第23話 前進
読者の皆様、長らくお待たせしました。
毎度の事、更新遅くてすみません泣
「みんなに言わなければならない事がある」
あれから、アトと共に帰ってきた俺は早速みんなを集めてそう言った。
ミネルヴァを除いたみんなが緊張した面持ちで俺の言葉を待っている。
ミネルヴァはもう分かっているのか、ひとりでに微笑みながらうんうんとうなづいている。
便利な能力だな、人の心が読めるって本当に。
そして、俺は言った。
「俺は昨晩、王国の国王を殺した。今やもう大罪人の身だ」
ニコルもロザリーも途端、声には出さなかったものの顔色が変わり、事の重大さを十分理解しているようだった。
俺は更に続ける。
「今後俺の身は、王国の憲兵達に狙われる事だろう。そして勿論この先、俺と一緒にいるお前らにもその危険が及ぶ事が予想される」
俺の言葉に、ロザリーが不思議そうな顔で言った。
「死神ちゃん……もしかして、ロザリーの事を心配してくれてるんですか?」
俺はうなづき、言った。
「あぁ、そうだ……だから俺と共にいたくない奴はーー」
その瞬間、ロザリーは割り入って、
「自惚れないで下さいっ死神ちゃん! 前にも言いましたけど、ロザリーはそんなに弱くないです! この中じゃ一番強いくらいです! それに危険になるから死神ちゃんから離れた方が良いなんて無責任です! ついこないだ連れて来ておいて何ですかそれは! おでこにチョップしますよ! ひとりで居るのは危険だと言ったのは死神ちゃんです!」
ロザリーが頬を膨らまし、ゆるふわな緑色の髪の毛を振って怒っている。
途端な事過ぎて、少し面白かった。
あと怒ってるロザリーが可愛かった。
すると、怒ってるロザリーを横目にニコルが柔かな表情で言う。
「主どの、そもそもの事をお尋ねしますが、おそらくまた教会の者に操られていたのですよね?」
「あぁ、そうだ……ただ途中、俺も死返しを使ってしまって、それも一因にはなってる」
「主どの、偉そうにこんな事を言うのは失礼かも知れませんが、生きていく上で過去を割り切る事は必要ですよ。私から言わせれば、主どのは何も悪くありません」
「割り切る……?」
ニコルは微笑んで、
「はい、昨晩あの場所に居たのは主どのの意思ではありません。王を殺したのもあくまでも結果であり、そこに主どのの意思はありません。つまり仕方がなかったのです。体が制御出来ていれば、主どのはそんな事しませんから。私がサイファーの命令で大魔法に魔力を注ぎ込み、それにより数多の村人を殺してしまった事と同じです」
「ニコル……」
そうか、ニコルもあの大魔法の件、言わなかっただけで、ずっと心の片隅にはあったんだ。
てっきり何にも感じてないのかと思っていたけれど。
きっとこれはニコルなりに俺を励ましてくれているんだろう。
俺は言う。
「みんな、良いのか? 俺と一緒に居たら下手したら殺されるかもしれないんだぞ」
刹那。
「いたっ!」
額に衝撃がはしる。
ロザリーにチョップされた。
「自惚れないで下さい! さっきも言いましたっ! ミネルヴァちゃんも居るしロザリーはここに居るのが一番安全なのですよ、それに死神ちゃんと離れちゃったら、あの重い気配が味わえなくなっちゃうじゃないですかー!」
ヤク中の人間の考えだな……。
ニコルも俺の言葉に動じず、軽やかに言った。
「失礼ですが私が普段、何と貴方の事を呼んでおりましたか。その言葉から考えれば、自ずと分かることではありませんか」
ニコル……。
かっこよすぎるよ、マジで……。
キザすぎるぜこいつ。
俺が女の子だったら、捧げちゃうな。
なんてニコルの男気に惚れ込んでいた所、途端に横から強く抱きつかれた。
「うおっ!」
オレンジ色の長い髪。
甘い上品なバニラの香り。
「父上と離れるのなんて嫌なのだっ! ずっとずっと一緒に生きるのだ!」
フェニックスがそんな事を呟いて俺の腕に顔を埋める。
「ありがとうなフェニックス、助かるよ」
俺はフェニックスの頭を撫でてやった。
すると、フェニックスの顔が綻んでいく。
「父上……」
と、その言葉と共にフェニックスが突然顔を近づけて、キスしようとしてきた。
「ちょちょ……タンマタンマ! キスはまずいって! てかいきなり過ぎ!」
俺は顔を背けてそれをかわす。
フェニックスは少し驚いた様子で言う。
「何故なのだ〜! 口付けは我ら種族の親愛の証なのだ」
「いやいや、それは鳥の姿での話だろ? 人間の姿でそれをやられると色々と違う意味が出て来ちゃうから!」
俺のツッコミにフェニックスは少ししょげた様子で、
「難しいのだ……父上と口付けしたかったのだ……」
「まぁ、口付けは難しいけど……ちゃんと思いは受け取ったから心配しないでさ……」
正直、めっちゃ口付けして欲しいけど、色々あるからな。
てかフェニックスって自分の可愛さに気付いてないタイプか?
いや、やめようこれ以上考えるのは。
なぜなら今、アトがケダモノを見るような目付きで俺を見ているから。
すると、ミネルヴァが口を開いた。
「結局の所、お主の元から離れる者など、ここにはおらぬようじゃな」
ミネルヴァは上機嫌な声色だった。
俺は言う。
「あぁ、なんて言うか不思議な気持ちだよ。自分自身に踏ん切りがついたというか、もうなるようになれみたいなさ」
俺の言葉にミネルヴァは笑い、
「良い事じゃ、お主が皆に愛される人間で良かったな」
まぁ、物語的にはがっつり悪役だけどな……はは。
和やかな雰囲気が流れる中、ニコルが口を開く。
「して、主どの。今後はどのような動きを考えているのでしょうか?」
「あぁ、そうだな。ニコル、今日は何日だ?」
「15日です」
ビンゴだ。
「よし、今晩だ。今晩みんなでデスピア街道に行く」
アトが少し戸惑った様子で口を開く。
「街道? 街道なんて何にもないじゃん」
俺は言った。
「普段はな、けど今晩だけは違うんだよ」
ニコルが目を細めている。
「主どの、何かお気付きなのですか?」
「ニコル、そういえば最近ずっと晴れの日が続いてるとは思わないか?」
俺の言葉に、ニコルは察したようだ。
「なるほど、そう言う事ですか」
アトが不思議そうな顔をして言った。
「えっ、どう言う事? 全く意味が分かんないんだけど」
アトの言葉にミネルヴァが腕組みをしつつ、返した。
「雷のエレメントの出現じゃな、いわゆる天災じゃ」
さすがミネルヴァ。
ドンピシャだ。
そう、原作では今晩、雷のエレメントがデスピア街道に出現し、王国へと進路を取るのだが、シオン達がそれを止めに入るのだ。
しかし今、この世界の王国はそれどころじゃないだろう。
だから俺達が雷のエレメントを倒す。
王国に大災害を招かない様に俺たちで王国を守るのだ。
憲兵達も、まだ落ち着いて対応出来る体制が整ってはないだろう。
せめてもの罪滅ぼしとしてまずはそのくらいの事をしよう。
これくらいの事しか出来ないとも言えるが。
アトがキョロキョロとした、様子でみんなを見渡して、
「雷のエレメントって、何?」
アトの間の抜けた質問に、ロザリーが答える。
「強いて言えば、自我のない精霊さんですねー! 自然界の行の流れの中で偶発的に発生するんですよー! ここ最近はずっと晴れてて大きい入道雲がちらほら出来てましたからその影響ですねー!自我がないので、闇雲に周囲に魔法を放ちながら移動するので危ないですよー、古からの天災の一種です!」
ロザリーの丁寧な説明にアトは言う。
「えっ……怖っ、超怖いじゃんそれ」
ギャルみたいな返しするなこいつ。
するとニコルが横から入り、
「確かにここ最近、エレメントも見てなかったですし、今晩、発生するとなると結構な規模が予想されます、用心した方が良いでしょう」
ニコルの忠告に俺はうなづき、
「あぁ気をつけないとな、ガンガンいこうぜじゃなくて、いのちだいじにで立ち回らないとな!」
するとニコルが言う。
「そうですね、主どの」
悪気のないボケ殺しきた。
まぁ、伝わるとは思ってなかったけど、やっぱなんか寂しいな。
まぁ良いや。
俺は気持ちを切り替えて、言った。
「じゃあ、今晩出発するぞ! 場所は北のデスピア街道だ!」
ここまで読んで頂き誠にありがとうございます!
ブクマや評価や感想など貰えたら嬉しいです!
次回もお楽しみに!




