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私の中の怪物  作者: 寿和丸
3部 医者になる

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37話 霧島由香

「いえー、本当かよ!」会社のホームページでメールを見ていた社員が驚きの声を上げた。

「何だ、どうした」

「だって、霧島由香が会社に訪問したいと言って来たんですよ」

「えー!マジでー」それを聞いて周りの者が一斉に驚いた。それが社内にも直ぐに伝わった。

「どうした。何かあったのか?」その騒ぎは勇次にも届く。

「社長、霧島由香が会社に来るんですよ」

「誰?霧島?」勇次が怪訝顔をすると、社員説明してくれる。

「社長はテレビも見ないから知らないでしょうが、今一番人気のタレントですよ。美人なのは当然ですが、歌もダンスも上手いし最近ではドラマにも出て、ヒットしています。」

「ふーん」とあまり関心しなさそうな顔になる。

「勇次、お前の芸能音痴ぶりはすごいな。霧島由香もしらなかったのか?」呆れたように伸二が行ってくる。

勇次と伸二は名前同士で呼び合うようになっていた。

「以前は普通のアイドル扱いだったが、今では実力を認められてもいる国民的な女優だぞ。それを知らないとは、お前は変わり過ぎているぞ」

そう言われても返す言葉がない。

「そんな有名人が来たいと言っているなら、社内を見て貰うのもいいかな」

「それがいい。総務部長にも相談しよう」

「うちの会社は忘年会も花見もしたことがありませんから、こんな機会に盛り上がるのもいいことですね」中村も乗り気だった。

「やったー!」社内は大盛り上がりになる。

「歓迎の垂れ幕を張りませんか?」「クッラカーを鳴らしては?」と少し羽目を外しかける声も出たが、それはやめさせる。

ただ。霧島由香を迎えることだけで、会社の雰囲気がうきうきしたものになっていた。


「ようこそ、いらっしゃいました」本当に今、人気最高の女性タレントが会社にやってきてしまった。

社員一同、大張り切りと言うより胸をワクワクして出迎える。

「こんなに歓迎していただきありがとうございます」女性社員から花束を受け取りながら、由香が礼を言った。

由香は30過ぎで、女性にしては背も高く、スタイルが抜群だった。目鼻がくっきりし、大きな瞳が印象的であり、ちょっと白人のような風貌の美人だ。

「もし町であんな美人を見かけたら、はっとしてまず立ち止まるね。それから通り過ぎても後ろ姿を見送るだろう」と勇次もうなるほどだった。


「私ね。ここで作られたパソコンゲームにはまったのよ。それで、好きなゲームがどんな所で作られたのか興味があったの」マネージャー一人を従え、社内を廻る。

その言葉通り彼女は興味深く、ゲームのキャラクターやポスターなどを見ながら、ゲームがどのように作られているのか、色々質問したりもした。

「結構、明るくて広いブースね」と彼女が感心するように言う。プログラムの社員は、一人一人に専用の机と間仕切りのあるコーナーが与えられている。

「私、こういう仕事をしている人たちって、ネグラで夜まで仕事に一人でコツコツと打ち込む人ばかりだと思っていた」

社員たちが共同でも作業できるように、何時でも隣と声を掛け合えるように、間仕切りも低くして背伸びすれば顔を合わせるようにしていた。

想像していたよりも明るい雰囲気に興味深げだった。


その後、勇次は由香を応接室で会話する。その話の中で由香が「私のホームページに見に来てくれる人が増えないの」と相談してくる。

「こんなホームページにすればどうでしょう」

勇次は由香のHPを見ると、女性らしく色どりあふれたものであったが、陳腐さも感じられた。西洋風のお城があり、庭園なども添えられているのだが、ありきたりで、かの有名なネズミーランドのお城の二番煎じに近かった。何よりも更新する頻度があまりに少なすぎた。

「だって、HPに何を書けばよいか分からないのよ。そう頻繁に上手いことをアップできないわ」

更新があまりないと、由香のファンでも飽きて来なくなるのだろう。

勇次はお城の窓や庭をクイックすれば、画面が変わるようにした。これをするだけでHPのイメージが大幅に変わった。

「わー!こんなことが出来ちゃうの。」

「貴方の日常なことをこの中に入れれば、お城の中にいるように思われます。衣装や髪飾りなどはすぐ画面に飾れます。例えばダンスホールをクリックすれば、あなたが階段からお姫様の衣装で降りてくるシーンになります。歩いているだけでも薔薇の庭園に入れば優雅に散策していようになります。それならあなたの日常をカメラに撮るだけでHPにUP出来るでしょう、更新するのも今より楽になりますよ」

「素敵だわ。すぐこれにするわ。」勇次が目の前で簡単にHPに手を加えただけでこうも変わるとは思えなかった。勇次がとんでもない才能の持ち主と思えた。

「でも何かお礼をしなくちゃ」流石に由香も人並みの心得は持っていた。プロの誰かに同じようなことを頼んだら相当なお金が必要になることは知っていた。

「それなら、アイデア提供会社としてうちの社名を出してください」

「えーそれだけでいいの。こんな素晴らしいことをしてくれて」

「うーんでは、一度夕食でも一緒にどうですか?」勇次は「お礼なんていいですよ」と言う代わりの、冗談のつもりで言った。

「ええ、そんなことならお安いわ」由香の口ぶりもそれを真に受けはしない返事だった。

夕食の話はその場限りのはずだった。

ところが、3週間ほど経って、由香から「食事をしたい」と言ってきた。

「実はあれから、HPを見てくれる人が急に増えたの、会ってお礼したいから夕食しない?レストランの予約もしているから是非に。」と電話をくれてきたのだ。

「まさか。」と思いながらも断る理由もなく二つ返事でOKする。


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