランオーナーである「村雲ミズキ」に間違いない。
問題なのは、その内容に関してメンバーたちが誰一人として理解できなかったことにある。
「……帰還?一体どこから?」
「……どこ行ってたの?」
「ていうか、待ってねーし」
そして、メンバーたちの頭を最も悩ましたのは……
「コードヴァイオレットって……何!?」
クランのサブオーナーですら全く内容を知らない【コードヴァイオレット発動せよ】の文字。
もちろんミズキとしては、何らかの意図を以て発せられているのであろうが、残念ながらその意図はメンバーたちには一ミリたりとも伝わってはいなかった。
謎のメッセージを受け取った『闇鍋騎士団』のメンバーたちは、全員一様にどこか腑に落ちないような表情を浮かべながら最前線の先頭をこなして行くのだった。
◆
そして舞台は、その謎のメッセージを一方的に送り付けた本人へと戻る……
「もー!何で誰も来ないのー!!!!」
そこには、怒りのままに剣を大凶丸へ叩きつけているミズキの姿があった。
「【コードヴァイオレット】と言えば、クランオーナーの私のところへ集合せよ!に決まってるじゃないですかー!何で誰も来ないんですか!」
何となく響きが格好良いと考えた、案の定誰にも送ったことのないメッセージの意味が、クランのメンバーたちに全く通じていないことにショックを隠せないでいたのだった。
「そんなこと知らねえんだよ、この小娘が!」
大凶丸は、苛立ちを抑えきれない様子でミズキに斬り掛かる。
これでもかと頬っぺたを膨らませながら、プンプンと怒りを露わにしていたミズキの頭上に鋭い斬撃が迫り、そのまま激しい轟音と共に地面を叩き割る。
「何だぁ?御大層に出てきた割には一瞬でくたばりやがって……拍子抜けにも程があるんじゃねえのか?」
自らの渾身の斬撃に、確かな手応えを感じながら、あまりの呆気なさに愚痴を吐きながら刀を戻す。
しかし、自らの斬撃により舞い上がった土煙が収まった時に、その場にあるはずのミズキの亡骸は見る影も無かった事実に、大凶丸は目を見開いて驚く。
「ああん?どこ行きやがった?」
慌てて周囲を見渡すが、彼女の姿はどこにも見当たらない。
怪訝な表情で警戒するが……
「……っ!?」
頭上から何かが迫るのを感じ取り、咄嗟に背後へ飛び退く。
その直後、ズガァン!!!!と激しい激突音と共に、何かがそこへ降ってきた。
それはもちろん……ミズキだった。
その体に纏う鎧からは、藍色の光が放たれており、背中の機械仕掛けの翼からは、大量の蒸気が吐き出されている。
地面に突き刺された剣を回収し、大凶丸の方へ向き直る。
「あらら、絶対にやっつけたと思ったんですけどね……」
「んだとコラァ!人間の分際でぇ!」
口惜しそうに自らの剣の切っ先を見つめながら呟くミズキの姿に、更なる苛立ちを募らせる大凶丸が、再び刀を振り上げながら突っ込んでくる。
ハヤトの神速に迫る勢いの踏み込みから放たれる鋭い斬撃は、常人ならば何が起こっているのかもわからないうちに、その体を切断されかねないほどの一撃だったが……
『藍嵐・颯』
ミズキが纏う『藍染』が一瞬、鮮やかな光を放ったかと思うと、周囲に轟くような突風が発生し、刹那の瞬間にその姿が消える。
……とほぼ同時に大凶丸の背後から凄まじい殺気が走る。
ギリギリのタイミングでその殺気を知覚した大凶丸は、力のままに刀を背後へ向けて振り抜く。
……が、さすがに一瞬ミズキが先んじる。
大凶丸が放った苦し紛れの斬撃は空を切り、その隙を付いてミズキの愛剣でもあるSランク神器『惨殺剣・礫死』が大凶丸の脇腹を斬り付けた。
「ちい!一体お前は……何なんだ小娘ェ!」
最強の鬼たる大凶丸には生半可な攻撃ではダメージは通らないはずだ。
しかし、ミズキの攻撃は確かに大凶丸へ傷を負わせた。
大凶丸の脇腹からは、青い血液のようなものが滴るように流れ落ちている。
「あのですねぇ……私には『村雲ミズキ』っていう立派な名前があるんです、小娘なんかじゃありません」
自らの脇腹からの流血を全く気にもせずに、自らに向き直り、お前は何者だ?と問いかけてくる大鬼へ向かって、やれやれといった様子で語り掛ける。
「ちなみに、皆さん私のことを親しみを込めて『ミズキ』って呼んでくれてます。だからあなたも『ミズキ』って呼んでくれても良いですよ?」
「あぁ?さっきから何をほざいてやがる、気でも狂ったか?」
「失礼ですねぇ!よーし、こうなったらギッタンギッタンに叩きのめしちゃうんだから!」
「へえ、やれるもんなら……やってみろよぉオオオオ!!!!」
ミズキの言葉を自らへの明確な挑発だと受け取った大凶丸の髪の毛が逆立つ。
咆哮と共に全身の闘気が活性化する様子は正に怒髪天と言えるだろう。
「さてと、皆さーん!聞こえてますかー!?親衛隊集合の時間ですよー!」
〈オオオオ!ミズキたーん!〉
〈待ってましたー!おかえりミズキたん!〉
〈ミズキたんには俺たちが付いてるぞ!〉
〈一緒に戦おう!そしてあの鬼をとっちめましょうぞー!〉
実は、ミズキが装着している『藍染』には最新の配信機能が備わっているため、ミズキはいつでも自らの戦闘を世界中に生配信することが可能となっているのだ。
(もちろん、開発者の平賀は配信機能を付けることに難色を示したが、ミズキのゴリ押しに負けて渋々機能を付け加えることになったのだが……)
現在も、『藍染』に装着された最新式のカメラによって、怒りに震える大凶丸の姿が配信されている。
「私は今からあの鬼さんを退治しちゃいますので、皆さん、応援よろしくお願いしまーす!!!!」
〈おおおおお!任せろー!〉
〈おっしゃぁ!あの糞鬼の野郎、目に者見せてやるかんなー!〉
〈ミズキたん……何か神々しい……涙が出てくる〉
〈皆、親衛隊の力を結集してミズキたんを応援だ!〉
ミズキの呼び掛けで、親衛隊のボルテージは最高潮に達する。
「よーし!いつでも掛かってきなさい!」
そのボルテージのままに、配信へのコメントによる大応援を受けながら、剣の切っ先を大凶丸へ突き付けるのであった。
少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。
ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。
良ければ、感想もお待ちしております。
評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。
いつもありがとうございます。




