85話 神社にて
パーキングは最大でも20台停められるか分からないほど小さかった。照明は建物と駐車場を明るく照らしている。
だが、観光シーズンを外れていたこと、都市から離れたPAであったことから、人気は全くない。そして時刻も夕闇が迫るころで、もう売店は閉まり、黒い車が1台停まっていた。
「やばいぞ。こんな所で停めたら何をされるか分からない。」
さっきのトレーラに潰されそうになったのを思い出す。
コーツはそのまま車を停めずにETFゲートに向かう。
ゲートをすんなり抜けると、ループ状も道になる。後ろを見るとまだ黒い車はゲートにも着いてないようだ。
おそらくだが、黒い車を見てすぐPAを抜け出したので、敵は追いかけるのが遅れたのだろう。
ただ、ただ、このまま追いつかれないままとは到底思えない、安心はできない。ヘッドライトが木陰の間から通して見えたからだ。誰が追って来たとは確認できないが、敵と考えたほうがいいだろう。
「このまま一気に敵をまく。」コーツもそう考えたらしい。
田園地帯を5分も走ると、小さな集落が見えた。
街灯が見え、家々のあちこちから明かりが籠れる。だが、人通りは全く絶えている。
いや、ここの住民を合わせても50人に足りない規模だろう。日が暮れては人が見えないのが当然なのだ。
公民館らしき建物は見えたが、商店はおろか自動販売機もない。ほとんどの家はもう夕飯を終え、テレビを楽しんでいるのだろう。
そんな集落の家に突然、ドアを叩くのは気が引ける。
集落の外れに道が広くガードレールがない空き地に車を停めた。
「やっぱり、タイヤをいためていたか」
壁に当たったタイヤは少し変形していた。もっと強く当たっていれば完全に外れていたかもしれない。
「ダメだな。これではもう走れない。」
「弱ったな。修理工場なんてここからでは遠いだろう。」
「とりあえず、小林に来てもらうしかない。電話をしてみる。」
スマホで連絡しようとしている時だった。闇夜からヘッドライトの矢がやって来る。
「あいつらか?」
「分からん。とりあえず身を隠すぞ。」
空き地から少し離れて社があった。道路から石畳の通路の奥に鳥居が立ち、その奥は10段ぐらいの階段。その上は鳥居と狛犬、社務、そして社殿が並ぶ。勿論無人だ。ただ古ぼけ、こじんまりしているが、集落の住人から篤く管理されているのだろう、どこにも寂れた雰囲気がない。
杉の間から空き地が見下ろせた。黒い車が停まり、男が二人降りた。
身長は190前後、がっしりした胸幅、厚さなど常人の倍はある。背広姿でも、日本人とは思えぬ体型だ。そいつらは勇次の車を見て、放棄されたのを確認したようだ。辺りを見回し始め、ゆっくりと神社に足を向けてきた。
「やって来るぞ。」
集落の家の裏に潜むのは、他人の家に土足で上がり込むようなものだ。この場所では隠れるのは神社の他にない。
神社前の石畳で男たちが足を止める。そして胸からピストルを取り出し、サングラスを外した。
「やばいな。ここから逃げ出せないか。」
「いや駄目だ。周りは田んぼばかりで、隠れる場所はない。」
月の光はようやく人影が分かる程度だ。社務所の裏か社殿の床下なら簡単には見つからない。社務所の陰で男たちを待つことにする。
男たちはゆっくりと境内に入って来る。
「コツコツ。」靴音が響く。
狛犬の間を抜け、社務所に来た時。ぴたりと足を止め、油断なく裏手に目をやった。
だが、男達の嗅覚でも勇次を探り出せなかったようだ。ゆっくりと社殿に足を進める。
その時、男たちの背後に勇次は躍り出た。
完全に虚を突いたはずだ。だが男たちは分かっていたかのように身を翻してこちらに向く。
勇次は構わず、間を詰め、右手の男に回し蹴りを放つ。
右の男は左手で頭を庇う。所詮素人の足技だ。形ばかりに手で庇い、軸足を払えば簡単に倒せると読んでいた。
だが、庇った腕には強烈な衝撃があった。いくらかでも弱めようと自ら体を倒し、石畳を転がる。
「もう一人。」倒れた男を無視して、残りに目をやる。
残りの男はすでに銃を構え、引き金に指を当てていた。
さっと勇次は上半身を後ろに逸らしながら、右足を蹴りだす。
「ズダーン。」銃声が静寂を破る。
「ぼこ。」倒れながらの前蹴りなので力は入ってない。それでもつま先には男の急所を捉えた触感があった。
そして、片足だけで支え、ほぼ水平になった勇次の顔の上を銃弾が通り過ぎるのを感じた。
あっと言う間に男たちの戦闘力を奪った。だがその後の男たちの対応も見事だった。
石畳を転がった男は立ち上がると、勇次を見向きもせずに逃げ去る。
急所を潰された男も激痛を堪えて後を追う。
ピストルもサングラスも、何も残さない見事な、去り様だった。




