第21話 悪役
またも一週間以上空いてしまい申し訳ありません泣
決して執筆意欲は衰えていませんのでそこは心配しないでください!
読者の方々お待たせしました!
フェニックスは前方へと手のひらをかざし呟いた。
「転生の炎」
凄まじい轟音と共に、面前に真っ赤な炎が壁のように立ち上がる。
シオンは舌打ちをしつつ、
「くそっ、逃げる気か!」
と悪態をついた。
アリスは、思案した顔のまま俺を見て動く様子がない。
すると、フェニックスが途端に俺の方を振り向いて、
「父上、逃げるのだ!」
と、すかさず俺をお姫様抱っこのように担いで、頭上のスデイが開けた、ステンドグラスの割れた穴の方へとジャンプした。
目の前でフェニックスの大きな形の良い胸が勢いよく揺れている。
って、そんな事は考えない。
王宮の内部から屋外の屋根へと抜け出したフェニックスは大きな満月の下、その勢いで俺を担いだまま夜空へ飛び出とうとする。
俺は言う。
「大丈夫か? フェニックス」
「安心するのだ父上! 私はそんなに弱くないのだ!」
フェニックスは可愛い声でそんな言葉を返し、空へと飛び出した。
すげぇ、飛んでる。
翼もないのに、飛んでるよ。
ついでに甘いバニラの様な良い匂いもした。
可愛いし、頼りになるなぁフェニックス。
鳥の姿の時はデカくて怖かったけど。
すると、地上から声が聞こえる。
「いたぞ、奴らだ!」
声の方を向くと、王都の魔道士達が地上から魔法を放って来た。
フェニックスは言う。
「父上! しっかり捕まってるのだ!」
フェニックスは勢い良く体を逸らしたりくねらせたりして、魔法を避ける。
フェニックスが抱き抱えてはくれているものの、急激な体勢の変化が俺に襲い掛かる。
そして、何度も何度も俺の体に、そして顔にフェニックスのその豊満な果実が当たってしまう。
そう、これは至って仕方ない事なのだ。
命には代えられないのだから。
サイズがミネルヴァまではいかない事もあってか、果実の張りはこちらに部があるようだ。
そんな事を思っていると、
「父上! あと少しで王都を抜けるのだ!」
フェニックスの懸命な声色が響く。
俺は努めて平静な声で、言う。
「ああ! このままニコルの城まで戻れるか、フェニックス」
「任せるのだ! 父上の命令は絶対なのだ!」
フェニックスは嬉しそうな様子でそう言った。
そして俺達は満月の光が包む、真夏の夜空を切り裂いていった。
「結局、あまり眠れなかったな……」
外を見ると丁度、正午くらいだろうか。
変わらずに窓の外からはひよどりの鳴き声が聞こえる。
俺は自室のベッドから体を起こした。
昨晩、真夜中に帰ってきた俺はもう、クタクタでみんなに色々な事を聞かれたが、とりあえず休ませてもらった。
一度寝れば考えもまとまると思ったし。
何よりも昨晩のあの状態でみんなの質問を受ける事が怖かった。
しかし、満足のいく睡眠が取れたかと言えば、全く取れなかった。
体は寝てるのに、意識はずっと殺戮をした記憶が反芻していた。
あの殺戮の瞬間の断末魔が夜通し頭の中を駆け巡っていた。
そう俺は人を殺した。
何人も。
罪のない人を。
そして、数多の人間から敬われている国王と近衛兵隊長も殺した。
国王の首を落とした感触は今も鮮明に手のひらに残っており思い出すだけで、気持ちが悪くなる。
俺はただの殺戮者だ。
穏やかな夏風が部屋の中に入り込む。
優しい木々の匂いが鼻を抜ける。
この世界は美しい。
変わらずに俺の大好きな世界だ。
俺の大好きなシオンにアリスもいる。
しかし、そんな世界を俺は変えてしまった。
原作では、王もバルフレアも襲撃を受ける事はあっても死ぬ事はなかった。
バルフレアだ。
俺がバルフレアを死返しで殺してしまったが為に、全てが狂ってしまった。
バルフレアがやられなければ国王も殺されずに済んだはずだ。
そう、俺がこの世界にいる事によって、シオンとアリスを傷つけてしまったのだ。
信じていたのに……。
と、言っていた昨晩のアリスの台詞が頭の中で蘇る。
そして、シオンが俺を本気で殺そうとしてきた事も併せて蘇る。
認めざるを得ない。
そう俺は最早、敵だった。
かなりの悪役だ。
敵意のない人間も殺してしまったこの手はもう完全に汚れている。
ただの人殺しと同義だ。
俺は自分の右手を見る。
六芒星に竜の紋章。
解放教会の呪印だ。
俺はこれから逃れられない。
ましてや、こんな厄介な死返しなんて力もあるせいで余計にタチが悪い。
大人しく殺される事も出来やしないのだから。
正直な所、昨日俺はシオンに殺されるべきであった。
シオンの事を思うのなら。
しかし、この死返しのせいで。
俺は自分の死も満足に選択できない。
だから、これ以上この世界に迷惑を掛けてしまうのならば……。
自決……。
これが最善なのだろうか……。
ミネルヴァに言えば、封印してくれるだろうが、封印が解かれるかも分からない。
この世界をこれ以上、俺の手でなんて……。
外は夏風がそよめき、木々がゆっくりと揺れている。
この世界は美しい。
俺の大好きな世界だ。
俺は俺の大好きなこの世界を壊したくはない……。
きっと……こうするのが、最善の選択なんだろうな。
俺は決めた。
そして、ベッドから足を下ろし、立ち上がろうとしたその瞬間、いきなり部屋の扉が開けられた。
「あれれ! 起きたようですね、死神ちゃん」
ロザリーが様子を見に部屋に入ってきた。
俺は言葉を返す。
「おー、ロザリー、おはよう」
ロザリーは俺の顔をじっと見ている。
「昨晩は色々大変だったみたいですね、頑張って偉いですよ、撫でてあげます」
ロザリーがベッドに座る俺の頭をゆっくりと撫でた。
俺はいつも通りに返事をした。
「まぁ、大変だったけどフェニックスがいたから何とかなったよ」
「無契約召喚なんて凄いですよねー! 死神ちゃんさすがです! ロザリーもびっくりしちゃいましたよー」
「まぁ、ほら俺、色々違うからその影響でしょ多分、もう自分でも大体わかるし」
「まぁまぁ、そう謙遜しなさらずにー! 下で皆さん心配して待ってますよ! 行きましょう!」
ロザリーが俺の手を引き、俺は引かれるがまま部屋を出て、階段を降りる。
まぁ、みんな心配しているし顔くらいは見せた方が良いか。
一階のいつもの広間に行くと、アト、ニコル、ミネルヴァとみんな揃っていた。
併せて昨日、助けてくれたフェニックスもいた。
「お兄ちゃん!」
「主どの!」
アトとニコルがすぐさま俺に気付く。
俺は心配させないように笑顔で、
「おー二人とも、悪いな心配掛けちゃってさ! 一晩寝たらこの通り回復したぜ」
俺は微笑んで見せた。
アトもニコルも俺の笑顔にはつられず、
「本当に大丈夫なの? 昨日のお兄ちゃん、なんだか疲れきってて思い悩んでた様子だった……」
「アト様の言う通りです。昨晩の主どの、ただ事ではなかった様子でしたよ」
何も知らないアトとニコルは俺に心配な表情を向ける。
やめてくれ……。
俺に気遣いするのは……。
俺はもう、お前らと一緒に居て良い人間じゃないんだから。
俺はなるべくいつも通りに、
「大丈夫だって! また明日からみんなで頑張ってこうぜ」
俺が微笑みを向けてもアトとニコルの表情は和らぐ事はなかった。
フェニックスも横から入ってきて、
「父上、顔色があんまり良くない様子なのだ……、私には無理してるのが分かるのだ……」
泣きそうな表情でフェニックスはそう言った。
俺は慌てて、フェニックスに言う。
「いやいや、みんな大袈裟だっての! マジで全然大丈夫だから!」
俺はみんなに精一杯の笑顔を向ける。
これ以上迷惑を掛けないように。
すると、ずっと口を開かなかったミネルヴァが腕を組みつつ、そっと口を開いた。
「お主の芝居がヘタクソ過ぎてのぉ、みんな不安感が拭えぬのじゃ、お主の大根芝居に騙されるほど、皆馬鹿ではないぞ」
「…………」
途端、俺は言葉が出て来なかったが慌てて言った。
「ミネルヴァにそう言われちゃったら、さすがにきついなぁ……はは……」
ミネルヴァは冷静な表情で俺を見据えたまま、
「何故、そんなにも一人で抱え込む、わらわ達には、相談できないのか?」
そんな言葉を平然と言うミネルヴァにひどく腹が立った。
ミネルヴァ……。
お前は俺の心の内を読んで、とうに全てを察しているはずなのに。
俺は言った。
「悪いミネルヴァ……ひとりにさせて欲しい……」
「良いじゃろうが、ひとつだけ条件がある」
「条件……?」
「ああ、今お主の頭の中に浮かんでおる、その選択だけはしないと誓え」
と、ミネルヴァは少し苛立った様な声色で俺の顔を見つめていた。
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