82話 噂の出所
伸二が勇次に病院のホームページ(HP)に載ったコメントを伝えて来る。
「名前は書いてないが、これはお前のことだよな。」
「ああ、内の病院のHPに書き込んだのだから間違いないな。」
「ちょっと調べたが、噂が想像以上に広まっている。おそらく、1万近い者がコピペしているな。広まるのを防ぐ手段はまずないぞ。」
「人の口に戸を建てられないと言うからな。噂は広まるだろう。」
「随分、他人ごとのように言ってるな。お前のことだぞ。」
「仕方ない。事実だから、否定しようがない。それにしてもおかしいよな。今頃になってこんな噂がでるなんて。こんな噂、昔から出ては消えていた。今では日常茶番で誰も気にしなくなっていたと思ってた。」
「時代が変わって来たのだろう。今では誰もがスマホを持っているし、SNSを投稿できる。」
「それでも由香に比べ、俺なんて有名でも何でもない。大して有名でもない俺が標的にされているのはなんでだ?」
「いや、そう思っているのはお前だけかもしれない。この地方では大きな病院はここしかないし、お前もそこそこの名士なんだ。周囲から注目されているはずだ。言動にはやはり気を付けてくれ。」
「まあ、そうだな。」
「ただ、全国でお前はほとんど無名と言ってよい。そのお前を中傷するようなことを書いておいて、有名女優の名前が出ないなんて、確かに可笑しい。何かあるな。お前に心当たりはないのだな。」
「俺を標的にする奴ときたら、アメリカの国防省かC国の機密機関の者が考えられる。」
「おいおい、いきなり物騒な連中が出てきたな。どうしてそんな奴らに目をつけられたんだ。」
「詳しいことは言えないが、若い頃にアメリカの国防省のPCにちょっかいをかけたことがある。それとC国に入った時、向こうの当局の裏をかくようなことをして、メンツをつぶしたのかもしれない。どちらも昔のことだから終わったことだと思っていた。」
「うーん」それだと、あまり関係ないのではないのかな。そんな物騒な連中ならもっと直接的な方法をとるんじゃないか。やはり個人的に嫌われたのではないのか。」
「そうだろうな。ただそれだと、ますます掴みどころがないな。」
「噂は尾ひれをつけやすいし、噂を抑える手段はない。黙ってみているしかないか。」
二人は放置するよりないと考えた。
ところがこれに反発するようにコーツが動き出す。
「勇次の悪い噂を広めようなんて、俺に喧嘩を売っているようなものだ。いいじゃねえか、その喧嘩勝ってやる。」やる気満々だった。
コーツがまず目を付けたのが閲覧数の多いSNSだ。
「勇次のことを悪く言った、言わないなど、中身はどうでもいい。そいつがどれだけ見られているかだ。」
コーツは難しければ、難しいほど燃えるタイプだ。攻撃の対象が多いのが今度の難しい所だ。
SNSの視聴数で多い順から攻撃することにする。
「人の悪口を言いながら、自分は安全であると思い込んでいるのだから呆れる。俺の攻撃を避けるのならネットから遮断し、電源コードも繋いではならない。」
次々と攻撃していく。
昔のコーツならパソコンを破壊するまで行っただろう。PC電源に操作して暴発すれば火災を引き起こすのも可能だ。
ただ、かつてアメリカ国務省にいたずらをした結果、勇次が疑われ、危険に曝した過去がある。
その経験から投稿者には分からないようなウィルスを仕込んだ。
「医者」、「院長」、「女優」などのワードが揃うSNSは投稿して、しばらくすると自動消滅させた。投稿者自身が気づかない改変だった。
「これで、勇次の悪口は消えるだろう。」コーツは自分の仕事ぶりに自画自賛の態だ。
「さて、一番の発信元を見つけるか。」病院のホームページに書き込んだ相手を探る。
そして思いがけない人物に巡り合う。
由香の娘、美沙だった。




