第24話 月夜の戦い
皆様、あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。
長らくお待たせしてしまいすみません!
本年も変わらずに頑張って更新して行きますよ!
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昨晩と同じくまんまるな夏の満月がこのしんとした平原を照らしている。
空には夏の星々が美しく瞬いている。
平原を割くように、人工的に舗装された街道が王国までの道筋を示している。
昨夜とは異なり、湿気はあまり感じない。
さわやかな夏の夜風に体を預けると、俺はなんだか伸びをしたくなった。
「ん〜〜〜っ!」
昨晩の記憶に、まだまだ時折り気持ちが沈み込むのだけれど、この美しい世界の風景は俺の心を癒してくれる。
いずれにしても生きていなければこの今夜の風景は味わえなかったのだ。
色々と考える事はあるけれど、俺は今まだこうして生きている。
いや、生きていかなければならない。
そして最後に、この世界とシオンを救うんだ。
その目的だけは変わっていない。
どんな事があっても、変わらない。
これからも、ずっと。
「父上〜、暇なのだ〜」
フェニックスがそう言って、いきなり後ろから抱きついてきた。
豊かな胸の感触が背中越しに伝わり、思わず息が上がり、
「ちょちょ……フェニックス……当たってるって……」
「暇なのだ〜」
フェニックスが背後からじゃれてきて、余計に胸が当たる。
やっば……。
「なんじゃ、わらわの身体よりもそのおなごの身体の方が気に入ったか?」
横からミネルヴァの声が聞こえた。
…………。
恥っず……。
しかし、心が読まれるのってマジで恥ずいよな。
俺は恥ずかしさを悟られないように、
「いやぁ〜ミネルヴァ、そばにいたのなら言ってくれよ……はは……」
「ふん……しかしわらわがいるというのに、他のおなごにうつつを抜かしおって、これは一度わらわの身体をお主に刻ませた方が良いかのぉ」
そう言って、ミネルヴァは腕組みしつつ、そのたわわな二つの果実を突き出して見せる。
いやまぁ……それは願ってもない状況だけど、でもアトがいるからな……。
あと、やっぱし普通に仲間だしそういう事をしたら駄目だよな……。
俺が言葉に迷っていたからかミネルヴァは不満そうに自らの艶のあるツインテールを手の甲で払って、
「ったく、せっかく誘っておるのにまたしても理性を働かせおって。わらわとて乙女じゃ、傷つかぬ訳ではないのじゃぞ」
「いや別に傷付けたい訳じゃないんだけどさぁ……俺も大人だから色々と考えちゃうのよ……」
「八方美人な奴じゃ……」
ミネルヴァが呆れたような顔で嘆息をついた。
可愛いなぁ、ミネルヴァ。
やっぱり、一番タイプなんだよなぁ。
「主どの、前方に雷のエレメントが出現しました」
うつつを抜かしていた所、ニコルの声がした。
俺は気を引き締める。
そして懐から白狐のお面を取り出して、自分の顔に装着する。
白狐のお面、たしか運のパラメーターが上昇するんだったっけか。
「あはは、父上面白いのだ〜」
「いやフェニックス、別にこれはウケ狙いじゃないから。憲兵にバレないように、こうしてるだけだから」
そう、俺はもう憲兵達に素顔がばれているから、正体を隠す為にこうしてお面を被る事にしたのだ。
丁度、ニコルが白狐のお面を持っていた為、それを拝借する事にした。
前方を見つめると青く光る球状の物体が無数に浮いている。
雷のエレメント、想像よりもずっと数が多いな。
俺は言った。
「みんな、安全第一で戦ってくれ! くれぐれも無理をするな! 頼んだぞ!」
その俺の言葉を合図に、皆一斉に攻撃を始めた。
そして俺も懐から古びた柄を取り出して、黒刀を立ち上がらせる。
まぁ、俺にはこれしかないからな……。
愚直に黒刀で切っていくしかないよな……。
タイマンなら俺の力は最強なんだけど、こういう複数の敵の場合はちょっと持て余しちゃうよな。
魔法も使えないから、範囲攻撃とかも出来ないし……。
みんなやっぱり攻撃は魔法だよな……。
俺は気になってみんなの方を見た。
するとロザリーが、いつもの柔和な表情から一転、集中した様子で詠唱していた。
ロザリーの足元には魔法陣が浮かび上がっている。
頭に付けたピンク色のリボンが夜風に揺れている。
おぉ……ロザリー、さすが賢者。
なんだか真面目な表情のロザリーを初めて見た気がした。
真面目な顔のロザリーも可愛いな。
男の娘だけど。
詠唱が終わりロザリーが呟く。
「木の行よ、その流れと共にーーテンペスト」
え?
テンペスト?
木の行の最強クラスの魔法だ。
刹那。
「うっ……」
前方に馬鹿でかい竜巻が現れた。
ニコルが以前使ったトルネードの竜巻とは比べ物にならないレベルの竜巻だ。
マジかよ……。
アメリカに発生するレベルの奴じゃんこれ……。
「みなさーん! 巻き込まれない様に気を付けて下さいねー!」
ロザリーが呑気な様子でそう呟く。
とんでもねぇなマジで……ハハ。
ロザリーの竜巻に雷のエレメントがどんどんと飲み込まれていき、それは消失していく。
しかし、巻き込まれたものの運良く風に乗って生き延びた、雷のエレメントが頭上からこちらに向け落ちてきた。
良し!
俺はこの残党を狩る係だ!
危ねぇ、やる事見つかって良かった!
落ちて来た雷のエレメントは、地面に叩きつけられた後、腰の高さまで再度浮かび上がり近くにいた俺を目掛けて、雷の魔法放ってきた。
そうなる事を予測していた俺はその魔法を黒刀で断ち切る。
雷のエレメントは再度体を帯電させて、青く光り輝く。
その大きさはボーリング玉くらいだろうか。
青く輝く球体のその中心にはコアとなった結晶が透けて見える。
おそらくあれは金の行の結晶で、そこが急所となっているに違いない。
俺は一気に間合いを詰めて、結晶に向け黒刀を突き刺す。
ジリジリと些末な音を上げた後、雷のエレメントは消失した。
ふぅー。
なんとか倒せたぜ。
タイマンならいけそうだな。
みんなは大丈夫だろうか。
周囲を見ると、ミネルヴァが目を瞑り集中した様子で魔法を練っていた。
そして言う。
「ラグナロク」
真っ暗な夏の夜空に突如閃光が走り、爆音と共に光の柱が敵の中心に撃ち込まれる。
うわぁ……。
容赦ないな、ミネルヴァ。
てか俺もこの魔法食らったなぁ。
ミネルヴァの魔法の衝撃で、再度雷のエレメントが前方からこちらへ飛んで来た。
俺は飛んで来る雷のエレメントに狙いを定め、そして。
「おりゃ!」
コアを黒刀でひと突き。
消失する雷のエレメント。
…………。
どうよ?
見た今の?
俺、強くなってね?
絶対レベル上がってるだろ。
不謹慎ではあるものの昨夜、沢山の戦いを経たからだろうか、格段にレベルが上がってる気がして俺は、
「いやー怪我の功名とはこの事を言うーー」
「父上っ! 危ないのだ!」
え?
甘いバニラの香り。
瞬間。
「あぁぁぁっ!!」
鋭い電撃の音。
そして、フェニックスの悲鳴。
俺はすかさず背後へと振り返る。
面前には、うなだれるフェニックスとその直線上に佇む雷のエレメント。
「くそ! 油断した!」
俺はすぐに雷のエレメントとの間合いを詰め、黒刀で一蹴する。
消失するエレメント。
フェニックス……俺を守ってくれたのか。
俺なんて別に死んでも大丈夫だから、そんな事しなくても良いのに……。
俺は急いで、フェニックスを抱える。
「大丈夫か!? フェニックス!」
「痛いのだ……痺れるのだ……」
様子から察するに、意識はあるけれど決してダメージは小さくない。
それに雷の魔法を食らったからだろう、痺れの症状も現れている。
俺は言った。
「すまないフェニックス……俺を庇ってくれたんだな……」
「父上に……痛い思いさせたくなかったのだ……」
「俺は良いんだよ……そういうの慣れてるし、俺には死返しがあるって教えたろ?」
「ごめんなさいなのだ……勝手に身体が動いたのだ……」
どんだけ良い奴なんだよ、フェニックス……。
健気すぎるだろ……。
畜生。
しかしどうする。
痺れの状態異常なんてどうやってーー
「どうしたんですかー?」
目の前には大きな瞳をパチクリさせて、心配そうにこちらを覗き込むロザリーがいた。
大きな頭のリボンが呑気に可愛く揺れる。
あぁ……。
そうだった。
別に焦らなくても良いんだった。
ここに最強の回復師がいる事を忘れてた……。
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