第22話 決意
また1週間以上空いてしまいました泣
お待たせしてしまい本当に申し訳ないです。
遅筆なのを直したいなぁ泣
ミネルヴァが真っ直ぐに俺の顔を見ている。
俺は何も言葉を返す事が出来ない。
「全くもって不愉快な奴じゃ……自分が居なくなれば全てが解決すると思っておる」
ミネルヴァは苛立った様子でそう呟いた。
ミネルヴァは止まらない。
「お主が忘れておるかも知れぬから改めて言う。わらわが今ここにいるのはお主のおかげじゃ。お主のおかげなのじゃ。今のお主が居なければわらわはここには存在せん」
…………。
ミネルヴァの言葉にみんなが耳を傾けている。
「皆、お主が好きだから共にここに居て心配しているのだ。お主に辛い事が起きたのは分かる。しかし、それでお主が居なくなれば、それ以上に皆が悲しむ」
みんなの視線が俺に向けられる。
ミネルヴァは言った。
「お主がこの世界でしてきた事は全て間違った事のみだったのか? わらわは何故ここにおるのじゃ。自暴自棄になってしまうのも分かるが一度冷静になれ」
ミネルヴァの想いを受けた俺は言った。
「ありがとう、ミネルヴァ。少し外に出てくる」
俺はみんなの視線に背を向けて、外へと向かう。
ミネルヴァは何も言葉を発する事はなかった。
「ここは、いつも変わらないな」
城を出た俺はひとりで、近くの忘らるる泉に来ていた。
面前にある泉の水は透明度が高く、水面には反射した木々が写っており、しんとした空気が辺りを支配している。
夏の日射しは確かに降り注いでいるのに、何故か暑さを感じない。
この前と変わらない景色がここにはあった。
俺は大きく伸びをして、青空に手を伸ばす。
そして大きく深呼吸をし、夏の空気を肺一杯に取り込む。
「ここは変わらないな」
まるで時が止まっているような静寂に満ちている。
以前来た時は確か、アリスも来たんだっけか。
そう考えると、もうここもあまり安全ではないのかも知れない。
泉のほとりを歩くと、またしても古びた柄が落ちていた。
昨晩のシオンとの戦いで失ってもいるし、俺はそれを拾い上げる。
そして、黒刀を立ち上がらせてみた。
「……っ」
右手に電流の様な刺激が流れ、湧き上がる黒い刀身。
俺はこれで昨晩、何人もの人間を殺した。
泉にはこの黒刀の焼き付く様な音のみがこだましている。
俺はこの黒刀を太陽にかざしてみた。
しかし、その漆黒は降り注ぐ夏の日差しの一切を遮断する。
「…………」
ミネルヴァは俺に生きろと言ってくれた。
そうだ。
確かに、俺はミネルヴァの命を救った。
原作では死んでいたミネルヴァが存在しているのは確かに俺がいたからだろう。
しかし、一方で。
国王とバルフレアが殺されるイベントも原作ではまた存在しなかった。
俺がこの世界に存在しているからなのか、あるいはミネルヴァを助けてしまったからなのか定かでは無いが、原作のシナリオに綻びが生じているのだ。
王国の民はその象徴を失った事で悲しんでいるに違いない。
それもこれも、全て俺がやったんだ。
あるいは俺じゃない、操られていたんだとシオンやアリスに言ったら、信じてくれるだろうか。
そんなはずはないだろう。
相手はただの人間では無い、国王だ。
俺は国王を殺してしまったんだ。
シオンもアリスもこの先、俺を見つける事に躍起になるだろう。
俺は最早完全にあいつらの敵になってしまった。
するとどうなる。
俺の仲間達とシオン達が接触してしまったら、争ってしまうのではないか。
ミネルヴァ達は俺を守る為に戦い、シオンはカタキを討つために戦う。
原作では、仲間だったミネルヴァとシオンが争う、そんな未来が予想される。
俺だって馬鹿じゃない。
ミネルヴァには生きろと言われたが、こうして考えると、やはり俺が存在しない事が最善だと思えてきてしまう。
それに、まだそんな事は起きてはいないが、俺だって、教会の連中に操られてアトやニコル、ミネルヴァ達を襲ってしまうかも分からないのだ。
この右手の呪印は絶対だ。
とてもじゃないが抗う事などできやしない。
もしも、そんな事態になってしまっては俺は俺を許せそうにない。
そうなると解決策はなんだ。
リスクがあるのなら、そのリスクを潰してしまえば良い。
至極当然の考え方だ。
リスクとは何か。
「ははっ……」
笑えた。
まさしく俺そのものだからだ。
やはり俺がこの世界にいる事だからだ。
どいつもこいつも俺には勿体ない程の良い仲間だ。
アトもニコルも、ロザリーもミネルヴァもフェニックスも。
誰一人として俺は失いたくない。
誰かを失うなんて、有り得ない。
考えたくもない。
いつだって俺はそれを考えて行動してきた。
それが今、俺がこの世界に存在する事で、そうなる恐れが高まるのなら、
「俺はやっぱり、いない方が良いのかも知れない」
まともに考えられているだろうか。
間違っているのだろうか。
ミネルヴァの言った通り、俺は冷静じゃないのだろうか。
分からない。
しかし、この先、シオンとアリスが全力で俺を殺しに来る事は確かだ。
万が一、死返しでもしてしまったら普通の人間じゃない俺は、アリス達にも迷惑を掛けてしまう。
それも耐えられない。
それにミネルヴァ達をこの先巻き込まないでいられる保証などどこにもない。
間違ってないはずだ。
そして今、この世界のシナリオに変化が起きている。
これは俺の知っているSS9のシナリオでは無い。
もしかしたら、この先シオンが助かるエンディングが待ちわびているのかも知れない。
そうだとしたら、そんなシナリオに持ち込めた俺は、シオンを救った事になるのではないか。
もしそうだとしたら、それはどれほどに誇らしい事だろうか。
あるいはまた、俺がこの世界にいる事で最期、シオンを殺してしまう事態にもなりかねない。
現状では、その危険性の方がはるかに高いと言わざるを得ない。
思い返してみろ。
もう二度もシオンに殺されかけているのだ。
万が一、シオンに殺されてしまって死返しが発動してしまっては、俺はこの世界を壊してしまう事に他ならない。
やはり、間違っていない。
俺がこの世界にいない事が最善なんだ。
俺は冷静に考えられている。
「ミネルヴァ……悪いが約束は守れそうにない」
俺は、黒刀を自分の首筋に向ける。
夏の呑気な太陽がやけに低く見えた。
水面に波面は見当たらない。
聞こえるのは、俺の上擦った息遣いのみだ。
ハハ……。
怖いな……。
しかしやるしかない。
大好きなこの世界のためだ。
俺は大きく息を吸い込んで、腕に力を入れる。
その瞬間ーー
「お兄ちゃん」
俺は手を止めた。
そして、後ろへと向く。
轍の方からアトが出てきた。
はは……こりゃ見られちゃったな……。
アトは俺の方へと、近づいてくる。
「お兄ちゃん、やっぱり……」
それは意外にも、冷静な声色だった。
見られたからにはもう言い逃れは出来ないか。
俺は言った。
「俺に幻滅したか? アト」
てっきりうなづくものと思っていた所、アトは首を横に振った。
「ううん。別に幻滅したりはしないよ。私はミネルヴァとは違うから」
アトの綺麗な桃色のボブカットが陽の光に反射している。
「俺が何をしようとしてるか分かってて言ってるのか?」
「うん」
アトは何故か堂々とした様子で俺の問いに答える。
「それがお兄ちゃんが考え出した結論なら私は止めはしないよ。お兄ちゃんが誰よりも悩んで考えている事、私知ってるから」
俺は返す言葉が浮かばなかった。
まさか、肯定されるとは思わなかったから。
俺が黙っているのを察したのかアトは言う。
「ただ、これだけは伝えておく。お兄ちゃんがこの世界からいなくなるんだったら、私も同じようにするから」
「っおい、それはーー」
俺の言葉を遮ってアトは言う。
「私さー、お兄ちゃんと違って、この世界の事が大っ嫌いなんだよねー」
アトは笑いながらそんな事を話す。
何故だか分からないが迫力があり俺は自然と言葉が止まった。
「だってさ、ムカつくじゃんみんな。半妖だからって変な目で見てきて、こっちは生まれてきたくて生まれた訳でもないのにさ」
「…………」
「親も兄弟もいないし、半妖だから下賤な使用人の仕事しかないし、盗賊になる程のバカでもないし……つくづく思ってたの、こんな世界滅びちゃえば良いのにって」
「…………」
「そんな不幸な私にも、他の幸せな人と同じ感受性を与えられるのって酷だよなってずっと思ってた、だって辛いとか虚しいとか感じなければへっちゃらじゃんそんなの、本当、神様は馬鹿だなって」
「…………」
「でも、お兄ちゃんと会えて私は全てが変わった。初めて私を人として扱ってくれた。そう思った時、この世界の事が少しだけ好きに思えた。自分に感受性がある事にありがたみを感じた」
アトは吹っ切れたように淡々と言葉を紡いでいく。
「でも今、そんな私に希望を与えてくれたお兄ちゃんが辛くて、この世界からいなくなろうとしているのなら、私もこんな世界にはいたくない。お兄ちゃんのいない世界なんて興味ないし、お兄ちゃんを悲しませる世界なんて私にはいらない」
「アト……」
「お兄ちゃんとも付き合いが長いから、何となく分かってきたんだけど、きっとお兄ちゃんは多分、昔からこの世界の事と、みんなの事を知ってるんだよね?」
「……あぁ」
もう隠しても仕方ないか。
「それでね、その元々知ってる世界の中に私はいる? きっといないんじゃない?」
そう言って、アトは笑って見せた。
「…………」
「よく思うんだー、みんなお兄ちゃんとなんらかの形で繋がりがあるのに、私だけは何にもないんだもん。あとお兄ちゃんは他のみんなの事は詳しく知ってるけれど、私の事だけは知らない」
「アト……」
「ううん、違うよ、それが嬉しいの。お兄ちゃんと何のしがらみもなく純粋に付き合えるのは私だけなんだって思えるから」
アトは微笑んで見せた。
そして、言う。
「だから私は、大好きなお兄ちゃんの出した結論なら間違ってないと思うし、止めもしない。そしてお兄ちゃんがそうするのなら私もお兄ちゃんを追ってこの世界からいなくなる、これが私の答え。大っ嫌いなこの世界への唯一の抵抗。これをお兄ちゃんに伝えたかったの」
アトは喋り疲れたのか、泉のほとりにしゃがみ込んだ。
俺は言った。
「じゃあ俺が自決したらアトも死ぬのか」
アトは泉の水面を見つめながら言う。
「うん、そうだよ。でも大丈夫、私はお兄ちゃんの知ってる世界にはいなかったと思うし、多分死んでもこの世界になんの影響もないから安心して」
そんなアトの言葉をいや、その決意を聞いて俺はなんだか、
「はははははっ! ひひっ! あっはっはっは!」
笑えてしまった。
一つは、アトがそこまで深く考えていた事。
一つは、俺が死んだらアトも死ぬと言っている事。
そして最後は、だとしたらこの世界で生きて戦うしか選択肢がなくなってしまった事。
頭の悪い俺はこんな状況を整理出来ず、笑いが込み上げてきてしまった。
だけど。
「そうだよな、こっちの方が俺らしいよな……あははっ」
アトが怪訝な顔でこちらを見て言った。
「なにいきなり……怖っ……」
「ごめんこめんっ! いや面白くて! だってこの先、超大変なんだもんまじで!」
「はぁ?」
「いやいや、アトの所為だから! アトが死ぬとか言ってくるからだそ!」
「いや……だから私の事は気にしなくて良いって」
「アト、お前忘れてるかも知れないから言っとくけど、俺はお前の雇い主だからな! 社長は従業員の飯を食わす責務があるんだよ」
アトは呆れた様な顔で俺を見て、
「何の話をしてるの……? マジで……、人が折角本心を語ってるのにさ……」
「だから、これが俺の本心だよ! 俺はお前を死なさせない! うちはホワイト企業だからな!」
「はっ? ホワイト企業?」
「あぁ、アト……ありがとうな、おかげでスッキリした」
俺は黒刀を消失させ古びた柄を懐に入れた。
俺は泉の水面を見つめつつ、
「俺はそんな事はないと言いつつ、結局どこかで自分が主人公だと思い込んでいたのかも知れない……でもアトと話して吹っ切れたよ。改めて言う、俺はこの世界の主人公でもなんでもねぇ! 最初からずっと悪役だったんだ! 悪役のくせに主人公みたいにカッコつけた真似するのはご法度だよな!」
アトは目を丸くして、
「はい?」
「悪役でも良いさ、主人公じゃなくても良いさ、ただ最後は世界を救う。シオンを救う。それが俺のSS9だ。足掻くぜ俺は……この世界で最後まで、アトがいるこの世界でな……」
「なんか、ひとりでテンション上がっててきもい……」
「アト」
「な、なに?」
「助けられたよ。これからも一緒に過ごしていこうな、この大っ嫌いな世界で」
俺の言葉にアトは頬を赤く染め上げて、黙って水面を見つめつつも、小さくコクリとうなづいた。
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