13話 梶谷勇次
勇次は順調に成長した。
物心覚えていた頃には、勇策とコーツの記憶が戻り、普通の子以上の知能を持つようになっていた。
そればかりか、勇次は5歳までの経験が運動神経に大きく影響するという考えを持っており、自ら、鍛えることを忘れなかった。
その為、歩けるようになると、すぐにボール遊びを始め、水遊びになじんでいた。
5歳になる頃には、小学生に交じりサッカーボールを追いかけまわし、25mプールを往復できるようになった。
同じ年代の子供に比べ、はるかに知能も運動も優れているようになる。
勿論、体力がないので、年上の子供たちと対等には勝負にならないが、それでも勇次はGKの位置を見て、反対側にボールを蹴ってシュートを決め、また、海軍で水連の経験があったので、足の水かきが他の子よりも上手く上級生にもついていけた。
小学校に上がると、武術に熱中する。
「刀や銃器を持つ者には敵わないが、それでも素手で対等に戦えないと、勝負にならん」
護身術と言うわけではないが、ある程度の武術を心得てないと、いざとなって後れを取る。なにより、他人と同等かそれ以上の強さを持つことが自信につながると考えた。
「誰に対しても、喧嘩で負けない自信があれば怯むことはない」
柔道、剣道なども習ったが、特に空手に熱中した。
拳一つで、相手を倒せることに魅力を感じたからだ。
実際に、上達は空手道場の師範でも驚くほどだった。
「梶谷君は高学年の者と稽古しなさい」一年余りで、低学年と一緒では上達しないと判断され、5,6年生たちと組み手を習わされた。
子供の頃の一年の違いは体力面で大きく違う。上級生はちびの勇次を小ばかにするように立ち会った。
顔や胸などに防具を着けており、高学年と言ってもまだ力が弱いので、手套が当たっても怪我などはしない。
上級生たちは思い切り、拳を繰り出す。
ところが。勇次はその拳をするりと躱す。
それならと、蹴りあげるのだが、これもからぶってしまう。
「何だ。このちび」顔を真っ赤にして、上級生は拳とケリを次々と繰り出すが、一つとして当たらない。
そして大きく蹴り上げ、足が上がってバランスが崩れた所に、勇次がちょこんと拳を突きだす。
ちびの勇次にとっては力いっぱいの突きだが、はた目から見ればちょこんとしか見えないものだ。
ただ、そんな突きでも上級生は尻もちをついていた。
3年生になる頃には、道場の小学生で相手になるものはいなくなっていた。
県大会に出ても、小学生部門で優秀な成績を収めた。
「ユージの実力だけではないぞ。俺が、ユージの血やリンパの流れを良くして上げたから、運動神経が高くなったのだ」
コーツが自慢気に語る。
確かにそれはあると、勇次も思う。
運動神経が並み以上になければ、上級生と組み手で勝つなど無理だ。
上級生の拳やケリを巧みに躱せるのは反射神経や運動神経に頼っていると感じる。
それに持久力も相当上がっている。稽古場では週一の割で、町内を一周して走ることをやらされる。
その時でも、ちびの勇次は低学年でただ一人、上級生にまじって走っていた。
「どうだ。俺がユージの肺や心臓の機能を高めているから、上級生について行けるんだ。ちっとは感謝しろ」
「それはこっちのセリフだ。私がいなければコーツはこの世にいないぞ」
お互いに言い合うのだが、互いの能力を認め、共生関係が出来上がっていた。
一方、頭脳はどうかと言うと、これも大人たちを驚かすレベルだった。
特に、記憶力と計算力では大人以上だ。
小学校に上がる前に佐藤夫婦と良く取らんゲームをした。
トランプゲームの「神経衰弱」はテーブルにカードを裏返しにおいて、一枚ごとにめくり、同じ色の同じ数字のものを当てていく。
52枚もあるカードがどこに置かれたのか、捲るまで分からない。新しいカードが捲られるたびにそのカードがなんだったのか記憶するのが重要だ。
幼い勇次はゲームがある程度進むと、全てのカードを記憶してしまい、殆ど総取りしてしまった。
計算力でも佐藤たちを驚かせた。
スーパーに一緒に買い物すると、レジで打ち出す前に、消費税込みで買い物の総額を言い当てていく。
これには佐藤夫婦ばかりか店員迄目を白黒させていた。
「俺の能力なら簡単なものよ」例によってコーツがうそぶく。
ともかくも、勇次の頭脳は並外れたものだった。
そんなことで成績は常に学年トップだ。
国語、算数など小学生レベルなら、勇策の記憶を頼らなくてもすらすら解ける。
ただ、幼稚園児の時に、勇策の口癖だった「儂」と言う言葉がつい漏れてしまうのには閉口した。
「勇次ちゃんの言葉はおかしいよ」と周りの子に言われ、慌てたものだ。
他にもうっかりすると、大人びた仕草が出てしまう。
勇次にとって、子供らしさを示すのが一番難しかったと言えよう。
ともかくも、抜群の頭の良さを発揮するようになっていた。
この結果、勇次は子供の時から勉強でもスポーツでも、年長の子と同等かそれ以上の成績を上げていた。




