第31話 強者
更新遅れてごめんなさい!
モチベは下がってないのでご安心ください!
「ここはどこなのだ父上ー?」
アリスも居なくなった事で落ち着いたのか、呑気な様子でフェニックスはそう言った。
さっきまで、散々暴れていたのに切り替えの早いやつだ。
俺は、荒れた息を整えつつ、
「大陸の南東にある小さい町だ。まぁ今は町だった場所と言うのが正しいか」
夏の真っ白な日差しを浴びながらフェニックスは呑気な様子で、
「何にもないのだ、みんなも心配してるし早く帰るのだ父上〜」
フェニックスはその長いポニーテールを振るい、また甘えるように俺に抱きつこうとしてくる。
俺はそれをいなしつつ、
「まぁ本当はそうしたいんだけど、ちょっと用事ができちゃってさ」
俺の言葉にフェニックスは目を細めて、
「何故なのだ〜、みんなの所に帰るのだ」
「フェニックス、俺は今から友達を助けに行かなければならない。悪いが南にあるカスピの森まで連れて行って欲しいんだ」
フェニックスは露骨に嫌そうな顔をして、
「また父上が帰ってこなくなったら嫌なのだー、離れたくないのだぁ〜」
「頼むフェニックス、大切な友達がピンチなんだ。連れてってほしい」
俺の言葉に、フェニックスは両手でこめかみを抱え、地団駄を踏みながら、
「う〜頭が痛いのだぁ〜、父上の役に立ちたいけど、父上の役に立ちたくないのだぁ〜、どうすれば良いのだ〜」
相変わらずリアクションが面白いな。
キャッチーで分かりやすくて。
俺は言った。
「安心しろフェニックス、絶対に帰って来るから。それに俺が呼んだらフェニックスはいつでも助けに来てくれるだろ?」
俺の言葉にフェニックスは動きを止めて、
「それはもちろんなのだ! 父上の命は私が絶対に守るのだ!」
切り替えの速さに俺は笑いそうになるのを堪えつつ、
「頼りにしてるよフェニックス。心配せずともちゃんと帰って来るから大丈夫。ミネルヴァ達にもそう伝えてくれ」
フェニックスは観念した様子で、
「父上は本当に頑固なのだ〜、けれど父上の友達は私の友達だから、無碍にできないのだ」
そう言ってフェニックスは鳥の姿へと変化した。
助けに行く友達が王宮で戦った、あのシオンだなんてフェニックスには言えないな。
フェニックスの大きな金色の羽が、夏の日差しに映える。
俺はフェニックスの背中へと乗り込む。
「カスピの森は大陸の南端だ。森のとば口で下ろしてくれ」
フェニックスは大きくうなづいて、翼をはためかす。
そして、夏の空を割いていった。
「助かったよ、フェニックス。ここからは俺ひとりで大丈夫だ。お前はニコルの城へ戻れ」
森のとば口に着く頃には、もう空が赤く色づき始めていた。
鳥の姿のフェニックスは心配そうな様子で俺の顔を見下ろし、そして顔を摺り寄せてきた。
おぉ……。
相変わらずのデカさ……。
俺はフェニックスにびびってるのを悟られないようにして、その頭を撫でてやった。
「じゃあ、行ってくる」
そして俺はその言葉と共に、森の中へと足を踏み入れる。
夕陽が木漏れ日のようにチラチラと視界に刺してきて、鬱陶しい。
少し歩くと、背後からフェニックスの羽音が聞こえた。
どうやら帰ってくれた様だな。
頭上を見上げても、木々で視界が覆われてフェニックスの姿は確認出来なかった。
アジトは森の結構奥だった気がする。
行商人が頑張って開拓したのか、道は存外悪くなく、俺はその轍に沿って早足で森の奥へと進んでいく。
「シオンは大丈夫かな」
俺はアリスの使い魔に話を振ってみた。
すると使い魔は強く輝いて、俺の顔の前でくるくるとその軌跡を描く。
大丈夫だと言ってるのかな。
俺は微笑んで、
「そうだよな、きっと大丈夫だよな」
使い魔は俺の体の周りをくるくると回って、俺を鼓舞してくれる。
結構、励ましてくれる良い奴だな。
俺は笑った。
夕陽が木の葉の隙間から降り注ぐ。
するといきなり。
「旅のお方」
「え?」
俺は声の方へ向く。
斜め前からいきなり若い女が姿を現した。
「ちょ!?」
おいおい……。
こいつは……。
俺のアホ面を見て、女はくすくすと笑う。
女は優しそうな表情で、
「いきなり話しかけてしまい申し訳ございません」
落ち着いた低い声。
俺は表情をさとられないように言った。
「い……いえ、こちらこそすみません」
俺の言葉に面前の女はおしとやかに微笑み、しかしどこか探るような視線でお辞儀をする。
俺は知っている。
この女のヤバさを。
俺はとっくりと、この美人を見る。
肩に掛かる程の長さで切り揃えた綺麗な銀髪。
耳には綺麗な歯車のようなピアスを付け、全てを見通す冷たそうなそれでいて大きな瞳。
青く丈の短いワンピースを着ているが、アトのようなゆるふわな感じではなく体のラインが見えるタイトなものだ。
そして、真っ白な長い生足に小さなパンプス。
胸のサイズは普通だが、白く細い美脚が目を引く。
ラベンダーのような良い匂いを辺りに漂わせて、何よりもその手に携えた、英知の書が象徴的であった。
そう、俺はこの女を知っている。
作中最強キャラ。
プレイヤーのトラウマ。
このゲームの裏ボス、エマだ。
アリスの使い魔も激しく揺れており、どこか怯えた様子だった為、俺は使い魔を髪の毛の中へと避難させた。
俺の焦ってる表情を見通したのかエマは、
「旅のお方、そう警戒せずとも大丈夫でございます。わたくしはただの管理人。バベルの塔の管理人をしております、エマとお呼び下さいませ」
俺は動揺に蓋をして、
「そうなんですねー、いやーいきなり出てきたんでびっくりしちゃましたよー……エマさん」
と、無難に話を合わせる。
どうやらキャラの位置付けは原作と同じのようだ。
ストーリーには何の関係もない、力試しのサイドクエストであるバベルの塔、そしてその管理人。
ただそれは名ばかりであり、その実エマは自分より強い人間を探し求めているのだ。
ゲームやってた時びっくりしたからな。
バベルの塔の最上階に行ったら、まさかのエマが居るんだもん。
しかも超絶強いし。
エマは探るような視線で俺を見て、
「旅のお方、バベルの塔で腕試しでも如何でしょう」
聡明で耳通りの良い、低い声。
その白い端正な顔に優しい夕陽が反射する。
俺は愛想良く、
「いやぁ僕弱いし、ちょっと急いでるんで大丈夫です」
「さようでございますか。またいつでもお気軽にお申し付けください。英知の書は貴方様の活躍に期待しております」
エマは深く一礼する。
うおっ。
原作通りの返しだ。
ファン歓喜。
しかし、おしとやかな感じで可愛いなエマ。
近くで見ると彫刻みたいな美貌だぜ。
エマはSSファンからの人気も高かったからな。
とりあえず殺気も感じないし、触らぬ神に祟りなしだ。
俺は歩を進める。
その瞬間。
「と、ここまでは管理人としてのわたくしの仕事でした」
戦慄が走った。
俺はその凄まじい殺気に必然的に足が止まる。
いや止めなければならないとでも言った方が良いか……。
一歩でも歩けば殺される、そんな恐怖が心の底から湧いてくる。
俺は背後へと振り返る。
エマの姿はない。
「不思議な方です。わたくしの殺気に身動きを取れる方がいるだなんて……よっぽどの死にたがりか、あるいは死に恐怖がないのか、それとも……死ぬ事に慣れてる、とでもいうのでしょうか」
ラベンダーの香り。
耳元からエマの囁きが聞こえた。
額から冷や汗が噴き出す。
落ち着け……。
地面には木の葉の影が呑気に揺れ動いている。
俺はエマの気持ちを逆撫でしない様にそのままの姿勢で、
「まっ……待ってください……。何か気に障ったのなら謝ります……」
「やはり動じておりませんね。その胆力に感服致します」
「頼みます……殺さないで下さい……急いでるんだ……」
「ふふ……急いでるから、殺さないでくれとはどういった意味合いでございましょうか」
淡々と話しはするもののエマはどこか楽しげな様子だった。
「旅のお方……いつの世も、その場の成り行きを選択出来るのは強者にしてございます」
エマは急に俺の視界の目の前に現れ、そして微笑しつつ俺の顎を優しくさする。
白く細い指先と、もう片方の手に携えた英知の書。
くそ……。
急いでるってのに。
めんどくせえ奴に絡まれた。
どうする……。
ちらちらと夕陽が視界に入り込んで鬱陶しい。
死返しの力を使えば、おそらくエマだって殺せるが、こいつは別に悪い奴じゃないからなぁ……。
あと、原作ファンとしてこいつを殺したくない。
すると俺の表情を楽しんでいたエマは急に、その大きな瞳を細め、
「して、旅のお方……いつまでその三文芝居を続けるおつもりなのでしょう」
エマは続けて、
「軋轢を拒む為に、あえて道化を演じるのは嫌いではございませんが、わたくしには通じません」
「…………」
「貴方様は強者にしてございます。このわたくしの言葉、間違いでしょうか」
試すような視線でエマは笑う。
その指先で俺の顎をなぞる。
凄まじい殺気だ。
俺は震えそうになる声を懸命に抑えエマを見返す。
「悪いが……戦いたくない……」
「申し訳ございません。強きお方……お生憎様、わたくしは貴方様と戦いたくて仕方がないのです」
夏の夕陽を浴びつつ、エマは不敵な笑みを浮かべていた。
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