20話 コーツの種族
勇次が晶子の部屋を出ようとした時、キスもしようと思ったが、ここでしたらまた性行為迄行きそうで何とか我慢した。
「戸締りをきちんとして」「うん。勇次も気を付けるのよ」
名残欲しいが、ぐっと我慢して勇次はドアを出た。
「いやあ、人間の性行為がこんなに激情高ぶるものだと思わなかったぞ」帰りの電車でコーツが話しかけてくる。
コーツは勇次と晶子とが一緒にいる時は黙って見ていて、二人の感情の高まりを共感していた。
100万年は生きると自称するコーツにとり、地球の生物の世界は奇妙にしか映らない。
その不可解な一つに性別のあることだ。
「下らん。オスとメスの遺伝子を分け合うなど良い方の遺伝子が半分になることではないか。地球の生物は進化を早めるために、性別を考え出したのだろうが、それだと優れた形質が半分しか伝わらないことになる。俺など自分の遺伝子をソックリ子に伝えるぞ。もし優れた遺伝子を持つ者が現れれば、それをコピーして獲得すればいいだけだ」
コーツの種族は個体が種全体と繋がっていた。個体それぞれ考えを持って自由に行動できるが、一方で種族とは考えを伝えあい、体験を共有も出来た。つまり種は個体であり、個体は種であった。
個体の一つが素晴らしい能力、形質を獲得すれば、種全体に伝わり、種の能力、形質となった。
コーツの種族は読心、洗脳、分身、複写などの特別な能力を長い歴史の中で獲得していた。特に種族を発展させたのが寄生の力だった。これにより、他の種族=宿主を支配し、制御できるようになった。
宿主に活動させ、食料やエネルギーを集めさせれば良く、コーツの種族は動く必要もなくなった。その宿主が役立たずになれば、乗り換えれば済むことだ。コーツの種族にとりより役立つ宿主を求めることが進化に繋がった。
自らも宿主に負担を掛けないように、不要と思える形質を捨て去った。小型化し、手足を捨て去り、数十メートル移動できればよかった。
そして、頭脳の高い生物を宿主にした時、科学、技術を手に出来た。宿主の知能を高めることで、コーツの種族の能力を高まっていく。
宿主と共に大いに繁栄し、母星の支配者となった。
ただあまりに繫栄し過ぎてしまう。コーツの種族は数を増やし、それに伴って宿主の数も増やすことになる。だが増えすぎて食料やエネルギーの消費が増大し、母星だけでは手狭になったのだ。そこでコーツなどが、母星から放出され、永久と思える宇宙の旅に出た。
コーツの地球への到来は最初に話した通りである。その後のいきさつは省略するが以後コーツは勇次と体を共有し、互いに影響し合い今に至っている。
そんなコーツにとり、人間の性の営みは、想像していた以上のものだった。
人間がどうして性欲に駆られるのか、理解できなかったのだが、勇次と体験を共有して、考えが変わる。
「地球の動物が性行為を好きになるのは自然の成り行きなのだろう。異性が嫌いで性行為をしない動物など子孫を残せるはずもない。進化論を持ちださなくても分かることだ。
チョウチンアンコウはメスがオスに比べ巨大で、小さなオスはメスに出合うと、メスに付着(寄生)し、ただ交尾するための生殖器官と化す。
またカマキリのオスはメスに喰われてしまう危険を冒してでも、メスと性行動しようと近づき、体が食われていく間に、メスの卵巣に精子を送り込んでいる。これも子孫を残そうとする行為だ。
動物により性行動は様々だが、多かれ少なかれ、どのような動物にも性欲があり、人間も例外ではない。いや、知恵を持つだけ、人間の方が性欲をより意識するのかもしれない。
お前たちの性行為の感情の高まりは、本能から来るものなのだろう」
「ユージの体は、血液やリンパなどの体液を効率的に循環している。だから、ユージは性行為も他人よりも長く続けられるし、精力の復活も早い。今後、もっと体験を増やせば精力は長く持つぞ。」
「俺を、性欲魔、淫魔にでもするつもりか。性欲を抑えきれなくなれば人として終わりだ」
「まあ、そう言うな。人間は誰しも性欲を持っている。その性欲は自分の子孫を少しでも多く残したいと思うからだ。勇次も早く、子供を作った方がいい。俺はそれを手助けしたいだけだ」
「手助けしたいと言うが、お前の狙いは乗り移れる者を作りたいだけだろう」
「ああ、そうだよ。俺の一生は人間よりはるかに長い。人間の歴史と同じくらいだからな。俺はユージの子孫にしか乗り移れない。だからユージには子供を早く作って欲しいのだ」
「コーツの乗り移るために子供を作るとは、どうにも割り切れない話だ。」
「いや、俺が乗り移ることになるのは、お前が老いて、死ぬ直前の時だ。俺はそれまではユージと共に生きる。俺とユージは共同体であることを忘れてくれるな。
ユージがたくさん子供を作り、ユージの一族が繁栄することは俺の目的でもあるんだ」




