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私の中の怪物  作者: 寿和丸
3部 医者になる

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45/89

45話 大学生活

大学の医学部は6年制で、1年は教養が中心、2年から基礎医学、3年で臨床医学に少し触り、4年で臨床学習の予備、5年で臨床実習が始まり、6年間で医師への基礎を学ぶことになる。

1年の授業は教養課程と言うこともあり、勇次にとって授業はありきたりな内容だった。講義と言うからもう少し、難しいと思っていたので、肩透かしの思いをする。だから学校に行かない日は保養センターの建設に向け、まい進することにした。

しかし、学校に行ったからには物足りない講義だけで帰るのはつまらないと感じた。そこで何か体を動かそうとして、運動クラブを探していると、目についたのがテニスの同好会だった。

テニスはこれまでしたことはなかったが、激しいものではなく比較的安全と思えたし、同好会程度なら初心者でもついて行けるかと考えた。

実際に入って見ても、同好会のメンバーはテニスを楽しむのが目的で、競争意識などなくのんびりとした雰囲気と言える。

勇次は高校までいつも浮いた存在だった。周りに壁を作っていたつもりはないが、同じ世代の子供たちとはあまりに成長段階が違い過ぎていて、どうにも対等の友人として扱えなかったのだ。伸二とすぐ仲良くなれたのは、彼が大人の段階に成長しており、対等の友人と思えたこともあったのだ。大学において、中には子供のままの者もいるにはいたが、多くは大人になっており、勇次も対等の人間関係が作れるようになる。ここで、始めての学生気分を味わえることとなった。


そして、勇次は話題の中心にもなっていた。

「あなた、梶谷君のこと、知っている?」

「あのソフト会社を売って、大もうけした人でしょ」

「ええ、100億も手に入れたと言われているわ」

「そうよねえ、そんな人が内の大学に入ったのよ。それも医学部に」

「驚いたわよ。キャンパスで見かけることがあるかしら?」

どこでも、そして女子大生の関心が集まる。

そんな周りの目を気にせず、勇次はしっかり受講し、テニスにも励んでいた。


「梶谷君はテニスを本当にやったことないの?結構ラリーが続くわ」先輩の女子学生の沢井が言った。

彼女は簡単に手ほどきを教えた後、いきなりユージをコートに連れ出し、ラリーを始めたのだ。が、初心者の割には、ボールが返って来るのに、感心する。

返球のスピードは全然なく、ただ弓なりのボールがネットを越えて来るだけだ。帰って来るボールも彼女の位置からは離れているが、それでもネットのこちら側には来る。ぎこちないが、ラケットになんとかボールを当てて、打ち返して来てくれる。

「そう、その調子」ラリーが10球を越えた段階で、彼女は少し強めに打った。勇次の打ちやすい所だが、強めの球に空振りするだろうと思った。

ところが、勇次は着実にボールを返してきた。

それならばと、更に強めても、それでも返って来る。

最期に、少し意地悪をして、勇次から3mほどの所に球を打つと、流石にこれは無理だった。

「梶谷君は運動神経がいいのね。呑み込みが早いわ」30分ほど付き合ってくれてからの彼女の言葉だ。


上手と褒められた。

手加減してくれたこともあるが、勇次の運動神経の良さがここでも生きた。

人間、褒められると伸びるものだ。

勇次もテニスが自分に合っているように思えた。最初こそ、ラケットのどこにボールを当てればよいのか、分からなかったのだが、たまたま上手くガットの良い位置でボールを打つことが出来た。その打球音,感触が、非常に心地よくて、次も同じ所にボールを捉えようとする。残念ながら、すぐには良いスポットに当てられないのだが、自分でも当たる確率が上がるのは分かる。

捉えられる確率が上がるにつれ、格段にボールの威力が増し、相手に良いボールが行くようになる。また、最初の頃はとにかく、ネットの向こう側にボールを打ち返すしかできなかった。それが、次第に余裕も出来て、相手近くに打ち返せるようになる。


「ポン」というボール音が心地よい。面白くなって、またテニスに打ち込むことになる。それによって、勇次の腕も上がっていた。

沢井の他にも数人の上級生とラリーをしても、長く続くようになる。

彼らは経験者でもあり、勇次がへまをして離れた所にボールを打ってきても、ボールが着実に返る。

だが、その他の者では、空振りするか、あらぬ方向にボールが飛んでいくか分からない。

3か月後、勇次は初心者の中では群を抜いて上手くなり、同好会の中でも中程度の域になっていた。


その一方で、勇次は学友たちとの付き合いはなかった。

「梶谷君。今日もまっすぐ帰るの?」

「ええ、すみません。用事がありますので、飲み会には行けません」

入会したての頃、先輩から何度か飲み会に誘われたのだが、「家に帰って、家事を手伝う」と言って断っていた。

今では、勇次を誘おうとする会員もいなくなった。

そして、春の頃、テニス同好会にはいつもより多くの入部希望者が詰めかけた。それも女子が8割を超す。

ところが勇次が既婚者であり、また飲み会やコンパにも全く興味を示さないことが知られると、何時しか新入生の数は少なくなっていた。



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