第20話 賭け
更新休んでてすみません泣
普通に仕事が忙しくて泣
読者の方々お待たせしました。
「貴様は……」
「貴方は……」
背後へと振り返るとそこには、この物語の主人公たる、シオン・カーヴァインと、メインヒロインたる、アリス・エオニスの二人が並んでいた。
足下には、俺がやった国王の首がごろんと転がっている。
はは……まさしく悪役の俺に相応しい再会だな……。
誰よりも見られたくなかった二人に、この有り様を見られてしまった。
アリスは立ち尽くす俺を見つめて言った。
「何故……こんな事を……」
俺は答えない。
いや、体を縛られて答えられない。
アリスは真摯な瞳を俺に向けたまま更に言う。
「その黒い剣は……具現化した死の気配……ですか、やはりその力を扱えたのですね」
アリスの言葉にシオンが横から言う。
「アリス……もう良い、今はこいつらを殺す事だけを考えろ、特にあの黒い剣の男だけは絶対に逃すな……」
そう言ってシオンは俺を睨みつける。
すると背後から、スデイの声が聞こえる。
「ヒッヒッヒ、敵の本陣で俺達がのんびりとそんな喧嘩を買うと思うかぁ?」
そう言ってスデイは、自分の影を伸ばして、己の身体と俺の体を影で包もうとする。
「ヒッヒッ……もう目標は果たしたんだ、外のマルコもどうやらもうトンズラしたようだしな……あばよ、憲兵共」
逃げるようだな……。
なんだろう。
心なしか、安心している自分がいた。
決まってる。
今の状態で、アリスとシオンに向き合わず済んだからだろう。
悪役の俺はこいつらと会わない方が良い。
そうして、スデイの影が俺の視界を隔てる。
その瞬間、アリスの声が聞こえた。
「汝が持つ破壊の諸手にて、その繋がりを断て」
なっ……。
その詠唱はアモン……。
突然、周囲に轟音が響き渡る。
スデイの声が聞こえる。
「ヒヒ……おいおい、俺の影が……」
包もうとしていた影が綻びていく。
くそ……。
アリスか……。
どうすれば良い……?
影の綻びが均され、消えていく。
視界が開けると、スデイが帯を引いた大きな白い光の手に追いかけられていた。
召喚獣アモンの腕だ。
スデイは少し顔を焦らせつつ、
「ヒヒ……何をしたか知らねぇが、魔力が使えねぇ様だな……くそ、悪りぃが黒刀の信者……ここでお互い解散の様だ、生きてたらまた仲良くしてくれよ」
スデイはそう言って、頭上のステンドグラスを突き破り、外へと逃走した。
割れたステンドグラスの破片が玉座の間に降り注ぐ。
スデイが遠くに逃げたからなのか、体の縛りが解けた。
シオンとアリスが俺を見据えている。
一番、最悪な展開だな。
アリスが、淡々と言葉を紡ぐ。
「信じていたのに……」
俺はアリスのセリフに言葉を返さない。
弁明するべきかとも思ったが、この状況で他に何かを言っても、無駄だと思った。
傍には、国王の首も、バルフレアの亡骸も転がっているのだ。
操られていようがいまいが、俺が殺した事は事実であり言い訳などできやしない。
…………。
二人の視線がきつかった。
誰よりも幸せにしたかったシオンとアリスが今、俺に憎悪と幻滅の顔を向ける。
俺はこの世界で何をしているのだろう。
こんな状況でも、俺の持つ黒刀はその刀身を冴えたまま保持している。
割れたステンドグラスの向こうには、夏の満月が輝いている。
こんな状況でもそれは変わらずに綺麗だと感じた。
そして、シオンの声が聞こえる。
「アリス、下がっていろ。こいつは俺がやる。いや、俺がやらなければならない」
シオンが身構える。
逃げ切れるだろうか。
いや、無理だろう。
俺程度の力では。
この二人になんて、叶うはずがない。
しかし、シオンに殺される訳にもいかない。
死返しの力は俺が望まなければ発生しないものだと考えてはいるが、それでも発動しないとは限らない。
自分の能力をよく分かっていない以上、シオンに殺されるのは危険だ。
シオンの命まで奪ってしまったら、俺はもう。
これ以上、俺の大好きなこの世界に迷惑を掛けられない。
シオンにはまだ生きて貰わなければならない。
この物語の最期がどうだとか、そんな事なんかより、今はまだ絶対に生きてて貰わなければダメなんだ。
でなければ、俺の大好きなこの世界が滅ぶ道しかなくなってしまう。
そんな事態にさせてはダメだ。
他でもない俺の手でなんて。
何よりも大好きなこの世界を俺の手で終わらせる事なんて、絶対に。
絶対に……。
俺は、黒刀を構える。
シオンが言う。
「やる気になった様だな……肉片にしてやる……」
俺は深く深呼吸をした。
シオンが目にも留まらぬ速さで突進してきた。
俺は間一髪で、その切先を黒刀で弾く。
俺は止まらずに、シオンに攻撃を仕掛ける。
あの、聖剣さえ手放させれば、逃げられるかも知れない。
鍔迫り合いになると、シオンが俺を見据えて言った。
「殺してやる……貴様だけは絶対に……」
俺は何も返さない。
シオンは更に続ける。
「国王にバルフレアまで……人を失う辛さが貴様に分かるかっ!」
シオンは激しい怒りの表情を俺に向ける。
攻撃を弾くと互いに一度、間合いを取って、また剣を振るう。
シオンは完全に俺を殺そうとしている。
本気のシオンの剣技に俺は防ぐのが精一杯だった。
やっぱり強いな。
とてもじゃないが、これじゃあ勝てる気がしない。
さすが、この世界の主人公だ。
シオンの連撃を防ぐ中、一瞬俺の黒刀が崩れた。
それをシオンは見逃さない。
崩れた黒刀に再度、重い一撃を振るって、気が付くと、俺の手から黒刀が弾き飛ばされていた。
古びた柄が壁に勢いよくぶつかる。
割れた頭上から夏の夜風が吹き下ろす。
そして、シオンは俺の顔に切先を向けて、
「最期に何か言い残す事はあるか」
シオン……。
俺は言った。
「俺は死ねないんだよ、シオン……お前を殺したくないから……」
「また狂ったか……はっ……現実を受け止めきれずに死ぬとは愚かだな、終わりだ」
そうしてシオンは剣を振り下ろす。
瞬間。
俺は言った。
これはダサくて弱くてカッコ悪い俺の、最後の賭けだった。
「金色の不死鳥よ、守り給え」
刃が俺の身体に迫る。
夏の蒸した空気が背中の汗をさらう。
襲い掛かるその真っ白な刀身に俺はそっと目を閉じた。
その刹那。
「何っ……!」
シオンの驚きと共に、面前に強烈な炎が立ち上がった。
そう、フェニックス。
それは以前、ミネルヴァが言ったあの台詞。
魔力の要らない召喚。
契約を結ばない召喚。
それに俺は賭けてみた所、どうやら成功したようだった。
火柱で前が思う様に見えないが、シオンは身を引き様子を伺っている様だった。
火柱が弱まっていくと、
「…………」
そこには女がいた。
「父上の命は、私が絶対に守ってみせるのだっ!」
そう言って、目の前にいる女は俺の方を振り返った。
オレンジ色をしたロングのポニーテール、やや吊り気味ではあるが大きく澄んだ瞳、細身な身体のラインが浮いて見えるこれまたオレンジ色をしたタイトなショートワンピース。
ミネルヴァまではいかないまでも、目を引く大きな胸を持った美少女だった。
背はミネルヴァやアトよりかは少し大きいか。
いや、なんて呑気な事を考えている場合じゃない。
俺は話しかけた。
「フェニックスだよな……?」
「そうなのだっ! 父上が呼んだから助けに来たのだっ!」
ち……父上?
まぁ細かい事はいい。
俺は更に話を続ける。
「ここから逃げたい。安全な所ならどこでも良い、出来るか?」
「大丈夫なのだ! 大好きな父上の為ならば、私はいくらでも力が湧いてくるのだ!」
フェニックスが嬉しそうに微笑みを向ける。
前方のシオンは剣を構えたまま、動かない。
アリスは突然現れたフェニックスに驚いた様子で、
「あのフェニックスを……契約なしで使役するなんてありえない……やはり貴方は……」
アリスが動揺している。
これはチャンスだ。
そしてフェニックスも機会を合わせたかの様に前方へと手のひらをかざし呟いた。
「転生の炎」
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次回もお楽しみに!




